期末試験
高校入学が確定していても、定期試験はやってくる。
今日はたぬきの家のダイニングで勉強会の真っ最中だ。
「うーん、あーし、頭良くなった?」
「多分わたしも良くなってるわ」
「あー、うん、多分ステータスオープン魔法のせいかな?」
記憶力はもう、気が狂ってんじゃね? ってぐらい猛烈に向上した。流石に瞬間記憶能力者とまではいかないが、読んだ内容をPDFではなく、テキストで保管してるぐらいには覚えている。
そして、それを理解し噛み砕き、定着できるところまででワンセット。
できればその後、一度手を動かして書き出した方がより定着度が上がるかな? 程度だ。
計算力もかなり向上している。脳裏で直接筆算していくぐらいのことはお茶の子さいさいである。
ただ、ここまで急激に能力の変化が図られた場合、通常ならば心に負担がかかり傷害を負ってしまうことも考えられるが……
「その辺も、マイクロマシンにうまいことやられてるんだろうなぁ?」
って感じである。
あとは推論やら応用力なのだが、こちらは流石に訓練が必要となる。しかしそれも、大量の参考書を丸暗記出来てしまう様な記憶力で無理矢理押し潰していく。
「しかも、この『勉強しようっ』って気になるあたりが、改造されちゃった感あるなぁ」
たぬきがお絵描きタブレットもスケブも手に取らず、何時間も勉強するとか今までなら考えられないことで……
「まぁ、その分お絵描きする時も集中するけどねー」
お絵描きの精度も上がっている。
今までならサラサラっと誤魔化していた小物や背景が、やたらと艶かしくなった。
主役の二人を殺さずに、より引き立てる作画ができる様になり、作品の幅が広がった。
って、主役はいつも二人なのね。
『ラブラブカップル大正義よ、当たり前じゃない』
性別はいつもひとつなのにな。
『うっさいわっ!』
たぬきの家は普通の農家だ。ニラとポテチ用ジャガイモを主に作っている。
家族構成は両親と祖父母、自分と弟の六人家族。
農家だけあって家はそこそこ大きい。当然自分の部屋もあるのだが、弟が割と勝手に出入りするので危険物を置いておけない……そう、薄い本たちである。
今までは押入れの上、天井裏に隠してあったのだが、アイテムボックスが使える様になって格段に安全性が上がった。
季節によっては、両親共に畑に行ったきりになってしまうため、おばあちゃん子として育った。今でも家に帰ればおばあちゃんに甘えまくるが、弟とおばあちゃんの取り合いになったりもする。
農作業は大変な仕事だ。
今の時期は、ニラは休眠期だがジャガイモが出荷のピークに近く、おばあちゃん以外の大人は顔を見る時間すらないほど忙しく働いている。
あ、お母さんの弟、染谷聖一は、詠美の顔を見に暇さえあればやってくるが……
聖一おじさんの本業は消防官だ。農繁期にはシフトが空いていれば手伝いにも来てくれる。
そしてたぬきにかまいに来る。
「詠美ー、差し入れだぞー」
今日もやっぱりやってきた。いや、たぬきのこと好きすぎじゃね?
けどまぁ、差し入れは歓迎である。何と言っても育ち盛りの三人だ。たぬきだって、口ではダイエットダイエット言っているが、甘いものをいつも持ち歩いてる意志の弱さだ。
聖一叔父さんはよっこいしょーと、土間の三和土からダイニングの床に腰を下ろす。
たぬきの家は農家らしく、キッチンのある土間とダイニングが隣接した作りをしている。
「こっちの袋はアイスだから冷凍庫に入れてやってな。こっちはいつもの」
たぬきが立ち上がって、叔父さんありがとってお礼を言いながらレジ袋を受け取る。
冷凍庫に入れるためには、一度土間に降りないとならない。
ヒョイっと聖一の肩に掴まり、土間のサンダルに足を通す。
この、ヒョイっと掴まれるのが至高の感覚なのか、聖一叔父さんの表情がやばい。
たぬきは冷蔵庫にアイスをしまい、またまた叔父さんに掴まってダイニングに上がる。
「じゃ、これもありがたく貰うね。ありがとっ」
もう一袋のレジ袋を持ちテーブルへと戻る。
中身はよく戦争の起こるタケノコとか、板チョコにクッキーが貼り付いたアレとか、一口羊羹とか、甘いものばかり。もうひたすらたぬきの趣味に合わせたものたちだ。
ちなみに、たぬきとうさやはタケノコ派、響はきのこ派である。
「どう? テスト勉強は進んでる?」
「すっごい進んでるよ。何でも教えてくれる響がいるから、ほんと便利」
「あはははは、響ちゃんはちっちゃい頃から物知りだったもんねぇ」
幼少期からこの家に出入りしていたため、当然響のことも良く知る叔父さんだった。
「さて、もう少し働かないと姉貴にどやされる……じゃ、行ってくるわ」
「聖一叔父さん、ありがと。行ってらっしゃい」
「聖一さん、いつもご馳走様です」
「叔父さま、ありがとうございます。いただきますね、行ってらっしゃいませ」
ギャルのカッコのままお嬢になってしまううさや。
聖一はギャル化する前から世話になっている大人なので、きちんと大人の対応出来る良いギャルなのだ。
「じゃ、ちょっと休憩しよっか」
おやつがくれば当然こうなる。テスト勉強で頭の糖分使ったし、やっぱり補給は必要でしょっ!
たぬきは、冷蔵庫からいつも作ってある麦茶を取り出し、三人分のマグカップへと注ぐ。
「あーし、この板チョコとクッキー、剥がしてバラバラに食べるのが好き」
うさやさん、気持ちはわかる。
ポリポリポリポリポリポリポリポリ……
ひたすらチョコフレークを齧っているのは響だ。
食べ方はリスっぽいのに、身長が有りすぎて齧歯類に見えない。どちらかというとオオアリクイっぽさが漂っている。
いや、どんなイメージだよそれ。
たぬきは……普通だ。普通に可愛らしく食べている! お茶も可愛らしく飲んでいる!
いや、三人の中で一番モテるってのは伊達じゃないんだなぁって、感じさせる所作だ。
きちんと教育を受けてるのはおそらくうさやだと思われるが、素の動きが可愛らしいのだ。
これは多分、才能なんだろう……
「ふいー、お腹いっぱいだし、今日はおしまいっ!」
いや、うさやさん、それで良いの? 試験勉強はっ?
「問題ないっしょ。これは間違いなく一学期と比べたら成績爆上がりだし!」
「それはそうだねぇ。なんかもう、無駄に全能感感じてるよねぇ」
二人とも、もう満足してしまったっぽい。教師役の響さんはいかがですか?
「二人はわたしが育てたっ!」
いや、多分育てたのは二人のご両親とマイクロマシンだわ。
「まぁ、この感じなら良い成績取れるでしょ。あたしゃ負けないけどね!」
微妙なところで負けず嫌いの響さん、張り合い始めました。
「お、響っちも言うねえ。じゃ、三人で勝負しよっ! ハンデなしのイーブンで」
「うさやも勝つ気満々だね! たぬきは?」
「いいよ、やろう。一番成績良かった人が二人に何でも命令出来る権もセットで! あ、常識的な範囲でね」
こうして、中学生らしい可愛らしい勝負が始まった。
試験は明後日の月曜日から。負けられない戦いが、今始まる!
お読みいただきましてありがとうございます。
試験勉強……なんであんなに漫画読みたくなったら、掃除したくなったりするのでしょうね……
それではまた、お会いいたしましょう〜




