連絡員
「初めまして、響ちゃん。武藤麻紀だよ。よろしくね」
放課後、いつもの様に百里に寄ったところ、綺麗めのお姉さんに声をかけられた。
「綺麗め….じゃなくて、綺麗って言ってくれていいのよ?」
ヤバめのお姉さんに声をかけられた。
「ちょっ! 酷くないっ⁉︎」
見た感じ二十代……かな? スーツ姿なのに左に高めのサイドテールとか、どうなんそれ? な髪型に、今見た通りの言動。身長が低めなため、合法ロリ臭、地雷臭ぷんぷんのお姉さんだ。
「いや、地雷とか言わないで。打たれ弱いんだから!」
まず、ナレーションに受け答えするあたりで、ダメな人確定です。この作品内では。
「あー、先に会っちゃったか。このお姉さんはね、内閣府とここの連絡員してくれるお姉さんよ」
奥から出てきた理沙が説明してくれた。
「いや、今自己紹介してるとこだったのよ? なのになんか不穏な気配感じて進まなくなってただけで……」
不穏な気配で悪かったな!
武藤麻紀、三十三歳。見た目より歳食ってた。
「シャラップ!」
以前、内閣府で武藤首相と会談したときに連絡員を用意……ん? 武藤?
「あ、武藤大義はあたしのおやじなのよ」
まさかの首相令嬢だった!
「ま、おやじはおやじ、わたしはわたしってね!」
この危なそうなお姉さんが、月水金には百里まで来て、響や基地のうまく伝わらないニュアンスを本部に報告することになると、そう言うことらしい。
「だから危ないとか言わないで欲しいんだけど……普通の職員よ? そりゃ、将来的には政界に出ることも狙ってるけどさ」
なかなか野心的なお姉さんのようだ。
「と言うわけで、響ちゃん、仲良くしてね!」
「は、はぁ……」
響的にはちょっとばかり遠慮気味のようだ。首相令嬢だから? 綺麗目お姉さんだから?
「なんか、常識外のことしそうです……」
「ひどくないっ⁉︎」
こうして、基地に愉快な仲間が一人加わった。
「いや、愉快な仲間とか言われても困るんだけどっ!」
麻紀の一週間は、百里詣から始まる。
と言っても政府の重要案件である。移動手段は使いたい放題、やりたい放題だ。
どのぐらいやりたい放題かと言うと、今朝は首相官邸からEC-225で飛んできた。
反対勢力に見つかったら叩かれまくること間違いなしの運用である。
「あの、流石に官邸から飛んで来られるのは、その他の業務に支障が出ますので……」
美智子が必死に諭してゆく。
理沙は単純に羨ましがっているが、これは美智子が正しい。
「えー、面倒じゃん……」
「面倒で済まさないでください! 今日の帰りも、官邸直は辞めてくださいね。市ヶ谷には連絡入れときますから、そっちに降りてください」
「市ヶ谷まで二十分以上かかるのにぃ」
結局、二十一世紀の半ばを過ぎても空飛ぶ車は実用化されていない。
軍用の有人マルチコプターは何機種も発表されていたが、ドローンによる攻撃に弱く墜落イコール死亡になるために、配備を進める国は中国だけであった。
その中国でも内戦での消耗率の高さから敬遠され、使われなくなっていると聞く。
結局、人々は渋滞の中を自動車で移動するしかないのだ。
「あと、EC-225とか使わずに、普通にUH-2なりUH-60なりで来てください。じゃないと、ほら……」
いつの時代にも航空ファンは多いのだ。
そして、ここは航空自衛隊基地。それはもう、いつも誰かしらのカメラがこちらを向いていると思えば間違いがない。
そんなところに接待用ヘリが降りてくれば、要らぬ詮索をされると言うものである。
ちなみに、響の飛行訓練中の写真等も撮影されるのだが、響が魔法で消去できるらしい。なんだよその技術。
「わかったわ……次からうるさいのに乗ってくるわよ、もう……」
「本当なら車で来ていただきたいところなんですけどね」
「この不便な百里まで週三回も車で来るのはちょっと……」
「不便だと言うことは認めますけどね……」
麻紀は、月曜日水曜日金曜日には午前中には百里に到着する。その後、響の訓練計画や響のケアに対する政府側としての折衝を行いながら、響が下校して基地に寄るのを待っていた。
その後は響の訓練に同行したり、響の宿題を手伝ったり、響の晩御飯作ったり、響のこと寝かしつけたり……って、めっちゃ入れ込んでません?
『いや、だってめっちゃ可愛くない? うち、弟一人いたけどこんなかわいいもんじゃなかったわよ?』
でも、流石に沢井家まで押しかけてご飯作ったり寝かしつけしたりとか、やり過ぎじゃありませんか?
『お義母様には許可とってあるから良いのっ!」
いや、お義母様とか言わんといて……響は貴女の嫁じゃないんだから。
『よし、わたしが婿に入る!』
当初の危惧通り、やばいお姉さんだった。
ってか、麻紀さんご結婚されてたんじゃ?
『三年前に別れたわよ。ただの浮気ならまだしも、四股で妾囲ってるとかはちょっとね。歳食った政治家じゃあるまいし……』
元夫は青年実業家とのことだったが、あまり誠実ではなかったようだ。
月水金はそんな風に百里に通い、火木土には内閣府で資料作りに会議に根回し、勢力的に動き回り、響の地盤を固めていく大事な役回りを勤めていた。
そして待望の日曜日。
「ただいまぁ」
「あらあら、麻紀さんいらっしゃい」
ん?
ここは小美玉市。沢井家の玄関である。ただいまとかどゆこと?
『あ、わたし、ここんちの子になるから』
ちょっと待てぇぃっ! あんた三十三でしょ? でもっていろんな資格とか有るエリートでしょ? なんでそんな常識の遥か外側でビールマンスピンかましてんのっ!
『響ちゃんに婿入りすれば、わたしは沢井家の子だから』
だから、なんでそんな訳わからない理論になってんのっ!
って、お母さん、うんうんしてないでなんとか言って!
麻紀は身長低いし童顔だしで色々とイメージは別物なのだが、行方不明になった時の響の姉たちと、ほぼ同い年なのだ。
沢井の両親は、いまだに子供たち三人を失った事件から逃れていない。
確かに、今では日本中で魔物による被害が出ており、子を失った親も決して珍しくはなくなってきている。
しかし、それでも親は親である。日本で……いや、世界で初めて魔物に子を奪われた両親。
失った子供を、他人に投影してしまうのも無理はないのかもしれない。
「わたしが来たからには、もう何一つ不自由はさせないからね」
なんだか良くわからないが、強力な味方は増えたのかもしれない。
ただ、トラブルの種にもなりそうな予感はひしひしとしてくる。
ところで、響の方はどうなの? このお姉さんについて何か言うことは?
『嫌いじゃないですよ? 理沙さん美智子さんと同じぐらいかっていわれたら、まだそこまでじゃないけど……岡田さんぐらい?』
麻紀さん……婿入りできるまで、まだまだ先は長そうです。
お読みいただき、ありがとうございます。
みんな大好き地雷系っ! ん? ちょっと違う?
うーん、将来、病むと思うんですけどねぇ、麻紀ちゃん。
それではまた、お会いいたしましょう




