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海へ

 お読みいただきましてありがとうございます。


 なんで巨大生物って原発とか、石油コンビナートとかに寄っていくんでしょうね……


 楽しんでいただけたなら幸いです。

 それではまた、お会いいたしましょう。

海へ

 夏だっ! 海だ! 海水浴だっ!


 そう、夏休みといえば水着回である。

 響はたぬき、うさやを誘って海にやってきた。

 大洗海水浴場。小美玉市からは車で一時間程度の場所だ。


 車はうさやの家に出してもらった。

 最初に百里の基地司令にお願いに行ったら、マイクロバスが出てきたのでお断りしてきた。

 中学生三人が遊びにいくのにマイクロはないだろう……

 続いて習志野で聞いたら、三トン半トラックが出て来た。

 いや、自衛隊色したトラックの荷台で海に行くとか、どこの水陸機動団だよ……


 というわけでうさやの家にお願いしたところ、ミニバンのリムジンが出て来た。

 ストレッチされたトヨタのミニバンとか、それはそれでおかしいだろ! とは思うが、深緑の六桁ナンバートラックに乗っていくより随分マシということになった。


 メンバーは女子中学生三人と、うさやの妹、紗理奈。たぬきの弟、浩太。

 保護者としてうさやの母、恋歌と理沙、美智子。運転は恋歌さんが受け持ってくれている。

 全長6m近いリムジンミニバンを華麗に操るお母さん、めちゃくちゃかっこいいな。


 海水浴場の駐車場に車を止める関係で、百里基地の正門前に朝七時半に集合する。一般の乗用車ならまだまだ止められる時間なのだが、いかんせん車が大きすぎて止められるスペースが限られているのだ。


「海、楽しみだねー」

 響が楽しそうに言う。

 うさやの妹、紗理奈ちゃんは中学一年生。たぬきの弟、浩太くんも同じ中学一年生だ。

 姉同士が頻繁に家を行き来しているので、二人も小さな頃から一緒に遊ぶ幼馴染である。


「響お姉ちゃんは泳げますか?」

 紗理奈ちゃん……通称うさりちゃんが可愛らしく聞いてきた。

 うさりちゃんは、ギャル化する前のうさやにそっくりである。今でもうさやのメイクを落として髪の色を戻せば、すごく良く似た姉妹に見えるであろう。

「泳ぎは割と得意かな? 25mプールなら3秒ぐらいで……」

 いや、それオリンピックレコードの四倍ぐらいの速度なんだけど……


「さ、彩香お姉ちゃんは泳げるの?」

 今度は浩太くんが聞いて来た。


 浩太くんは、小さい頃からうさりのお姉ちゃん、彩香お姉ちゃんのことが好きだった。

 むしろ、彩香お姉ちゃんに会いたいからうさりと仲良くしているまであった。

 しかし、この年代の二年差は大きい。特に浩太は子供っぽい雰囲気が抜けず、中一になった今でも五年生ぐらいに見られることが多い。

 もっとも、そんなところが大きなお姉さん方にはウケてる様だが、うさやにはイマイチ刺さらない様である。


「あー、あーしはねぇ、25m泳ぎきれないね。途中で足ついちゃってさ」

 習い事はたくさんしていたが、スイミングには通っていなかったらしい。

「そ、そっか。じゃ、僕が教えてあげるよっ」

 浩太くんは25m泳ぎ切れるそうだ。もっとも、泳ぎ切ったらしばらくはハァハァしてるみたいだが。


「はーい、もうすぐ着くからみんなそろそろ準備してー。お菓子の袋とか、今のうちに片付けちゃって」

 宇佐美のおばさ……恋歌さんがみんなに声をかける。ワイワイ騒いでいた子供達も、最後尾でうたた寝していた理沙と美智子も、ソワソワと動き始めた。


 場所は以前、響の初陣となった涸沼(ひぬま)のすぐ東側。海沿いの国道五十一号線から県道二号線へと右折すると、曲がってすぐの駐車場への入場行列に並ぶ。


 と、突然サイレンが鳴り始めた。

 ヴーーーーー、ヴーーーーー、ヴーーーーー

 十秒吹鳴、二秒休み、十秒吹鳴、二秒休み。魔物が出た時の全国共通サイレンである。

 

「響ちゃん!」

「はいっ、確認しますっ!」

 響は一気に超センスを広げていく。

 すると、海岸線より4kmほど先に大きな何かを捉えた。

「沖合4kmに何かいますっ。初めての反応なのでわかんないけど、すごく大きいです。長さ100m以上ありそうです」


 長さ100m。今まで世界各地で何度も捉えられてきた巨大海蛇か?

 時々現れては船などを襲い、すぐにまた海に沈んでしまうために正体不明とされている魔物。

 目撃証言や撮影された映像から、巨大海蛇と呼ばれている。


「響ちゃん、哨戒行ける?」

「行って来ます!」

 前髪を掻き上げた状態でアイテムボックスから取り出したヘルメットをかぶり、顎紐を締める。

 理沙と美智子もヘルメットを取り出してそれぞれ装備した。

 響はミニバンのスライドドアを開け、後ろを振り返った。

「じゃ、行ってきます。レーザー立ち上げておきます」

 言い残してそのままふわりと浮かび上がり、一瞬後には凄まじい勢いで飛び出していった。


 美智子は最寄りの公衆電話を探しに走り出した。この辺りにはレーザー中継ができる施設がないため、異世界生物対策委員会本部との通信を確立するためだ。


 理沙はその場で響の管制を開始する。

『響ちゃん、こちら小川。聞こえてる?』

『理沙さん、響です。感度良好(メリット5)、聞こえてます』

『相手は確認できた?』

『今、真上まで来ています。相手はこの真下、水深80m辺りを漂うように斜めに陸に向かってます。長さは140m超えるぐらいかと思います。太さは7-8m。蛇というより、ウツボ?』

『了解。引き続き監視お願い』

『あの……チャージ砲使っちゃえば倒せると思うんですけど、許可取れないですか?』

『あー……岸から距離あるから大丈夫かな? 本部と連絡取れ次第確認するわね』

『お願いします』


 チャージ砲。一点に集めたファイアーボールを、幾つも幾つも重ねていく凶悪な魔法である。

 実験の度に多量の放射線を撒き散らすため、発射には組織の長の許可が必要になる。

 異世界生物対策委員会の母体は内閣情報調査室。その母体は内閣府。そして、その長は内閣総理大臣だ。


『理沙、美智子よ。本部と繋がったわ』

『美智子、理沙了解。海中目標へのチャージ砲の使用許可取れるか聞いてもらえるかしら? 対象は水深80m、沖合4kmなので放射線の影響はほとんどないと思われますって』

『了解』

 と言っても、公衆電話回線にレーザー通信のデータも割り込ませているので、理沙や響からの情報もそのまま本部に繋がっている。


 当初水面上に現れた後、現在は潜っている魔物だが、徐々に海岸に近づきつつある。

 付近には魔物警報が出されているため、一般車が一斉に内陸へ向かい始めた。


「宇佐美さん、みんなを乗せたまま、すぐ避難してください。わたし達は大丈夫ですから」

「わ、わかりました。ご武運を……」

 恋歌が目礼してからリムジンを行列から抜けださせるが、いかんせんホイールベースが長すぎてUターンが難しい。

 そうこうしているうちに、逃げようとする車たちも増え始め車列が全く動かなくなってしまった。


「あーもう、魔物ちゃんこっちこないでよ……」

 理沙は何にというわけではないが、祈りを捧げた。考えるの面倒だから、実家の隣の神社に祈っとこう。


『小川担当官、こちら本部岡田だ。首相は今車両移動中の様で連絡が取れん。現地の状況は?』

『岡田主幹、こちら小川です。対象は大洗サンビーチ沖を南西方向へゆっくり移動している模様です』

『南西なんだな? まずいな……』

『南西には何が?』

『原子力研究所だ』


 日本原子力研究開発機構、大洗研究所。

 日本の原子力発電の新技術を実証する原子炉が建ち並ぶ施設である。

 五年前に臨界を迎えたIECF型熱核融合炉は、これから半世紀の日本のエネルギー確保のための重要施設だ。

 また、廃炉の進んでいないナトリウム冷却炉なども残ったままだ。

 万が一これらが巨大生物に襲われたりした場合、日本の広い範囲に放射性物質が降り注ぐ可能性もないとは言えない。


『響くん、岡田だ。指示があり次第いつでも撃てるように準備を頼みたい。出来るか?』

『岡田主幹、響です。こちらはもういつでも行けます。指示が来たら五秒で倒します。どうぞ』

『頼もしいな。では許可が取れ次第連絡する。エンド』


 巨大な魔物は、刻一刻と岸に近づいて来ていた。

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