勝負の行方
「はーい静かに、テスト返すぞー。相田……青島……飯島……宇佐美……』
出席番号は男女問わずの名前順だ。三人の中ではうさやが最初に呼ばれる。
うさやはいつものギャルギャルしい格好でテストを受け取り、席に戻った。
「良しっ、数学満点、あーしもやるっしょ!」
周りのみんなが『おおっ』みたいな顔で見てくるのがちょっと楽しい。
「……沢井……」
響ももらってきた。まぁ、満点だ。
たぬきも満点ということで、数学では勝負がつかなかった。
暗記力勝負の社会科、理科も満点が揃ったものの、残りの国語と英語で明暗が分かれた。
「がぁあ、この読み取り、間違ってる? 答え何? え?」
たぬきが国語で二問落とした。
たぬきは三人の中では一番読書量が多い。そのため国語は以前から得意としていたのだが……
「いや、光源氏は夕霧に攻められて喜んだりしないからっ!」
腐っていた。
「え? だって『彼が私を助けてくれたから、私は彼女とデートの約束ができた』でしょ?なら、He was my WingMan because……」
「なんでそこでウイングマン?」
「え? 助けてくれる人って、ウイングマンじゃないの?」
「響、基地に染まりすぎ……」
なんと響が英語を一問落としていた。
こうして、チャンピオンはうさやに決まった!
うさや……宇佐美彩香はお嬢様である。
元豪族の分家であり、今も近辺では大きな土地を持つ大地主だ。
なんなら響の家の建ってる場所も、元は宇佐美家の土地だった。
世が世ならお姫様扱いされるレベルなのだが、今じゃすっかり世間に染まり、なぜかギャル風味に……
宇佐美彩香は小学生の頃、ストーカーによる被害に遭っている。
当時からとても可愛らしかった彩香は三年生の頃、公園の近くに住む大学生のお兄さんによく遊んでもらっていた。
そう、お兄さんは学校が終わる頃になると公園にやってきて響の帰りを待っていたのだ。
お兄さんの執着は日に日に強くなり、朝に夕にと、頻繁に姿を見かける様になる。
そして、帰りが遅くなったある日、公園近くの茂みに引き摺り込まれた。
声を出すなと脅され、何も抵抗できない状態で乱暴に衣服を剥ぎ取られそうになった。
そこへ、散歩中のワンちゃんが吠えかかり、飼い主の近所のおじさんに発見されたのだ。
時々挨拶をしていたゴールデンレトリバーのラブちゃんがお兄さんにのしかかり、おじさんがすぐに警察を呼んだ。
おじさんとラブちゃんに取り柄さえられたお兄さんは駆けつけた警察官に現行犯逮捕された。
彩香は左足首を骨折し、手首や脛や顔に痣ができ、背中や肘、膝等に擦過傷を受けてすぐに救急搬送され、全治三ヶ月と診断された。
この事件は子供の心に大きな傷を残し、今でも若い男性はかなり怖い。
その代わりおじさん方に安心感を覚えてしまうのは、ラブちゃんのおじさんが頼もしかったからなのか?
その事件以来、うさやは表情を隠す様になり、表情がわかりづらいメイクをする様になっていった。
ギャルの格好してれば誰にも彩香だとわからない。そんな気持ちでギャルうさやが誕生した。
♦︎
「というわけで、二人ともあーしのいうこと聞いてちょね」
「お、おぅ」
今日は宇佐美のお家に来ていた。
建坪だけでも軽く五百坪を超える母屋があり、将来、彩香か紗理奈が家庭を持った時のための離れも有る。小さいながら畳張りの道場もあった。
今はうさやの自室である。子供部屋といってもやはり大きい。軽く三十畳はありそうなフローリングのお部屋だ。
大きなベッドと大きな勉強机。あまり大きくない衣装箪笥とかなり大きなクローゼット。
白くて大きな三面鏡と、スタンドピアノが並んでいる。
本棚も大きいが、半分ぐらいはうさやの好きな『うさぎファミリー』のフュギュアが並んでいたりする。
果たしてうさやの命令はなんなのか……
「じゃ、メイクして」
ん? 何言ってんの? この人。
「たぬきも響も可愛いんだから、軽くでもメイクしたら大化けすると思うし、やってみるし」
「でも、そんなのしたことないから……」
「あーしが全部やったげるから、安心しるっ!」
すっかり使いこなしているアイテムボックスから化粧道具を次々と取り出しながら二人を座らせる。
「はーい、眉揃えるとこから行くよぉ」
まず、たぬきが座らされる。
眉毛を抜かれて、軽く下地を作ってほんのりメイク。スッキリしすぎの一重お目々だけ、すこーし濃い目に……
「って、やばっ! たぬきっちやばっ! これは吉野家がまたうるさくなっちまうわ!」
吉野くんのあだ名だ。
それにしても、なんかすごい美少女が出来た。
「あーしの友っち凄すぎね?」
「確かにこれは可愛い! なんか、卑怯な可愛さだわ」
あ、たぬきがすごく恥ずかしがってる。それがまた可愛かったりして、きゃあきゃあと騒いでしまった。
「というわけでたぬきっち、教えるからきちんと普段からメイクに慣れといてね」
さて、続いては響さんなのだが……
「響っちはねぇ、元が整いすぎててぱっと見冷たく見えちゃうんだよねぇ。普通魔法少女ってこうさぁ、ふんわり感あるじゃん? こんなとんがった氷柱みたいな美しさって、どうなのかなぁ」
「そのくせ中身はヤワヤワなんだけどね」
うさやもたぬきも響が美少女なのは認めつつ……万人ウケしないであろうそのシャープさと、中身のギャップを問題視する。
「これで中身もキレッキレなら、また需要ありそうなんだけど……」
「そのくせ勉強も運動もトップだから、属性の方向性が行方不明なのがなぁ。どうしよ、これのメイク」
それでもなんとか手を動かし、パタパタパタとはたいてみたら……
「中学生には見えないか」
「だね……まず、学生に見えない……というか悪の女幹部だわ。これ」
「あ、あーあー、いるいるっ! 戦隊モノに出てくる際どい服着たお姉さんっ!」
いや、お前ら酷くね? 響、微妙に泣きそうな顔してね? すごく綺麗だけど。
さすがに不憫になったので、一度剥がしてやり直し。今度はちょっと大人ぶってみた女子中学生ぐらいには落ち着いた。
「さて、うさやさんや。あたしら二人からもうさやさんにお願いがあるんだけどさ」
たぬきが切り出した。
「ん?」
「うさやさ、そろそろ、ギャル卒業しよ?」
響も一緒に説得を始める。
「え?」
「うさや、もう随分長いこと護身術習ってるしさ、習志野でも師匠に色々教わってるしさ、いざとなったらビリビリだって覚えたしさ、もう大丈夫だよ。わたしらもできるだけ一緒にいるから。だからね、可愛いうさやになろ?」
「あ、あーし、可愛いし……それに……だって……」
今うさやが襲われたとしても、そこらの男子大学生ぐらいでは相手にならないだろう。
それこそ、複数の相手が武器を持っていたとしても、ほぼ一瞬で制圧できるはずだ。
「うさやが無理してキャラ作ってるのは、みんな知ってるの。時々、失敗してお嬢様に戻ってるしさ」
「仮面はね、被りっぱなしだと、かぶれちゃうんだよ」
「でも……あーし……わたしは……わたしは……」
涙が溢れ出てくる。
怖さ、嬉しさ、憎しみ、愛しさ、悲しみ、笑顔、何もかもがごちゃ混ぜになった感情がこぼれ落ちていく。
「ないてるうさや、可愛い」
「泣いてるうさや見るの、久しぶりな気がするわ。あれ以来じゃない? もしかして」
事件の後も、フラッシュバック的に涙を流すことも少なくなかった。しかし、仮面を被り始めてからはそれも落ち着いた。
でも、それでも心の奥底に閉じ込められた彩香は……
「うさや、泣け。わたしの胸貸してあげるから」
「響の胸……ひっく……それどこにあるの?…」
泣きながら酷いなおい。
中三なら、まだまだこれから成長するでしょ? あれ? たぬきの胸に縋り付いてるよ。両手広げて待ってる響がちょっと可哀想じゃない?
「だって、だって、クッションある方が泣きやすいもんぅぅぅ」
クッションちゃうしっ! ってか、さりげなくたぬきのこともディスってないかこれ?
そして、翌日、正統派美少女と化したうさやが登校してきた。
あと、吉野くんは軽くメイクして大化けしたたぬきを見て、尊死した。
お読みいただきましてありがとうございます。
今回はうさやちゃん回……の筈なのに、なんでたぬきが全部持っていくん?
それではまた、お会いしましょう。




