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新学期

 夏休みももう終わる。

 明日は始業式。夏休みが終わると周りは一斉に高校受験モードに切り替わるだろう。

 

 うさやとたぬきの進学先は当然だが響と同じ学校である。

 響は地元の公立高校へと進学する。県立高校の中に、国立学部を創設するという荒技で誕生した『茨城県立中央高等学校国立魔法学科』だ。


 と言っても、魔法使いなんてそうそう何人もいない。県内で現在高校受験生の魔法使いは、響、うさや、たぬきの他には二人だけ。この二人はそれぞれ一応の攻撃魔法を持っているらしい。

 そして、この五人は入学試験は受験するものの、すでに合格が確定した状態になっていた。


 夏休み前まで、うさやは『中央高校普通科』を希望進学先としていた。

 小美玉市内にある唯一の高校だったため、最寄り高校を選ぶと自動的にそうなるのだ。

『響も同じ学校だねー』

 とか言っていたら、夏休みになったら学科まで一緒になった……解せぬ。


 ただ、最寄り高校とは言っても、地味に遠かった。

 スクールバスが出ているためそれに乗れれば問題ないのだが、乗れなかった時のダメージは大きそうだ。


 今日は夏休み最終日ということで、楽しむために三人で集まって……君らなんで基地にいるの?


「理沙さん理沙さん、お菓子とジュース持ってきたから、みんなで食べよっ」

 中学生三人……プラス麻紀さんが大量のお菓子と共にやってきた。

「いやいやいやいや、わたし仕事中よ?」

「あら、奇遇ね。わたしも仕事中なのよ」

 

 麻紀さん、それでいいの? あなた内閣府のエリートキャリア組でしたよね?

『そんなの響ちゃんと遊ぶことと比べたら、無価値もいいとこでしょ?』

 おねショタならぬ、おねロリ? レーティング的にあまり嬉しくないんですが?

『いいの。清らかな交際だからっ!』

 多分、交際してると思ってるのあなただけゲフンゲフン。


「お菓子パーティするって聞いてたから、わたしも持ってきたわよ」

 麻紀がケーキバッグを事務机に置いた。帝国ホテルのホテルショップのものだ。

「うっわ、めっちゃ高級品っ! お茶、すぐお茶淹れるわ」

 理沙さんも甘いものには目がないようだ。

 慌ててお湯を沸かしにかかった。

 中学生三人もすっごいガン見している。お金持ちのうさやでも、あまり見ないもののようだ。


 お茶といっても基地の中だ。大したものが用意できる訳もなく。安売りティーバッグで淹れる紅茶では、ケーキに負けてしまうだろう。

 ティーカップを五つ用意してお湯を注ぎ、カップの温度を上げていく。

 温まったらお湯をあけ、ティーバッグを放り込んで再びお湯を注ぐ。

 視界の隅に浮かび上がるタイマーを二分にセットして、蒸らす。


「はぁ、生活魔法、便利ねぇ」

 しみじみと理沙が言う。

「お湯だってさ、今は湯沸かしポットがあるけど、無くても用意できちゃうのよね……」

 ただ、水魔法で出したお水は基本純水だ。そのまま飲むと味気ない……と言うか、なんとなくプラスチック感があるのであまりおいしくはない。


 タイマーのカウントがゼロになったので、ティーバッグを取り出していく。

「牛乳はあるけどレモンはないから我慢してね」

 牛乳パックを冷蔵庫から取り出し、シュガーポットと一緒に机の上へ。

「じゃ、好きなの食べて食べてー。あ、響ちゃんにおすすめはこの桃のケーキ」

 美味しそうな多種多様なケーキがずらりと並ぶ。


「じゃ、夏休みが無事に終わったことを祝って!」

 麻紀が音頭を取る。

「めっちゃきつい訓練が終わることを祝って!」

 夏休み中、すごく小波さんに可愛がられたたぬきである。

「来年の夏休みを心待ちにできることを祝って!」

 響さん、あなたどんだけ夏休み好きなの?

「夏休み、ああ夏休み、夏休み」

 響芭蕉かっ!

「いや、普通に夏休み終わるの悲しいっしょ」

 常識人がいてくれたよ! うさやいい子だ!

「何これ、わたしも何か言わなきゃなんない流れ?」

 理沙さんちょっと目がきょどってます。言い出しっぺが麻紀なんだから気にすんな。


 そんな流れで美味しいケーキと楽しいお話とで、夏休み最終日は過ぎていった。


        ♦︎


「……これで、始業式を終了します」

 始業式が終わるとすぐ授業。カリキュラムはいつもギリギリだ。稼げるところで稼いでおかないと、感染症の流行一発で単位足りなくなりかねない。


「にしても、最初の授業から数学のテストって、どうなん? ねぇ」

 うさやがぼやくのも仕方がない。誰だって夏休みボケのままテストなんて受けたくはない。頭がお勉強モードになってくれるまで、時間がかかる人も多いのだ。


「え? あれ? なんかめっちゃスラスラ解けるし、何なら考えるのが楽しい? あれ?」


 うさやもたぬきも、ここしばらくの魔法訓練で全身にマイクロマシンが行き渡っている状態である。

 マイクロマシンは身体を健康に保つだけでは無く、身体を積極的に作り変えてより効率を求めることもある。

 急にテストと言われた時でも脳内物質のバランスに干渉し、より『考えることを厭わない』状態を作り出す。

 まだ干渉し始めてから日が浅いため、脳の他次元展開まではしてはいないが、脳内シナプスの最適化や記憶の整理には手をつけられていた。

 将来的には記憶や演算処理の他次元への展開を始めることになるだろう。


 夏休み中に響に数学を叩き込まれたのも効いている気がする。判る……判るぞっ! 解ける、解けるぞっ!

 うさやもたぬきも、無駄な全能感に包まれていた。


「はい、そこまで! じゃ、後ろから前に回して」

 教師の指示でテストを前に送る。それにしても過去にない満足感を感じるテストだった。

 

「あーし、勉強好きになりそうかも……」

「わたしも思った。響はいつもこんな世界でテスト受けてるの?」

「いや、どんな世界かわかんないよそれ……まぁ、数学とかだと息するのと変わんないかなぁ。式の組み立てがパズルみたいで楽しいことはあるけど」

 そのパズルだって、響の空間認識能力の前では、だいたいイージーモードになってしまう。

 白一色の不定形1,000ピースパズル『スピルトミルク』を五時間もあれば組み立ててしまうのだから。


 そのまま、無事に三限四限とこなし、今日は半ドン、また明日。

 明日からはもう完全に通常の授業だ。中学生でいられるのも、あと半年。さぁ、悔いなく過ごすぞえいえいおー!


「あ、そうだ……習志野の小波師匠から連絡あってね、これからもびしびし行くから必ず訓練に来なさいって」

「え? えええええええっ!」


 夏休みは終わっても、彼女たちの熱い青春は終わらないらしい。


「いやこれ、青春違うっしょっ! あーれー」

 夏休みが終わるのは、本当に悲しかったです。

 ただ、残った宿題の処理の前ために、最終日には感情に浸る暇はありませんでしたが……


 皆様は夏休みが終わる時はいかがされていたでしょうか……


 それではまた、お会いいたしましょう。

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