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チョコレート

「うわぁ、ここにも売ってない……」

 まもなくバレンタインデーだ。

 となるとこう、ウキウキワクワクドキドキする男子と、義理チョコ面倒ーと思う女子と、本命チョコ頑張る女の子と、みんなの思惑が交差するわけですが……


「ほんっとにチョコ売ってないね……どうしよう」

 たぬきさんが困り果ててた。

 そう、生まれて初めての本命チョコとやらを作ろうとしたのだが、まず材料が手に入らなくなっていた。


 チョコレートの原料、カカオの生産国には、あまり魔法使いがいなかった。

 魔法使いになろうと努力をする女の子は、厨二病に罹患するだけの余裕が有る人々だけだ。

 カカオの生産国はいまだに被支配者階級の人数が多く、生活に余裕がなかった。

 そのため、魔法使いごっこなんてしている暇もなく、魔法使いそのものが極端に少ない、もしくは皆無な状況だった。

 その状況で魔物に襲われたらどうなるか……カカオの様な半ジャングル農園は、あっという間に魔物の棲家となり、カカオの収穫は滞り、世界中でチョコレートが超品薄となっていった。


「麻紀さんに頼めば多分手に入ると思うけど、どうする?」

 友達想いの響の提案は魅力的だが、やはり自分で探したいなと思ったりする。

「あとは代用品探すかかなぁ?」

 男子に本命チョコを渡すのはたぬきさんだけだが、他のみんなも女子チョコは作る。

 しかもセトルリとか響とかは本命チョコだ。セトルリなんて、本命チョコだけで十ぐらいは作らなければならない。いや、それ本命っていうのか?

 ファッション地雷ビッチとか、属性マシマシ過ぎてもう誰も貰ってくれないよ? あ、もう貰われ過ぎてるのか……


「チョコじゃなくてもお菓子なら許されるかな。今手に入りそうな物かぁ……」

 チョコレートに限らず、スーパーの棚はガラガラになりつつあった。

 年越しスタンピード以来、食品流通がとどこおり、生鮮食品が軒並み品薄になっている。

 しかもこの災害は一地域ではなく全国で発生していたのだからたまらない。あっという間に日本中で買いだめが発生し、あらゆる食品類が棚から消えた。


「うちは農家だからまだ食べるものあるけどさ、普通のお家はこれ、大変じゃない?」

 たぬきさんちは農家さんだ。メインで作っているのはニラとジャガイモだが、それ以外の作物も栽培している。

 また、周囲には米農家や養鶏農家も多く、米や卵には困った事がなかった。


「うちも、腐っても宇佐美だからね。今の所は食品に困ることはないかな? だいたい、誰かが持ってきてくれてるし」

「わたしんとこはほら、麻紀さんが何でも持って帰ってきてくれるから。うちのお婿さんは最高なんだよ」

 うさやも響も困ってはいないらしい。


「おみは基地にいる限りは大丈夫だと思うけど、ティナ子とセトルリは心配だね」

 ただ、二人とも最悪の場合でも国から何かしらの救済はあるだろう。

 今の日本は魔法使い無しではもう、守り切ることが出来なくなっているのだから。


「とりあえずチョコの代わり……あ、小豆とそら豆、白インゲンあたりなら有るから、餡子で何か作ろうかな。うん、だんだん創作意欲出てきたぞ」

 バレンタインに和菓子もアリなのか? まぁ、アリか。

 砂糖はまだ在庫は有る、餡種も有る、技術はまぁ頑張れ。ヨシ、作るぞっ!


 家に帰ったたぬきさん、まず最初に、裏の岩本さんちのおばあちゃんを尋ねた。

 このおばあちゃんの作るおはぎが、絶品なのだ。その技術を伝授してもらうところから始めた。


「ほぁー、このタイミングでお塩なのかー。和子さん凄いっ!」

「こんなのはただの知識だよ。あ、そこはこう、しゃもじで切るように」

「こんな風かな?」

「そうそうそうそう、良いよ。詠ちゃん良いセンスだよ。美味しい餡出来るよ。これ。餡子もね、愛情が最強の技術だから」

 生まれた時からのお付き合いのおばあちゃんだ。実のおばあちゃんと変わらない感じで教わる事ができる。

「おはぎなら粒餡も嬉しいけど、バレンタインならこし餡の方が見映えはいいね。どこまで滑らかに出来るかで変わってくるから、丁寧に丁寧に」

 プロデュースまでしてくれる。

 もう九十にもなろうかというお年だが、オシャレに敏感なおばあちゃんなのだ。

 若い頃にはディスコのお立ち台で、センス持って踊っていたらしいし。


 綺麗に出来上がった餡は四種類、小豆にそら豆白インゲンにグリーンピース。

 更に白餡には食紅使って色つけたものも用意して……

「ヨシ、やるかっ!」

 薄切りパンをカリカリに焼き、砂糖をまぶしたところに、餡子で絵を描いていく。

 餡子で絵を……絵……って、何で餡子で耽美な絵が描けるん? どんな技術よそれ。

 あーあーあーあー……薄い本みたいな絵が描きあがっちゃってるよ……これもらう吉野くん、どうなんだろう……喜んでくれるのかな?


        ♦︎


「た、たたた、樽……詠美さんからバレンタインのち、ちちち、チョコ貰えるとか……」

「あ、ごめんね。チョコが手に入らなくてね……その、わたしの手作りのお菓子なんだ」

「てっ、手作りっ! ありがとう、一生大事にするっ!」

「いや、二日で腐るからすぐ食べてほしいな……」

 いいえ、製造段階からもう腐っています。

「わ、わわわ、わかった。ありがとう樽……詠美さん。嬉しいです」


 お家に帰った吉野くん、あまりの絵面に悶絶したものの、大変美味しくいただいたそうです。ホワイトデーはどうしようかしらねぇ。


 あ、セトルリはチョコが用意できなかったので、全員『ほっぺにちゅっ!』で済ませました。

 だいたいみんな喜んでくれたけど、一番喜んで感極まって泣き出したのは、小波師匠だったらしい……キスした本人が一番びっくりしたそうな。

 みんな大好きバレンタイン。

 こんな治安状況で、まともにできるわけがありません。と言うか、もう街中戦時体制に近くなってきてるかな……


 次回、最終回となります。皆様の暖かい応援ありがとうございます。

 それではまた、お会いいたしましょう。

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