最終話 ホワイトデーの、その先の物語
とっても素敵なバレンタインプレゼントを貰った吉野くん、出来る事ならホワイトデーに素敵なお返しをしたい。
しかし、いまだに物流は回復せず、日本各地で食品の高騰が発生し、スーパーマーケットに商品が並ばない日が続いていた。
たまに商品が入荷しても、転売目的の買い占めなども続いており、物価統制やむ無しの論調も出始めている。
更に、年越しのあの日ほどではないが魔物出現数も増えてきており、その魔物が厄介な魔物で有るケースも増えている。
真っ暗闇を飛び回る蝙蝠型の魔物の群れは、響ですら駆除に時間がかかった。
街中を飛び回る小型の魔物は、下手に撃ち抜けば建物に被害が出る。周辺には民間人も多く、空気の流れを制限したり、極端な温度変化等をさせることもできない。
結局、威力の余り強くないストーンバレットやウインドショットで地道に数を削っていき、七千頭を駆除するのに翌朝までかかってしまった。
その間に出た民間人への被害も少なくはないため、響を含めた関係者への衝撃は大きかった。
「やはり響くんじゃないと難しかったかね。あのコウモリの群れは」
異世界対策委員会定例会議は、内閣府庁舎で行われている。
百里からは理沙が呼び出されていた。ちなみに麻紀はホスト側だ。
「あとは、一年六組の他の五人が力を合わせれば、倒せたかも知れません。しかし時間はより多くかかったでしょう」
「他の地域の魔法学科の教育進捗はどんな感じかね」
「茨城が突出しすぎていますので、他はもうどんぐりの背比べですね。人数が多いだけあって、東京では何人か使えそうな娘も出てますが……」
文科省からの出向委員が資料を見ながら答えていく。
「来年度の入学予定者はそれなりにおりますので、各県共にもう少し競争が進むと予想されます。ただ、茨城並みに戦力が整うかと言われますと厳しいでしょう」
「学生ではなく、実働魔法使いの訓練計画はどうなっている?」
「各地で研修レベルの訓練は行っていますが、いかんせん講師が……」
「ああ……榊原三佐と響くんか……」
響たちは近くに習志野があったため、あれが普通だと思っている。
しかし、あそこは日本最大級の魔境なのだ。
なんなら『第一空挺団 伝説』あたりで検索してみるといい。あの一角がどれだけの魔境なのかがよく分かる筈だ。
「しかし、このままだとジリ貧だぞ。魔法使いの数そのものが少なすぎる……」
現在日本に四百名いる魔法使いが、必死になって魔物退治を行っている。
自衛隊と魔法使いが合同で事に当たることも少なくはない。しかし手が足りない。
「せめてあの『ステータス・オープン魔法』とやらの一般公開を前倒しにできれば……」
「忌々しい野党の反対が、もう少し穏やかならもう出来ていた筈なんだがな。まぁ、この夏の衆院選までには国内向けには公開出来るだろう」
ステータス・オープン魔法の一般公開向けバージョンは、もう仕上がっていた。響の尽力により攻撃魔法無し、遠距離への生活魔法投射も無し、アイテムボックスも無し、という無い無い尽くしではあるが。
それでもリフレクトマジックを張ることもできるし、近い場所ならビリビリだって可能だ。か弱い女性でも、単体のゴブリンぐらいなら倒せるだろう。
攻撃魔法等は自分で習得しなければならないが、ステータスオープン魔法を使うことで魔力の流れに気が付けば、自力習得への道も短くなると思われる。
「ただ、人造魔法使いはやはり天然物に比べると、一段二段能力が低くなりがちです」
理沙さん、美智子さんのことかしら?
「んー……この瀬戸という少女は人造だと記憶してるんだが、このファイヤーボールのエネルギー値はトップクラスじゃないかね?」
「あ、えっと瀬戸さんは……はい、そうですね」
「ならば一概に低いとも言えないだろう。むしろ若いうちにどんどん覚えてもらったほうが良いのではないか?」
理沙さん美智子さんの魔法が微妙なのは、どちらかというと年齢ゲフンゲフン。
あ、でも小波さんはあの歳でもすっごい使いこなしてるな……流石に文香先生はあまり得意では無い様だけど。
結局、足りていない戦力はとにかく頑張って育てる方向で話がまとまった。
ステータスオープンの一般公開以降は、あらためて大々的に戦力補充……できればいいな? 的な希望的観測をもって会議が終わった。
「あー、うちは子供たちが優秀過ぎて困るわ。いやほんと掛け値なしで優秀過ぎて困った」
理沙がボヤく。
子供達が優秀で嬉しいんだけど、優秀過ぎて困る。
優秀な魔法使いが茨城に集中し過ぎているため、他県へ移転させろまで言われてきたのだ。
もっとも、茨城の娘たちがどれだけ過酷な訓練をしているのか体感させるために、他県から習志野まで訓練に来させる方向で無理やり話をつけてきたが。
「みんな小波さんに踏まれればいいのよ」
「でも、みんなが瑠璃ちゃんみたいに目覚めちゃったらまずくない?」
百里への帰り道、麻紀のベンツに同乗させてもらった理沙は、助手席で膨れっ面をしていた。
「あれは瑠璃ちゃんが目覚めたんじゃなくて、小波さんが目覚めさせられたんだと思うわ。あれ以来、小波さん、明らかに瑠璃ちゃん贔屓になってるもの」
「まぁ、瑠璃ちゃん可愛いもんね。うちの嫁の次ぐらいに」
「はいはい、ごちそうさまっと。さ、帰ったらまた訓練計画立てないとね。矢田先生のとこにも行かないと……」
こうしてる間にも、いつ出動がかかるかわからない。そのぐらい不安定な状況が続いている。
急いで帰らなければ……
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「ただいまーって、何やってんの?」
「あ、麻紀さん理沙さんお帰りなさいー」
「響ちゃん、なにやって……吉野くん?」
「吉野くんがね、ホワイトデーのお返し作りたいんだって。で、だったら一緒に作れば楽しいよ? ってお話したら、こうなった」
「あ、お世話になっています。あの、理沙さん麻紀さんにも食べてもらいたいです。俺の作ったクッキー」
出動さえかからなければ、こうやって青春満喫することだってできるのだ。
ただ、魔物の出現がこれだけ増えてくると本当にこの先どうなるのかわからない。
世界一の魔法使い、沢井響。
首相令嬢へと嫁入り? ということは玉の輿? でいいのかな?
彼女とその仲間たちのおかげで、ギリギリのところで日本の平和は保たれている。
しかし、何かの拍子にバランスが崩れれば……そうならないことを祈りつつ、ここは一旦お開きにいたしましょう。
一年六組のみんなは、あと数週間で二年生になります。来年度も新入生は入ってくる予定です。
そうなるとどうなるのか。
まず多分アレです。セトルリの旦那が増えます。多分一年生全員堕とすんじゃないかしら? 魔性の女です。
違う、そうじゃ無かった……
新入生も戦力になってくれば、より大きな戦力になってくるでしょう。
その娘たちに茨城県を任せられれば、二年生になる娘達は響並みに全国へと飛ばされるかもしれません。
更に、この娘達が全国の後輩を育てる先生になる可能性も。
来年度のことを考えてたら、鬼が笑うかもしれない。しかし、大鬼が大量に出てくるのを防ぐためにも、この娘たちに頑張ってもらわなければならないのだ。
さ、翌年度以降も、よろしくね。みんな。
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ヴィーーーーーーーーー……ヴィーーーーーーーーー……ヴィーーーーーーーーーーー
「警報っ、響、上がってもらえますこと? たぬき、回線確保お願いいたしますわ。おみティナカバーで響に続いてくださいませ。セトルリ、わたくしのバックアップを。指揮はわたくしが取ります」
『うさや、たぬき! 基地繋がったよ。回すね』
『うさやちゃん、理沙よ。現場は栃木県、男体山の麓。ワイルドボアが群れで山を下ってきてる。響ちゃんには直接行ってもらうわ。おみちゃんとちな子ちゃんはV-280で拾います』
『理沙さん、うさや了解。たぬきセトルリと基地へ向かいますわね』
『響ちゃん、理沙よ。男体山の麓、ワイルドボア数百、頼んだわ。状況開始』
『理沙さん、響です。状況開始します!』
響の後ろに虹色膜のロケットノズルが浮かび上がる。そして、爆音と共に音の壁を破り、ショックリングが広がっていった。
さて、沢井さんちの娘さん、あのちっちゃかった響がこんなに立派になりました……ん? 立派? あ、身長かっ!
てなわけで、沢井さんちはしばらくそっとしといてあげましょう。
次にお会いするときは、沢井さんとちょっと離れたところがどうなってるのか。その辺を見ていただくことになるでしょう。
それではまた、お会いいたしましょう。
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「ね、雪也……わたしたち、別れよ……」
「へ? 美夜恋……何言って……」
「魔法使いはね、恋なんて出来ないのよ……」
いや、だから誰だよお前ら……
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。
響達の物語は一旦ここまで。大丈夫。彼女達はきっとうまくやります。
さぁ、響はある意味チートな娘でした。まぁ、本家本元沢井の娘ですしね……あれでも姉たちよりは使いこなしてないはず……姉は音速超えられてないけど……
次回作も、同一世界観同一時期の日本が舞台になる予定です。と言っても、まだしばらくはかかりそうです。
その時にはまた、よろしくお願いいたします。
それではまた、お会いいたしましょう。




