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夏祭り

 夏だ、祭りだ、花火大会は無かった!


 それでも受験生にとっては貴重な息抜きの時間である。

 響、うさや、たぬきにとっても貴重な息抜き……いや、こいつら受験勉強してるか?

『してます』

『してるし』

『教えてます』

 してるらしい。響は講師役みたいだが。


 と言うわけで、三人示し合わせてお祭りに来ました。

 みんなで相談して浴衣で来たのは良いものの、やっぱりちょっと歩きづらい。普段草履なんて履いてないから。

 

「じゃ、何から食べる?」

 響さんや、一手目から食べ物ですか。

「クレープ食べたいけど、最初じゃないなぁ。りんご飴かチョコバナナか……」

「お腹すいたし。あーしは焼きそばっ」

 たぬきとうさやで意見が割れた。と言うかたぬきさん、甘いもの好き過ぎ?


「んじゃ、全部行こうぜへいっ!」

 調子に乗った響が端から回ろうとするのを二人がかりで止める。

「響、お腹の容量考えて! 絶対食べきれないから!」

 しかし、魔法少女は一枚上手だ。

「食べきれなかったら、アイテムボックスで半永久保管できるよ!」

 アイテムボックス!

 三人は目についた好きなものを買い漁り始めた。

 今時の夜店は結構お高い。しかしアルバイト料の入る響も、家がお金持ちのうさやも、何の躊躇もなく手を伸ばしている。

 たぬきは時々悩むような顔をしながら、それでも割とポンポン買っていく。普段は画材ぐらいにしかお金使ってないので、お小遣いは貯まってる?

『いや、画材高いよ? カラーペンのセットだけで軽く三ヶ月分吹き飛ぶよ? 夏と冬には印刷代もかかるし、3Dタブレットも欲しいし……』

 ならどこから工面してるの?

『叔父さんが、今日の小遣いだって割とたくさんお小遣いくれたの』


 どうやら母の弟が、たぬき大好き過ぎるらしい。

 たぬきが生まれた時に高校生だった叔父さんは乳幼児だった頃からたぬきにメロメロで、今でも何かとお小遣いくれたり服を買ってくれたりと甘やかしているそうだ。

『今日の浴衣も実は叔父さんが』

 どんだけ甘いのやら……


「あのピカピカしたジュース飲まない? 飲み終わったら光るブレスレットになるみたいだよ』

「屋台といえば金魚すくいっしょ! あーし、そこそこできるよ!」


 うさやは金魚すくいが得意だった。屋台の薄いポイでも二桁行くことが珍しくない。

 ただ、連れ帰った金魚を自宅の池に放すので、家族からはあまり推奨されていない。

 何百万もする錦鯉と、屋台の金魚が一緒に泳いでるとか……


 そんなこんなでお祭りを楽しむ三人。

 時々同級生と会ったり、弟や妹が登場してきたりとお祭りっぽい雰囲気に浸っているところに、警報が出た。

 十秒吹鳴二秒休み、十秒吹鳴二秒休み

『こちらは、小美玉市です。与沢地区で、魔物が、鶏小屋を襲っていると、通報が、ありました。付近の、住民の方は、家屋から、出ないように、してください。くりかえし、お伝えします……』

 防災放送の合成音声が鳴り響く。

 家から出るなと言っても、今はお祭り中だ。たくさんの人々がここ、霞ヶ浦湖岸の大井戸湖岸公園に集まってきてしまっている。

 与沢地区はここから3kmほど先ではあるが、このような放送の後には人々の恐怖が伝染しパニックが発生する可能性が……


「うさや、たぬき、群衆に巻き込まれないように避難して! 必要ならイグナイトなりなんなり使ってでも身を守って。わたしは行ってくるよ」

「響、気をつけてね」

「大丈夫! 並の魔物なら問題ないから!」

 実際は並じゃ無くても問題ないが、まぁそこまで言わなくても良いだろう。


 響はヘルメットを取り出しながら駆け出し、物陰に飛び込んだところから空へと上がった。

 一瞬、風の膜の制御に失敗して浴衣が乱れそうになる。

「うぎゃー! と、とりあえず帯引っ張って……」

 なんとかそれ以上崩れないように固定する。

 そして、オリーブドラブ色のヘルメットと華やかな浴衣が絶妙にアンバランスなまま、高度を上げていった。

 

 超センスの網を広げていくと、思ったよりもずっと近くに魔物の気配を見つけた。

「一角狼の群れかぁ、鶏小屋、随分やられちゃってるなぁ……」

 一角狼は狼系の魔物の中では、比較的対処がしやすい部類である。

 とは言っても普通の人間が一対一で立ち向かえるわけでも無く、群れともなれば自衛隊か魔法少女にしか対応できない。


「理沙さんに連絡取れるかな……『百里コントロール、響です。魔物警報により上がってます』」

 ヘルメットのレーザー無線スイッチを入れ、基地に呼びかける。百里コントロールはほんとにすぐそばなので、届くはずだ。

『百里コントロール、響です。聞こえますか?』

 .

 .

『響、百里コントロール。どうした?』

『よかった、百里コントロール、響です。魔物警報で上がりました。現在魔物から2kmほどの場所です』


 辺りはすっかり暗くなっているが、響の脳内には周辺一帯の状況が手に取るように『視えて』いる。


『魔物の数は三十二頭、一角狼の群れと判断しました。対策室の指示を仰ぎたいです』

『響、百里コントロール。確認を取る…………ガチャガチャ……響ちゃん? 美智子です。十七時過ぎちゃってるから響ちゃんは待機してもらえるかな?』

 労基法!


 しかし、時間が経てば経つほど鶏は襲われるし、人の被害だってあるかもしれない……お祭り会場までは、もうあまり距離はない。


『了解しました。じゃ、わたしは今、自由時間ってことでっ! エンド』

『響ちゃん? 響ちゃん⁉︎』

 

 自由時間、生かすも倒すもわたし次第!

 となれば、やることは一つだ。

 この辺りは畑や田んぼが点在しており、今の時期に田んぼにダメージが入るような討伐をすることはできない。となると遠くからの狙撃はやめた方が良いか。

 かと言って、浴衣のまま光の剣でバッサバッサ叩き切るのもどうなん? となると……


 すーっと高度を落とし、群れに近づく。


「マーク」


 一角狼を一匹ずつ識別、それぞれ心臓の位置を把握してマーキングする。

 全頭マークが終わればあとは簡単。

「イグナイト!」


 ギャンっ!


 心臓の洞房結節を電気破壊する。

 心臓を拍動するための電気信号が遮断され、心筋が弛緩し血流が止まる。

 血流が完全に止まれば、真っ先に止まるのは大量の酸素を消費する脳である。

 

 勝負とも呼べない、一方的な殺戮であった。

 もっとも、響が出動した場合は毎回必ずそうなっているのだが……


『百里コントロール、響です。なんだかよくわからないけど魔物が全数、一斉に倒れ動かなくなりました。以上報告終わりっ!』

『ひーびーきーちゃーん? 今度は何したのぉ?』

『な、なななな、なんにもシテイナイデスヨ』

『はぁ、全くもう……ありがと』


 これで魔物の方はあとは基地に任せればオッケー。ただ、まだ避難中の人々が事故を起こさないように警戒していく。

 魔物を全数倒した事を役所が確認しない限り、避難行動は続けなければならない。

 まずは大事なお友達がどこにいるか……いた。

 うさやもたぬきも響によってマーキングされているため、その気になればどんな人混みからでも見つけ出すことができる。

 二人の近くの遮蔽物裏に舞い降り、駆け寄った。


「ただいまっ!」

「おかえり響。どだった?」

「ん、全部倒してきたからもう大丈夫。心配しなくていいよ。一角狼が三十二匹、鶏小屋が随分やられちゃった……」

「そっかぁ。あの辺養鶏農家ばっかりだもんねぇ」

「そうだねぇ、養鶏場とじゃがいも農家と米農家ばっかりかな……」

 あと、基地な。


「さぁ、もうお祭りどころじゃないから帰ろっか」

「だぁね。うちの紗理奈とたぬきのとこの浩太は、どっかいるかな?」

「あ、わかるよ。うさりちゃんは真ん中の四阿の裏でお友達と一緒かな? 浩太くんは管理事務所の駐車場だね。どっちからいく?」

「じゃ、浩ちゃんからにしよ。紗理奈はいきなりそこからいなくなったり、しないと思うし」


 こうして夏祭りは過ぎていった。

 それにしても、夏休みイベントのたびに魔物に邪魔されてる気がする。やはりこれも、映像映えを潰そうという世界の意志なのだろうか……

 夏だ! 浴衣だ! 


 浴衣のまま飛ぶ魔法使いも、なかなかシュールかもしれません。

やはり、下着は……レーティング的には、きちんと履いてると思います。はい。


 楽しんでいただけたのなら幸いなのですが……


 それではまた、お会いいたしましょう。

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