基地掃討戦
タタタタタタ、タタタタタタ
軽いアサルトライフルの発砲音が響き渡る。
次元鏡は駐機場に突然現れた。
しかもサイズは特大級だ。
中から現れたのは一つ目の巨人、サイクロプス。
しかも数が多い。あっという間に十数頭の巨人が現れ、エプロンに駐機されていた対策室のUH-2が押し倒された。
さらに数頭がそのまま進み、アラートハンガーのシャッターを破壊、中で待機しているF-3も蹴り倒す。
その頃には基地警備の隊員が集まり始め、基地に有る地上戦闘用の武装を持って対抗を始めたのだが……
「ちっ、こんな7.62mmじゃ足止めにもならん……チキショウ……」
基地警備には20式改の7.62mm小機銃と、64式7.62mm小機銃しかない。
それ以外の基地の装備は、対空兵器しかない。
「スティンガー持って来いっ、この距離なら直接照準でもっ」
「無理だ。水平発射は出来ねぇ。モーター点火前に落ちちまう」
「ああ、滑走路が……穴が……」
「エプロンの戦闘機にも取り付かれた……」
『理沙、こちら美智子。百里の滑走路に大きいの多数』
『美智子さん、響です。お先行きますっ』
『みっちゃん、無理せず響ちゃんのカバーを。こちらもすぐ応援行きます』
美智子の脇を響が追い抜いていった。
と言っても、美智子ももう到着するところだ。
『響です。現着しました。サイクロプスが現在二十、まだ出てきています。まず穴塞ぎします』
『響ちゃん、理沙です。穴塞ぎお願いします。状況開始』
『状況開始します』
響はまず、鏡の前にバリアを展開し、それ以上魔物が出てこられないように対処した。
「あー、それでも結構散らばっちゃってる……」
とりあえず、見える範囲の魔物にレールガンを撃っていく。
しかし、もう建物内へと侵入を果たしてしまっているサイクロプスが数頭いた。
『美智子よ、ハンガーの中っ、もう入られてるっ!』
美智子はいつも通り対策室へと飛び込もうとしたところで、すぐ隣のアラートハンガーへと入り込んでいるサイクロプスを発見した。
響はまだ鏡と滑走路上の魔物の対処をしている最中だ。
アラートハンガーには、まだ警備の人員は来ていない。今ここで戦える人間は……
美智子も魔法使いだ。攻撃魔法の訓練も一通りは受けている。
もっとも、あまりにもセンスがないため、実際に使うことになるなんて、これっぽっちも考えたことはなかった。
「もう……こんなの予想してないよ……やだよ、来ないでよ……」
ここには航空機もあれば航空燃料も置いてある。火気厳禁だ。ファイヤーボールなんてもってのほか。
電子雲のレールを展開していく。
「だいたい、わたしも理沙も、自衛以外で攻撃魔法使うなって言われてるのに……」
今、まさに自衛じゃないかな? かな?
相手が巨大なため、出力は最大。弾丸サイズは響以外の魔法使いに許されている最大値、5.56mm。初速も最大の8km/s。これでも倒せるかどうかの自信はあまりない。
しかし、やるっきゃない。快適な職場を守るためにも。
「ばんっ!」
サイクロプスの右の手首付近へと命中した鉄球は、着弾と同時に体液を通して体内へと衝撃波を伝えた。
液体中の音速はおよそ1.5km/s程度。それを大きく超える衝撃は、血液内を通過するときに気泡を発生させながら血管を引き裂いていく。
当たった手首付近はもちろん、腕全体の血管が炸裂し、皮膚を突き破って血液を飛び散らせた。
右腕を完全に失ったサイクロプスが、よろめきながら戦闘機へと倒れ込んだ。
ただ、手首を貫通した鉄球は、後方に有る戦闘機の左垂直尾翼をも撃ち抜き、尾翼下部に大穴が空いているのが見える。さらにその後方、アラートハンガーの外壁の鉄骨も大きく歪んでいた。
「うー、頭狙ったのに、なんで右腕……」
いや、せいぜい50mかそこらの距離で、なんでそんなに大きく外す? 今、頭と手首って、数メートルは離れてたよね?
けど、もう一頭いるのだ。ハンガーの中には。そして、そのサイクロプスはじっとこちらを見ていた。
反省している暇はない。もう一発の弾を浮かべ、今度こそ集中して電子雲製の銃身の向きを調節していく。
「もう少し右……かな……ああ、良くわからない。あ、向かってくる……撃たなきゃ……ばんっ」
外した。
外れた弾は、隣の無傷の戦闘機へとすいこまれていく。コクピットの右下前から進入した弾は、アビオニクスを吹き飛ばしながら左エンジンのファンブレードを弾き飛ばした上で左翼の接合部を破壊して飛び出し、アラートハンガーに穴を開ける。
「もう一発っ、バンっ」
今度は当たった。
右の太ももに命中し、下半身を丸ごと爆砕させ、ハンガーへと……
「あ、当たった……やった……」
「美智子さんっ、大丈夫ですか?」
響が飛んできた。
どうやら外の魔物の掃討は終わったようだ。
「う、うん、ハンガーに二体いたけど、処理できてると思う。ちょっと後ろにも被害出ちゃってるけど……」
「ある程度の被害は仕方ないですよ。美智子さん、凄いです。サイクロプス、大きかったのにみんな一撃じゃないですか」
一撃なのは魔法のせいだけどな。あと、戦闘機も一撃な。
「響ちゃん、とにかく他にもいないか確認してもらえるかな? あと鏡はどう?」
魔物が飛び出してくる鏡の状況も気になる。
「鏡はまだ健在です。さっきからモーモーと魔物の声が響いてきますから、まだ出続けてるのかもしれません……」
そこに後発組の理沙、ティナ、おみが降りてきた。
「みっちゃん、生きてるっ? あ、大丈夫そう。よかった……」
幼馴染の安否はやはり気になるのだろう。
「どう? 被害は?」
「出現したのは合計二十八頭だと思います。二十六頭はわたしが、二頭は美智子さんが倒してくれました」
「おおっ、みっちゃんやるな!」
まぁ、あとで被害を見たらちょっとビビるかもしれないけどね……
と、そこに本部からの通信が入った。
『百里対策小川、対策本部岡田だ。瀬戸内海にドラゴンが出た。しかも複数だ。響くんを向かわせてもらえるか?』
ドラゴン……二十年前に四国沖に出て以来、出現記録は一切ない魔物だ。
他国を含めて、ドラゴンが出た記録は無いのだ。
それが、複数?
『岡田主幹、小川です。百里基地が魔物に襲われ、滑走路にも被害が出ています。こちら、派遣が難しい状況です』
『なんとかならんか? ドラゴンがカバーしあってリフレクトマジックを張ってる様で、空自の戦闘機が手も足も出ない状況なのだ』
『お待ちを……』
理沙は振り向き、響に顔を向ける。
「響ちゃん、行ける?」
「行けますけど、足どうしましょうか? 自力で飛びます?」
滑走路には大穴が開き、UH-2は潰れている。
幸い対策室のF-3はハンガーに侵入されていないため無傷だが……
「俺が飛ばしますよ」
「ウォッシュさん!」
新田 光一等空尉。待機中はほぼ対策室担当となっているベテランパイロットだ。
「ランウェイは両方やられちゃってるけど、タクシーウェイは生きてるよ」
「でも、百里のタクシーウェイは曲がってるからっ!」
「F-3の短距離離着陸性能、舐めんなって」
「行けるのね?」
「まっかせなさーい。あ、上手くいったらあとで理沙さんデートしてくれる? まぁ、上手くいくんだけど」
「考えとくわ」
理沙は響に目で合図し、アラートハンガーで防災活動中の整備員を呼びに行かせる。
『岡田主幹、小川です。響ちゃんに飛んでもらいます。マジコン出動しますので三十分で現着します』
『助かる。即応出動を頼む』
『百里対策了解しました!』
響が整備員を連れて戻ってきた。
さぁ、休む間もなく出動だ。
ハンガーのシャッターは、今おみが開けに飛んでいった。
整備員は機体下へと駆け込みながらそれぞれの役割を果たしていく。
エンジンヒーターへの電源をカットし、始動用電源を立ち上げる。
パイロットが機内に乗り込むのを補助し、タラップを仕舞い込む。
響がマジコンに入り込むのを補助し、ドアのロック確認を共にする。
コクピットに乗り込んだウォッシュは、シートベルトを締めながら左手で補助動力装置を起動し、機内の電源を確保していく。
右エンジン始動、動翼確認、左エンジン始動、武装の安全ピン取り外し確認。輪留め払え。
『行く』と決まってから、二分少々で機体がハンガーから顔を出した。
普段ならそのまますぐに滑走路に向かうところだが、今日はその滑走路が使えなくなっている。
『コントロール、ウォッシュだ。非常事態につきタクシーウェイから上がる。この状態なら着陸機はないだろ』
『ウォッシュ、こちらコントロール。アホを止めるのは無理だって、カンクリに教わってるからな。勝手にいけ』
カンクリってのはあれだ。七十年前の百里の伝説級パイロットの名前だ。
『響ちゃん、ウォッシュだ。くの字抜けるまでは流石に急ぐのは無理だ。ちょっとそこでゆっくりしててくれ』
『ウォッシュさん、無理言っちゃってすみません。あの、なんなら理沙さん、熨斗つけて差し上げますが……』
『あはは、あの人がそんな玉かよ。まぁ、適当にあしらわれておしまいだろうけどな……よし、行くよ』
無事、くの字をクリアしたF-3戦闘機が、一気に加速を始めた。
『さて、1,000mの滑走路で、がんばらせてもらおうかっ』
スペック上、空荷ならば850mで離陸できることにはなっている。さらに、今は一月一日。時間は深夜。気温はとても低く、空気密度も湿度も文句なしの状況で有る。
ただ、マジコンと増槽が装着されているため、計算上はトントンになってしまう。
『そーらそらそら、いきなりローテーションっ』
まだ離陸決心速度まで上がっていない状況で、物理法則に反したように機首が持ち上がった。
『ベクターノズル、舐めんなよぉ』
推力偏向ノズルにより、無理矢理推力方向を上に向けられたエンジンは、後ろ脚を支点にしてお尻を押し下げ、機首を無理矢理持ち上げてゆく。
水平尾翼は通常の離陸時とは逆に動かし、後輪への荷重を分散していった。
フラップと共に、前後の翼で揚力をひたすら稼いだところで、ノズルの向きを通常位置へと戻していく。
『V2!……と同時にギヤアップ!』
主脚の荷重が抜けた瞬間には車輪を仕舞い始めた。一秒でも早く抵抗を減らしたいがための小技であろう。
『漫画で覚えたっ』
いや、やめてくれよっ! そーゆーのいけないと思いますっ!
真似する人が出たらどうすんのっ! って言うか、真似する人ここにいたよっ!
しかし、上がれた。気がついたらもう百里基地が遥か下に見えている。
ここから瀬戸内海までおよそ600km。
『理沙さん、響です。行ってきます。あ、百里のお片付け、お願いしますねー』
『響ちゃん、理沙です。あー、片付けは美智子に任せるわ。わたしはV-280ですぐ追いかけます。ただ、対処できそうならやっちゃってオッケーです。状況開始しちゃってね』
『はい、じゃ、倒して待ってますね。行ってきます。響アウト』
さぁ、美智子さん、始末書がんばれっ!
美智子さんの魔法、危ないです……だから素人に魔法持たせちゃダメだとあれほど……
ウォッシュさん、そうですか、理沙さんですか。美智子さんの方が一般ウケすると思ってたんですけどねぇ……
それではまた、お会いいたしましょう。




