日本全国魔物襲来
その日魔物に襲われたのは、坂出コンビナートと百里基地だけではなかった。
『第一小隊、第二小隊は第一魔法先導隊につき、”シー”を担当せよ。第三小隊、第四小隊は第二魔法先導隊に続いて”ランド”へ回れ』
東京湾岸ネズミの王国夢の国に、巨大ネズミの群れが現れた。
年越し営業のため、一晩中人が絶えないこの日、人々は中型犬程もあるネズミの群れに襲われた。
夢の国が悪夢の国に変わり、逃げ惑う人々に次々と襲いかかる魔物たち。
即座に習志野から空挺団が出動。見える範囲のネズミの駆除と、一般人の避難を担当した。
しかし、一般市民と魔物が混ざってしまうと発砲を躊躇う。当たり前だ。
近くに非戦闘員がいる状況での実弾射撃訓練は、自衛隊では特殊作戦群しか行っていない。
前にいるのが敵ばかりならば、空挺団の皆は精強無比の実力を発揮できる。しかし目の前で魔物たちに襲われる人々が群れでいる状況では、最大の火力を発揮するのは無理だ。
となると、魔物の群れの中へと飛び込んでいき、近接戦闘を行うしかなくなる。
しかも相手は人ではない。人間相手の格闘戦とは訳が違う。
幸い、彼らが持っている銃剣は実戦に向けて、きちんと刃をつけ研ぎ上げたものになっていた。しかし魔物相手に小さなナイフ一本では、やはり被害も大きくなる。
結局、園内の魔物を掃討し安全宣言を出せたのは、翌日元旦の昼近くにもなっていた。
民間人の死者も二十名を超え、自衛隊員の殉職もあった。
この大晦日から元旦にかけて、日本国内だけでも二百件以上の魔物出現情報が発令された。
各地で自衛隊や魔法使いの出動が間に合わず、それはそのまま国民の被害へと繋がった。
茨城県内でも、百里のサイクロプスだけではなく、日立市に現れたワーウルフ、またまた大洗に出たレッドボア、谷田部の自動車試験場を駆け回るブラックブラックパンサー等、七か所で魔物が確認された。
国内での普段の魔物出現数は三十から五十程度と言われているため、この日の出現数の二百以上と言う数字は突出している。
「あー、理沙ー、響ちゃんー、早く帰ってこーい」
美智子のぼやきが聞こえてくる。
基地の中はまだまだ混乱している。滑走路の復旧を最優先に、ハンガーで壊れている戦闘機の移動やエプロンに並ぶ擱座機の処理、倒された魔物達の移動など、やることは山積みだ。
しかし他の部署も手一杯なため、応援は望めそうもない。
V-280は理沙が乗っていってしまい、UH-2は壊されてしまっている。木更津にもう一機頼んではあるが、今日中は難しいとの回答をもらっている。
響を連れていったF-3は、百里に帰還できなかったために松島基地へと着陸した。
現在、百里からの魔法使いの出撃は出来ない状況になってしまった。
響と理沙は、神戸に荷物を下ろしたら戻ってくると連絡があった。しかし、まだ数時間はかかるだろう。
「飛行機あったとしても指揮者が今はわたしだけだしなぁ」
美智子がコマンダーとして一緒に出動すると、基地側が空っぽになってしまう。
理沙と美智子以外のオペレーターは、全員本部との兼業オペレーターなのだ。シフトがない時は本部詰めとなっている。
「ねぇ、あなた達もオペレーター業務の訓練してみない?」
夜通し討伐と片付けの手伝いをしてくれていた女子高生五人に、声をかけてみる。
「でも、前線も人手不足ですわよね? となると、やっぱり根本的に人を増やさないと手詰まりになるのは、変わりないんじゃございませんの?」
うさやさんは正論を吐く。
「と言ってもさぁ、オペレーターも魔法通信出来ないとお話にならないからねぇ。で、魔法使いになるとみんな実戦に向けて訓練始めるから、オペ目指す人が少なくてさぁ」
単純に戦力不足なことには違いがないので、教育する方も前線向けの魔法使いをついつい勧めてしまったりする。
「もうね、どうせなら戦って指揮できるスーパー魔法使い目指そ? ね? うさやちゃんならできるよきっとっ」
割と無責任な事言ってる気がする。
「はぁ。勉強するのはかまいませんけど、それってまた資格とか必要じゃございませんの?」
「大丈夫。麻紀さんがなんとかしてくれるわ」
「わたくしとたぬきは、他のみんなほど魔法の威力高くありませんしね……今度みんなで相談してみましょうか」
「そうしてもらえると助かる。ただ、今すぐは難しいだろうから、見習いってことでっ」
勝手に決めるな……せめて上司にお伺いぐらい立てろ。岡田主幹が拗ねたらどうする。
そんな会話をしている間にも、日本中で起こった魔物出現のニュースが次々と入ってきていた。
先ほどからテレビを点けているが、元旦らしい番組はほとんど無く、被害の大きかったネズミーランドや京都の神社の映像が繰り返し流されている。
「ネズミーランド、空挺のお兄さんたちが出てたんだね。大丈夫だったかな?」
セトルリが心配しているようだ。
「師匠達は出なかったのかなー? ニュース見てると、特戦の人向きの現場だったっぽいし」
「ああ、それは連絡来てるわ。ネズミーの前に海ほたるでも魔物が出て、そっちに先に行っちゃってたらしいわよ」
「なんでいきなりこんなに出てきたのかな。これが続いたら、あっという間に今の体制破綻しますよね?」
セトルリさん、あんななりしてるが、頭使ってますね。
「それがわかれば苦労はしない……とりあえずあとで響ちゃんに、お姉さんに相談してもうことになるだろうけどね」
と、ニュース速報が画面の上を流れていった。どうやら海外でも似たような事例が多発したようだ。
「ちょっと洒落になってない気がするわね……今日のところはあなた達は家に帰った方が良いかも知れない。交通機関無事かしら」
「最悪飛んで帰りますよ。魔法使いだし」
「飛んで帰れる魔法使いなんて、茨城県にしかいないからねっ」
実際には、北海道にも一人だけいる。
「理沙と響ちゃん戻ってきたら伝えておくわ。じゃ、全員で帰りの準備してもらえる? 送れるとこまでは車出してもらうから。おみちゃんの実家は遠いから、理沙戻ってきたらV-280で行こうか」
「あ、車でいいですよ。多分点検しないと飛べないと思いますから」
「ん、わかったわ。じゃ、基地の人に頼んでくるわね。わたしはここ離れられないから」
突然爆発的に増えた魔物の出現。一体何が原因なのか。
調査はこれからだが、そもそも何で魔物がこの時代に出てきているのかすらわかっていないため、判明するとも思えない。
いやーな予感を感じている美智子であった。
この日一日で、いったい何人の方が亡くなったのか……
魔女っ娘がんばれ!
それではまた、お会いいたしましょう。




