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夏休みの宿題

 もう、高校入学が確定していても宿題は出る。

 と言っても、クラスの大半は受験生なので、それほど大した量ではないが……


「あ、理沙さん、お邪魔してますー」

「お邪魔してます」


 たぬきとうさやが分駐所に来ていた。

 って、ここ、自衛隊の基地の中よ? そこら中に機密情報溢れてるのよ? なんで中学生が入り浸ってるん?

「だっておねーさんたち、みんな優秀っしょー。しかも優しくてきれーとか、もうすぴすぴのすぴっしょ!」

「魔法少女響のアニメ化で、原作やりたくて」

 いや待てお前ら!

「それに、門番さん?、いっつもすぐに入れてくれるしー」

 いや、そうなん? そりゃ身元保証がきちんとできりゃ入れないことはないけどさ、見学コース外は部外者立ち入り禁止よ? この、隣のアラートハンガーとか普通は入れないよ?


 響が

『将来有望の友人と学習をしたい』

 と訴え出た時、周囲の反対を抑えて学友の入場を認めてくれたのは、この春から赴任してきた新しい基地司令であった。

 おかげで今、皆で宿題を進める事ができている。


 もっとも、響はひたすら教える方の係である。たぬきもうさやも成績は悪くはないが、響が飛び抜けすぎている。

 帝大卒の担当官に頼ることもなく、宿題はサクサクと進んでゆく。


「あー、たぬ、それ違うね。三人称の過去形だけど、複数形だからhasじゃなくてhave使わないとダメかな? 多分通じるけど、テストだとバツだわ」

「うー、ムズイよぅ」

「この基地にいれば、大体みんな英語できるから英語生活もできるよ? やってみる?」

 理沙も美智子も当然できる。海外での学会とか、英語が標準語だし。

「飛行士の人もみんな大体できるし」

 ただ、発音はかなりクセがある人も多い……

「なんなら司令のとこ行くと、絶対可愛がってくれるよ?」

 

 新しい司令の平空将補は……少々ロリコンの気配がする。

 怖いもの知らずの響が本人に聞いたところ

『僕は悪いロリコンジャナイヨ……』

 と言っていたらしい。


「だから安心して習いにいけばいいと思うよ?」

 いや、行けるかぁっ!

 たとえ安全だろうが、怖いわっ!


 もっとも、平空将補は本当に良いロリコンなのだ。更に、中三女子ともなると賞味期限も切れかかっており、より安全に……ダメだ、安心できる要素が全然ないわ。

 ただ、手出ししたりすることはない事は誓っても良い。ただひたすら少女たちを崇めるだけなのだ。


「響っち、あーしの数学も見てくり」

 うさやが因数分解の例題が書かれたノートを寄せてきた。ふわっと香水の香りがする。

「あー、これはねぇ、展開して共通因数探したほうが早いやつだねー」

 一項目ずつ解説しながら、丁寧に解いていく。

「あー、やっば響っちの教え方はわかりやすいっぴ」

 なんのことはない、理沙たちに教わった方法、そのままやっているだけだ。

 ただ、計算そのものは全部うさやにやらせる。なぜならば計算の苦労は響には存在しないからである。魔法つよい。


「ついでに、訓練もしてかない? ダイエットにもなるよ?」

 響が二人を誘ってみた。

 

 ダイエットと聞いてたぬきがぴくりと反応した。

 響とうさやがかなりスレンダーなこともあり、たぬきは少々ナーバスになっていた。

 

 実は男子生徒からの人気は、この三人の中ではたぬきがダントツなのだ。

 クラス内で人気投票すれば、三位以内は確実。太っているわけではなく、肉付きよくバランスが取れたスタイルである。

 ただ、いつもつるんでいる二人が『ガリンコチエ』過ぎるので、自らのスタイルを誤解した状態が続いている。

 こんなに人気があるのに、告白されたりなんだり……みたいなイベントが一切ないのには理由がある。

 クラス全員、たぬきが腐っていることを知っているからだ。

 たぬきに告白なんてした日には、絶対に腐った漫画を描かれると、全員が『正しく』理解しているからだ。

 鎖骨のあたりまで垂らした黒髪と、一重だけどスッキリした目。華やかさはないが清楚な雰囲気の美腐女子。


「わ、わたしも訓練していいですか?」

 樽木詠美、実はモテモテになりたかった。

 誰にモテたいって訳ではないのだが、モテてみたかった。

 実はモテモテなのに誰一人として教えてくれないから、自分はモテないと思い込んだ面倒なパターン

『響ちゃんみたいな残念女子だって、告白されたことあるのに……』

 残念言うなっ!

 ってか、あれは男子の罰ゲームだったらしいぞ。命懸けの。


「ダイエット……わ、わたしもやってみようかな、訓練……」

 たぬきちゃんダメっ! それは響の罠だ!

「あー、ならアーシも!」

 うさやさん、あなたダイエットとか必要ないですよね? 筋肉モリモリの響より、よっぽどガリガリじゃないですか!


「理沙さん、ご飯食べたら三人で訓練行きますねっ!」

「あー、はいはい。じゃ、あっちには手加減するよう言っとくわね」


 こうして、響の友人二人の訓練デヴューが決まった。


        ♦︎

 

「って、えええええ? ヘリコプター⁉︎」

「うん、最初の訓練はやっぱり習志野だと思うんだ。師匠にも紹介したいし!」

 以前響が使っていたヘルメットを二人に装着してもらい、安全のためにローターを止めているUH-2(ユーツー)へと向かう。

 普通の女子中学生はヘリコプターなんて乗ることは、まずない。あってもせいぜい、観光地の遊覧飛行程度だろう。

 そのため、たぬきもうさやも興味津々の表情のまま、機体へと近づいた。

「ここ、段差大きいからね、手すりつかまってて、押し上げるから」

 乗り慣れている響にとっては訳のない搭乗口の高さも、初めてだとかなり戸惑う。二人の腰の高さ近いのだ。それこそ『よっこいしょー』と掛け声をかけたくなるレベルの高さだ。


「はい、じゃ座ってこのベルトつけてね」

 響が二人に指示を出し、インカムで操縦士に準備ができたことを知らせる。

 機長が了解の合図として右手を挙げてエンジンスタート手順を進め始めた。


「ひ、響っち、ドア! ドア開けっぱなしっ!」

 ギャルのくせに育ちの良いうさやが指摘する。

「でも、開けとかないと閉塞感すごいの、このヘリコプター。慣れてないと怖いかも」

「いやいやいやいやいや、ドア空いてるほうが怖いっしょっ! だって、落ちたらっ!」

「ベルトしてれば大丈夫だって」

「響っち、ベルトしてないでしょーがっ!」


 ローターの回転数が落ち着き、機体が空へと進み始めた。

「あー、わたしはねえ、落ちてもへいきだから……」

「あーしらの心臓が持たないしっ!」

 響は渋々と扉をスライドさせ、がちゃんっと閉鎖した。


 夏休みの宿題、第二弾がこれから始まる。

 

 お読みいただきありがとうございます。


 とうとう同級生が巻き込まれ始めました。まあ、響の周りは安全なんでしょうけどね。


 次回は師匠とご対面?


 それではまた、お会いいたしましょう

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