新型装備
沢井響は成長期だ。
それはもう、スクスクと育っていく。
国から支給されている戦闘服もヘルメットも、みるみるツンツルテンになっていった。
「響ちゃん、新しいヘルメット、出来てきたわよ」
「おおおおっ!」
実は待望の新装備であった。
「これでヘルメットをいくつも持って歩かなくても?」
「オッケーよ。航空ヘルメットで自転車と自動二輪のSGマークも取ってもらったわ」
通学用自転車ヘルメットとしてはゴツくなったが、これ一個で空も飛べる様になった。
「ベースは自動二輪用なのよ。もう、ほとんど響ちゃん用のワンオフですって」
クリアとスモークのダブルバイザーに日除けのサンバイザーつき。ヘッドセットも内蔵されている。
お色は自衛隊色、みなさんご存知の深緑。
「あと、四型戦闘服ね。魔物素材からのフィードバックで、めちゃめちゃ強いらしいわよ」
これまた陸自の迷彩服である。
一番長い時間過ごしているのは航空自衛隊の基地なのに、装備が陸自仕様になるのはなぜなのか。
「あー、詩琳ちゃんさんのせいだね、主に」
たまたま来ていた岡田主幹に聞いたところ、そう言われた。
「特戦と空挺で鍛えろって言われたら、そうなるしか無いでしょ」
確かに詩琳お姉ちゃんはそう伝えてきていた……
「うー、もう少しかわいい色使いは出来ないのかなぁ」
「陸自が間に入ってる限り、無理だ。諦めてくれたまえ」
中一女子に迷彩服とグリーンのヘルメット……ちょっとかわいそうかもしれない。
「あー、なんなら、カモフラージュネットもあるが……」
「いらないです」
ヘルメットに網を被せて、そこいらの草やら枝やら差し込むカモフラージュ。
「そもそも、魔物相手に迷彩服着る意味はあるんですか? むしろ周辺に存在感ばら撒けるかわいい服の方がよく無いです? その方が誤射とか減りませんか?」
正論だ。響が正論を言っている!
「そ、そうか?……」
岡田主幹が何やらすごすごと帰っていった。どうも、わざわざ新装備を届けにきていてくれたらしい。正直悪いことしたかな?
「いえ、可愛く無いものを可愛く無いと、きちんと言うのは優しさです!」
優しさなんだ……
実際に、魔物がどうやって人を認識しているのかはわかっていない。
ただ、視覚を持つと思われる魔物も多いため、迷彩服が無意味かと言われると……
「響ちゃん響ちゃん、あんまり岡田主幹のこといじめないであげて」
理沙がちょっと微笑みながら声をかけてきた。
「別にいじめてるわけじゃ……」
「この新型ね、魔物素材って言ったでしょ。紫外線やら青色系やらの、人間には知覚できない色にも対応した迷彩服なのよ」
哺乳類以外の脊椎動物では、人よりも多くの色を識別できるものが主流である。
人が見ることしか考えていない色使いは、その他の生物から見たら『ド派手な原色使い』な可能性だってある。
「まぁ、紫外線対応はしてるけど、赤外線は難しいらしいけどね。それでも、できるだけ形状がぼやける様に発散させてはいるそうよ」
めちゃくちゃ高性能な逸品であった。確かにこれでは岡田主幹が可哀想かもしれない。
「でも、可愛く無いことには違いないですよね……」
女子中学生、そこ大事です。
だってかわいい方がテンション上がるしっ!
「まぁ、そのうちかわいい服もこの技術でできないか聞いてみるわ。将来的に出動の時、いつも迷彩なんて着てないでしょうからね」
しかし、今はあるものを着て訓練を続けるしかない。新型迷彩戦闘服を着込み、新型ヘルメットをかぶる。
「うわ、かっる! ヘルメット、めちゃくちゃ軽いです。今までのヘリコプター用とずいぶん変わりました。これは嬉しいな」
「その代わり、めっちゃ高いわよ、それ。無くしたら、わたしの年収ぐらいは吹き飛ぶからね」
そこそこ給料貰ってはいるが、みなし残業なので勤務時間に見合った金額かと言われると、ちょっと微妙かもしれない。
ただ、忙しすぎて使う暇もないのであるが……
「最初はメーザー通信機も積むつもりだったらしいの。あまりにおっきくなりすぎて、諦めたって聞いたわ」
メーザー通信とは、何故か電波ばかりが選択的に阻害される現状で、なんとか電波通信をするために編み出された通信方法である。
要するに、電波のレーザーだ。ただ、周波数が低いがゆえに装置が大型化してしまい……
「頭の上に、サイのツノみたいなのが着いちゃったらしくて……」
戦国武将かよっ!
「レーザー通信機は積んでるけど、完全に見通しできる場所じゃないと使えないから注意してね」
レーザー通信用の中継ドローンも開発されているが、ドローンがどこにいるかを伝えるための通信が難しく、まだ実用レベルとは言い難い状況である。
「結局、この電波障害とどう付き合っていくのかよねぇ」
従来の無指向性の電波式通信機は、使える時と使えない時の差が激しくなってきていた。
大雨、大風の翌日なんかは割と使えるのだ。遠くの景色がくっきり見える日は、大気中のマイクロマシン濃度も低くなっているのだろう。
ただ、そこから二日も経つと元通り。ハンディ無線機の5wかそこらの出力では、子供のトランシーバーか? ぐらいしか届かない。
HF帯もVHF帯もUHF帯も関係なく、みんな不調になっている。
その割に、可視光線はそこまで大きく阻害されない。
そのため、手旗信号は見えるのに電波通信できない……なんて事態が発生しており、あらゆる分野に影響が広がっていた。
「早く魔法を使った通信方法とやらが、確立すると嬉しいんだけどねぇ」
響がお姉ちゃんから聞いた電波障害対策。
『将来的には魔法で通信すると良いよ』
これがなかなかうまくいっていない。
響によると、魔法で通信機を作るらしいのだが
『お姉ちゃんに聞いても、二十一世紀向けはまだ製作中らしいのです』
二十一世紀向けってどんなローカライズなのか……
それでも、人々は生活していかなければならない。
航空機はもちろん、船舶も輸送能力が激減した。
輸出入は滞り、国内での食糧確保が間に合わなくなりつつある。
国内に入ってきても、無人輸送を担っていたロボットトラックは動かなくなり、人々が手動で車の運転をしなければならない。
しかし、大型車の運転免許保持者は数少なく、高齢化も進んでいる。
直接魔物の被害に遭わなくても、人類は徐々に追い詰められていっていた。
成長期の中学生、しかも沢井の娘達はどいつもこいつもタケノコみたいに大きくなりやがります。
お読みいただきましてありがとうございます。
手足長い上に細めですので、色々盛った衣装着せると映えるのですが、薄着になると途端に貧相になりかねない諸刃の剣。
と言う訳で、お気に召しましたら幸いなのですが……
それではまた、お会いいたしましょう。




