アイテムボックス
「あ、そうだ! 新しい魔法も送られてきたんでしたっ!」
響が分駐所で突然叫んだ。
「危なくない? 危なくない?」
響の魔法は大半が危ない魔法だと、正しく認識されている。
「危なくないですよぅ。ただの、アイテムボックスだそうですから」
「あ、アイテムボックスっ⁉︎」
空間収納、四次元ポケット、インベントリ……様々な呼び方をされているが……
「アイテムボックスって、あのアイテムボックス?」
「あの……が何にかかってるかさっぱりなんですけど」
「猫型ロボットのお腹のポッケ?」
「あー、それです」
理沙さん、わかりやすい例えをありがとう。
「これがあると、着替えとかも持ち歩けるからすっごい便利で……って、理沙さんどうしたんですか?」
理沙が固まっていた。
(いやだって、アイテムボックス……空間収納よ? どんな物理法則で動いてんのよっ! って言うか、そんな便利なもんあってたまりますかって)
「さ、流石に冗談よね?」
理沙が響に聞いた。
「覚えましたよー、ほら」
響がかぶっていたヘルメットをどこかに隠した。
そして再び、パッと出てくる。
「それでですね、理沙さんと美智子さんのステータスオープンのアイテムボックスも、アンロックしたって連絡が……」
「はぁっ⁉︎」
理沙と美智子は、響の姉たちによってステータスオープン魔法という魔法をインストールされていた。
今まではお便利魔法ばかりしか覚えていなかったのだが……
(いや、アイテムボックスとかお便利すぎじゃないの? え?)
もしもそんな魔法使えたら、そりゃ猛烈に嬉しいけどさ……とか思いながらも
「ステータスオープン……って、本当にあるっ!」
ステータスオープン魔法を開き魔法リストを見ていくと、下の方にアイテムボックスのマニュアルというものが追加されていた。
「えっと、取り説があるんだけど……え? 何これ……」
アイテムボックスへの収納の仕方、取り出し方法、収納物の管理、収納できないもの、収納可能な大きさ等々、いろんな情報が記載されている。
「何この巨大な空間は……」
理沙の脳内に巨大な空間がイメージされる。今は何もない空っぽの空間。
対象物が何もない空間なのに、サイズ感がピタリと判るあたり、魔法ってなんなの? と感じる。
イメージ的には、不定形な体育館ぐらい……もう少し大きいか。
どれだけものが入るのかも、どんなものが入れられるのかも、どう保存されるのかも、特に意識することもなく感覚が理解させてくる。
取り説なんて要らなかったんじゃね? ぐらいには理解できてしまった。
「あ、この取り説、これはアイテムボックスが使えない人への、説明用なのね」理沙が一人納得していると、響が相槌を打ってきた。
「うんうん、この感覚、使えない人には説明のしようがないですよね」
試しに、机の上にあったボールペンを収納してみた。
外からだと、理沙が手に取ったポールペンが『フッ』と消えてるようにしか見えない。
理沙には、何が入ったのか、あとどのくらい入るのか、入ったやつはどんな状態なのか、軽く意識しただけで理解できている。
「これ、同じものをたくさん……例えば、石ころたくさんとか入れたら、それぞれみんな管理できるのかしら」
何かないかな? と、机の引き出しを開けると、輪ゴムの入った箱があった。
「これ、全部入れたらどうなるんだろ」
ゴムの上に手をかざし、収納を意識した瞬間には目の前から消えている。
「おおお……流石に一つ一つの認識は……あ、意識すれば見分けもできるのね。へぇ」
今度は一つずつ、ポトポトと箱の中に戻していく。
「わたしも同じことしましたよ。わたしはおはじきで試しましたけど」
やはり皆、考えることは似通うようだ。
「ひとつひとつ見分けながら取り出すのは、出来なくはないけど疲れるわね、これ」
「結局、イメージとしては、鞄から取り出してるイメージからは、なかなか逃れられない……って書いてありました。訓練すれば、結構頑張れるってお姉ちゃんが」
お姉ちゃんすごいね……って感想しか出てこない。
これあれだ、おっきな巾着袋の中に、ボタンとかファスナーとか端切れとかたくさん突っ込んである中から、目的のもの探し出す感じだわ。
「頑張って、この中に棚を作るといいらしいです。概念上のロケーションシステム? とか言ってました」
出し入れするたびに、全部の品をチェックするの? そんな事、人間にできるものなの?
「あとはマイクロマシンがうまくやってくれるらしいです」
また出たマイクロマシン!
もう、そこらじゅうで観測されるようになったマイクロマシン。
ここ五年ぐらいで急激に濃度が上がり、国内ではすでに、テレビ放送もラジオ放送も有線でしか提供できなくなってしまった。
「今度、マイクロマシンとの付き合い方とか聞いといてもらえるかしら……」
「はい、次に聞けるときに聞いてみますね」
この、姉との通信も、恐ろしく不定期にしか繋がらないらしい。
三日で返事が来ることもあれば、長い時は数ヶ月単位で連絡不能になったりするようだ。
「とりあえず、いろいろ試してみてくださいって。危ない事は感覚的にわかりますよね? 使いこなせば、ここから弾を取り出して、レールガンで機関銃みたいなこともできるらしいので」
いや、なんだよその怖いのっ!
響のレールガンはさまざまな試験の結果、現在海上自衛隊で運用されている48式電磁加速砲の威力を、軽く上回ることがわかっている。
響のレールガンは接触抵抗や速度表皮効果を抑制することができるため、初速の桁が理論値レベルで速い。もう、明らかに速い。軽ーく撃っても三倍は速度が出る。
『えいっ!』
とか力を込めると、五倍ぐらい出ちゃう。
そんな代物を、機関銃???
「おっきな弾でもできるけど、流石に危ないよ、周りが……って言われましたけどね」
周りがかよっ!
けどまぁ、アイテムボックスそのものはものすごく優秀な魔法である事は間違いなさそうである。
確かにこれを使いこなせれば、人間の可能性がまた一段高くなるだろう。
「これの検証で、また時間取られるんだろうなぁ……」
ただ、仕事はものすごく増えそうだ。検証するにも、これを使える魔法使いは、まだ世界に三人しかいないのだから。
「早いとこステータスオープン使える人、増やして欲しいわ……」
ステータスオープン魔法も、戦略級に危険な魔法として扱われていた。
法整備と共に、国内の攻撃魔法使いに覚えてもらうかどうかの議論はいまだに続いている。
しかし、こうやって議論で時間を消費している間にも、魔物の脅威は迫り続けているのだ。
人類の未来を守るため、戦え我らが理沙美智子!
『いや、あたしら攻撃魔法使えないしっ! 生活魔法だけでどないせいっちゅうのっ!』
アイテムボックスがあれば、軽MATだろうが対戦車砲だろうが、幾つでも持ち歩けるでしょ?
『また仕事増やすような事考えやがるしっ! わたしは空自だもん、射撃訓練なんて小銃しかやった事ないしっ! 美智子なんて元自衛官でもなんでもないんだから、鉄砲なんて触ったこともないよ』
けどまぁ、これは将来的には何か持たされる気はする理沙であった。
四次元ポケット欲しいです……憧れますよね。
カメラバッグとか持ち歩かなくていいんですよ!
更に、駐車場とか探さないでも車ごと仕舞っちゃえば!
では、またお会いいたしましょう。




