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夏休みの活動

 中学三年の夏休み。普通の中学生ならば、高校受験の準備で大忙しではなかろうか。


「じゃ、響ちゃんは今日は訓練待機ね」

 響の中学校は夏休みに入った。

 

 響は来年から、地元の公立高校に進学する予定だ。この高校も国による手が入り、カリキュラムが臨時出動対応になっていたり、機密保持が自衛隊並みになっていたりする。

 そして、響の合格はすでに決定事項である。


 もっとも、響の学力であれば県内どころか関東圏でも大抵の学校には入れるはずだ。なんせ物理的に頭の出来が違うのだから。


 と言うわけで、待機時間に勉強しつつ、訓練を続けながら万が一の魔物出現に備える夏休みが始まった。

 そう、授業中じゃなければ中学生でも出動する可能性があるのだ。

 労働基準法に照らし合わせると『児童の健康や福祉に有害ではない』ことが求められるが……

「芸能活動の一種です。ただいま訓練生です」

 良いのか? 国の言い訳がそれで良いのか? 労基ではなんと言ってるの?

「芸能活動か。なら良いだろう」

 って、そうなん?


 むしろ保護者の許可を得る方が大変だった。

 しかし、全国で次々と魔物被害がひろがっているために、首相自らが沢井家訪問することになり、なんとか許可を取り付けた。


 この時、武藤父娘による響の安全対策に対するバトルがあったりもした。

 麻紀さん響に入れ込みすぎ……政治家目指してるんじゃなかったんかい?

『魔法少女向けの政治家目指すわ。将来的には魔法使い、増えるでしょ。間違いなく』

 なんだか良くわからない決意してますが、どうなんでしょうね、この人。


 と言うわけで、響の夏休みには

『魔物退治のアルバイト』

 が組み込まれた。


        ♦︎


 夏休みだから、当然暑い。

 響のアルバイト時間は八時から十七時までの間と定められているため、ずっと暑い。

 もっとも、響本人は冷却系の魔法を使って熱を他次元に逃すことができるため、それほど苦労はしていないのだが。

 

「暑いからエアコン効く場所入ろう……」

 理沙がギブアップした。

 理沙も美智子も、響みたいに器用な魔法は使えないのだ。まだまだステータスオープン魔法のリストに出てくる魔法しか、操る事ができない。

 飛行訓練を監督するにも、駆け足を見守るするにも、外は暑すぎる。

 だいたい、このコンクリートとアスファルトの照り返しが猛烈な、駐機場とかにいたくない……


 とりあえず出張所に入り冷たいものでも……


 ここで、スクランブルのサイレンが鳴った。


「スクランブル。東京都多摩郡に四足歩行の大型魔物出現」

 壁についたスピーカーから放送が流れる。

 奥多摩ならそれほど遠くはないため、ヘリ出動の指示が来る可能性が高い。

「響ちゃん、出られる?」

「はい!」


 異世界生物対策班用として常駐しているのは、陸自仕様のUH-2(ユーツー)が一機だけである。遠くに飛ぶ時は、500km圏内ならV-280(バーロー)を木更津から呼び寄せることになる。それ以上遠い場所は、まだ響に行かせる予定はない。

 戦闘機出動になるとコマンダー(保 護 者)がついていけないため、まだ時期尚早と判断されているのだ。

 来年以降はまた、予算と人員を付けてもらえる予定だが、今はある機材でやりくりしなければならない。


 UH-2(ユーツー)のパイロットはすでにエンジン始動を済ませ、いつでも上がれるようになっていた。

「みっちゃん、あとよろしく!」

 理沙が美智子に基地側オペレーションを任せ、響と一緒に駐機場(エプロン)へと飛び出す。

 気温は36℃を超え、まだまだ上がりそうだ。

 美智子はアイテムボックスから響とお揃いのヘルメットを取り出すと、走りながら頭に被り顎紐を締めていく。

 UH-2(ユーツー)のローターは、もう回り始めている。こうなるとローター回転数が上がりきって、垂れ下がったローターが浮き上がるまでは近づくのが危険になる。タービンの音、ローターが空気を叩く音を聞きながら、異世界生物対策委員会本部への回線を開いた。


「百里の小川です。今から響を上げます。場所、魔物の確定できましたら連絡お願いします」

 本部からの返信を聞きながらパイロットの合図を確認した。隣に立つ響のヘルメットを一回叩いて合図を送ると、背を低くしてドアに駆け込む。


「後席オーケーです。お願いします」

 バシャンとドアを閉め、ロックレバーを倒す。

 響もシートに座り口を開いた。


「理沙さん、まだ相手はわかってないんですか?」

「今、先行で上がったF-2がそろそろ着くと思う。大きいらしいから、すぐ見つけるんじゃないかしら」


 ただ、大きいと言ってもいろいろだ。最初の情報は地元の人間の目撃情報だと思われるので、信憑性はあまり高くない。

 初めて魔物を見た人は、牛サイズでも『巨大』と言ってしまう可能性がある。

 一般に、牛サイズは『大型』ではあるが、巨大とは呼ばれない。

 巨大魔物は、サイ、カバ、ゾウクラス以上の大きさのものを呼ぶことが多い。


『百里対策、こちら本部。多摩地区の魔物は巨大な双頭の四足獣と判明。確認できているのは一頭のみ。すでにあきる野市街地付近まで進出を許しているため、ミサイル攻撃は難しい。魔法による対処が発令された』

「こちら百里対策小川。了解しました……響ちゃん、出番。相手は四足獣なのは間違いないわ。頭は二つあるらしいけど」

「えー? 化け物じゃないですかぁ」

「いや、魔物とか大体化け物だけどね」


 百里基地から奥多摩地区まではだいたい100km。120ノットで飛んでいくと、二十五分もあれば現場付近まで到着できる。

「この辺りのはずだけど……」

「見つけました。もうかなり街中に入ってきてますね。わたしここから降りて、良いですか?」

 響が指差す方向にいるらしいが、ただヘリコプターの壁を指さしてるようにしか見えない。

「ええ。気をつけてね。無理はしないで」

「はい、行ってきます!」

 響はシートから立ち上がりドアロックレバーにぶら下がる。内張のない軍用機は、レバーから続くリンクがスライドしていくところがよく見える。

 ノブを引くとラッチが外れ、スライドタイプの扉が開いた。

「じゃ、おりますー」

 インカム越しにパイロットに声をかけ、ぴょんっと飛び降りるように機体の外に飛び出した。


「どうですか? 響ちゃん追えそうです?」

 理沙がパイロットの三佐に声をかける。

「速すぎる、なんとか見失わないようにはするが……」

 響は水平飛行時には、巡航速度で200ノット。最大速度は250ノットを記録したこともある。このUH-2(ヘリコプター)の二倍もの速度だ。

「頼みます」


 今日の天候なら、東京スカイツリーのレーザー通信中継機(レピーター)が使える。基地や本部との通信は問題なさそうだ。

 響も今のところは視界内を飛んでいるため、問題ない。

『間も無く接触します。カメラ映像送りますね』

 響のヘルメットマウントカメラからの映像も、クリアに送られてきた。


「なかなかのサイズだなぁ、これは」

 響の前方、400mほどの場所で巨大な獣が暴れていた。

 肩の高さは7-8mはあろうか。そこから巨大な頭が二つ、並んで生えている。

 体は黒色に近い褐色、顔の一部に白い部分もあるようだ。

 イメージとしては、大型犬。大きな犬の化け物だろう。

 周辺の住人は避難済みなのか、人影は見えない。しかし建築物が被害を受けているため、早急に対処したいところである。


「頭二つかぁ……理沙さん、どうしましょうか。資料では見たことのないタイプの魔物です」

『綺麗に倒せそう?』

「耐久性がわからないので、どのぐらい痛めつけたら倒れるのかさっぱりです」

『安全第一、やっちゃって』

「了解しました。倒しますね」


 万が一威力を誤って貫通させた時に、被害が少なくなるような立ち位置へと回り込む。

 撃ち上げ方向だと、どこまで飛んでいくかも読みづらいので撃ち下ろしになるように高度も取ろう。

 敵の動きはそれなりに速いが、追えないほどではない。そして、弾速は正義だ。


 弾はいろいろ用意してもらっている。

 敵が大きいから、それなりのサイズを選んだ方がいいかな? と言うことで、直径40mmの鉄の球を自分の前に浮かべた。

 響の前方に展開されたマイクロマシンによる干渉で大気中の不純物をかき集め、その原子による電子雲から作られた二本のレールが伸びてゆく。

 この電子雲により保持された鉄球は、次元関門から取り出されたエネルギーを電子の動きに変え、フレミングの左手の法則に則って力を受け、鉄球を加速してゆく。


 一般的なレールガンはどれだけ大量の電力を投入しても、初速が上がらなくなるポイントがある。

 様々な対策を施した護衛艦の主砲ですら、秒速7kmを超えるものがない。

 これは弾自体が回路となる都合上、弾が速くなりすぎると磁界が追いつかず電流が流しきれなくなる。また、レールと弾体の間の摩擦力が大きくなり駆動ロスが急激に大きくなるなど、様々な要因によって制限が発生する。


 しかし響のレールガンは……


 弾体が速くなっても、それに合わせて電子を直接送り込む、レールとの個体接触を伴わない、更には弾を減速しようとする磁束すら、捻じ曲げた上で加速に利用していたりまでする。

 本気で加速した場合秒速20kmを超る事が確認されている。

 この速度になると、断熱圧縮による空力加熱で弾丸が溶解し、更にプラズマと化して大気に溶けこんでゆく。


 流石にそんな戦略兵器みたいな使い方は実用的ではない。

 距離は400m。初速8km/hで撃ち出してやれば、0.1秒も掛からず弾着するはず。

 この魔物の頭の動きが片側に振れ切って、戻り始める瞬間を狙って発射した。


 全力の半分以下の速度と言っても、第一宇宙速度は超えている。空気抵抗がなければ、衛星軌道に乗せることすら可能な速度である。

 260gの鉄球が秒速8kmの速度でぶつかった時のエネルギーは8.3MJ(メガジュール)にも達する。

 これは、12.7cmの大砲弾と大差ない威力である。


 魔物の頭部に命中した弾は、衝撃波で魔物の頭部を霧に変えながら直進し、背骨を掠めた時に背骨沿いの体組織をすべて粉砕、そのまま腹部の構造物を丸ごと破裂させ地面へと飛び込んだ。


 文章で書くと長くなったが、本当に短時間、ほんの0.05秒の間に起きた出来事だ。

 響のヘルメットカメラには、発射時の光が残っている間に相手が赤い霧に変わってしまったため、何が映っているのか全くわからないものが録画されている。


「あの、理沙さん……」

「どうした? 響ちゃん?」

「えっと、終わりました。ヘリ回していただけますか? 後片付け、手伝いますから……」

 響の視界には、弾が当たらなかった方の頭だけが、ちょこんっと赤い絨毯の上に置かれているような景色が見えている。

 当然、赤い絨毯の材料は……


「手加減、難しい……」


 バタバタバタバタと、UH-2(ユーツー)が降りてくる。

「あっちゃあ……いわゆる『ミンチより酷い』ってのは、こーゆーことかぁ」

 理沙の声がインカムから流れてきた。


「どうする? 夏休みの自由研究で、運動エネルギーの実測でもやる?」

「小学生じゃないんだから、もう自由研究の宿題はありませんよぅ……」


 響の夏休みは、始まったばかりだ。

 前作にはなかった年齢レーティング、暴力ですね……


 書いてる人がスプラッタ苦手ですので、あっさりしてるかもしれませんが……自分以外の人の血とか、見ただけでクラクラしてしまいます……


 それではまた、お会いいたしましょう

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