ドラゴンもまたいで通る
年越しの夜が明けた。
まもなく、初日の出が見られる時間になるのだが、まぁ場所的に初日の出っぽくはならないだろう。
なんせ海は北側にあるし、コンビナートのタンク群の影だし。
「はぁ……間近で見ると、やっぱり訳わかんない大きさね……」
ロープをかけられ、港まで曳航されてきたドラゴンを見て、呆れた様に話す理沙。
「この硬そうなのがバリア張るとか、そんなもんどうやって攻略しろって言うんです?」
と、秒で攻略した響が言う。
魔物による百里基地襲撃からドラゴン襲来まで、怒涛の年越しであった。
百里の被害は、こちら四国組には全く届いていない。しかし、こちらはこちらでまだまだ仕事が残っている。と言うか、理沙さんドラゴン見たくてウズウズしている。
「理沙さん、二十年前のドラゴンの研究をしてたんじゃないんですか?」
「研究室にはいたけどさ、直接見られたのは内臓とか、ツノとか、爪とか、なんかこう……ギルドに納品された部位っぽいのだけだったのよ」
「あー、なるほどぉ」
理沙が自衛隊を辞めて帝大に入ったのがドラゴン事件の二年後。研究室に入れたのはさらに二年後である。ドラゴンの解体なんて、とうに終わっていた。
「空飛んでる実物は見たけどさ、それだって一浬以上離れてたしさぁ、こうして近くで見るの、夢だったんだから」
あの時見た、夢のような生き物。あまりにも現実離れしていたために、それを知りたくて自衛隊から研究者へと舵を切った。
あの時の夢は、半分叶って、半分はまだ夢のままだ。
ドラゴンに限らず、魔物全般についてその正体は謎のままだ。これらの魔物が一体どこからきて、何がしたいのか全くわかっていない。
「うーん、あとで引き上げたら触らせてもらおう」
全長50mにも及ぶ巨体を引き上げるのは、とても大変な作業だ。
体が太く体積のあるドラゴンは、それこそ軽く100トンを超えるような重さがあった。
こんなもの、港のガントリークレーンですら持て余す。と言うわけで船舶を引き上げるためのスロープを使い、陸上げすることになる。今日の今日は難しいだろう。
「理沙さん、これ、陸にあげたいんですか?」
「ええ。できれば貨物船にでも載せて運びたいとこだけどね。とりあえず海からあげないと、傷んじゃいそうだし早めに手はぁぁああああ??」
ドラゴンが消えた。
巨大な体積が突然消えたことで、海水が荒れ狂っている。
「あ、アイテムボックス入れちゃいましたけど、どこ持って行きます?」
「あれ入るのっ⁉︎」
「入りますよー。って言うか、理沙さんのアイテムボックスでもギリ二匹入りません?」
「いや、あのサイズ入れようと思った事ないから……入れようと思わないと入るかどうかわかんないよ……」
うむ、魔法使いすげーな。
「じゃ、どこ持ってきます?」
「いや、急に言われても……」
それも含めてこれから決まるはずだ。下っ端オペレーターが知ってるわけない。
「じゃ、とりあえず帰りましょう。そろそろ眠いですし」
徹夜でお仕事してたもんね。さぁ、戻りましょうか。
現場の残り作業は善通寺の第十四旅団に任せ、理沙と響はV-280で飛び立った。
♦︎
百里基地は、まだ混乱が続いていた。
滑走路は一本、なんとか離着陸ができる程度には復旧した。
しかしエプロン周りは酷いものだ。
F-2が二機、F-3が四機、翼や脚を折られて擱座している。
アラートハンガーでも二機のF-3が破壊されており、対策室のUH-2もひっくり返って転がっていた。
また、死者こそ出なかったものの負傷者は多く、意識不明のまま搬送された隊員も複数いる。
「これからは空自の警備科にも重火器が必要か……」
平空将補が憮然とした表情でつぶやく。
まさか魔物が基地に直接現れるとは、思っていなかった。
しかもかなり凶悪な攻撃力を持つ魔物が多数。
この一戦で出た損害は、金額ベースだと軽く一千億円を超えてしまう。東京ドームの比ではないのだ。
F-3一機の金額で、東京ドームとか余裕で作れちゃうんだから仕方ないが……
「まぁ、政府にお金出してもらうしかないなぁ。防衛省にはもう、金なんてないぞ……」
♦︎
一方、百里に帰ろうとしていた響と理沙は、そのまま対岸の神戸へ飛ぶように指示を受けた。
毎度お馴染み理研のキャンパスだ。帝大ではこんな巨大な魔物を取り扱えないため、三宮のキャンパスに放り出してこいとのこと。
「じゃ、この倉庫の中に広げれば良いですか? 二匹いますけど、両方?」
「バーンとやっちゃってくれや、バーンとっ!」
なんか豪快なオッサンに言われて、バーンと出した。
「うおっ! いや、こりゃデカいな」
「大きさわかってましたよね? で、ちゃんと二匹いるよって言ってましたよね?」
「まぁ、なんとかなんだろ。全館冷蔵出来るし」
「あー、あっち側、重なっちゃいましたね。ちょっと直してきますね」
響はヒョイっとドラゴンを飛び越え、二匹目に潰され気味の一匹目を再度仕舞い込むことで移動させていく。
「あー、響ちゃん、ドラゴンをまたいで通るのか……ドラまたHiBiKiって呼んでやろうかしら……」
高校時代に読んだ古いラノベを思い出して、一人ごちる理沙だった。
またがれるんじゃなくて、またぐ方かいっ!
それではまた、お会いいたしましょう。




