初詣
「うふふ」
「ん? どうしましたか? めぐみさん」
「いえ、聖一様と出会えた奇跡から、ちょうど一年が経ったのですねと……」
「そういえば大晦日でしたね。あの火災は……」
一年前の今日、三浦めぐみの実家が燃えた。
サラマンダーの上位種による襲撃のため火災が発生、その対応で出場した聖一と出会った記念すべき聖夜だった。
「今ではあのトカゲに感謝しておりますのよ。聖一様と出会えた奇跡を……」
とか言う甘々な空間を脱出するため、たぬきはソロソロと台所を抜けて外に出ようとしていた。
と言うか、そんな甘いお話は自分ちでやってくれと。わざわざ姪っ子の家に来てまでやるなと。
「お、詠美。出かけるなら一緒に行こう」
婚約してもまだコレだし。
聖一おじさんは、詠美ファーストなまま婚約してしまった。
「あら、でしたらわたくしも参りますよ。詠美さま、基地でよろしいですの?」
今日はみんなで二年参りに行く予定だ。
本当なら基地待機終わったらそのまま行くつもりだったのだが、午後になったところで一度解散になってしまったのだ。
そのため一旦自宅に戻り、一息ついてさぁ……のところで捕まってしまった。
「今日は、おめかししていかないのか?」
「あ、その辺はうさやと麻紀さんが手をかけるからそのまま来いって……」
「あら、今日は麻紀さんもいらっしゃるのね。じゃ、この間宿題に出されたレポートも持っていかないと」
めぐみさんは来年夏の衆院選に向けて、只今鋭意準備中である。
そしてその最大のブレインは武藤麻紀だったりするわけで……ほんとに凄い人なんだからね? 麻紀さん。響が絡むとポンコツ化するけどさ。
「じゃ、ちょっとお化粧直してきますね。聖一様、詠美様、すぐ戻りますので」
「姉ちゃん初詣行くの? 彩香お姉さんも来る?」
「ん、いるよ」
「じゃ、僕も行くっ!」
こうして、樽木からは四人が参加になった。
♦︎
「あー、響ちゃんちょっと待ってぇ。あとこれも積んでくから。詠美ちゃんに着せる振袖っ」
いやいやいや、いくらおめかしさせるって言っても振袖はやりすぎじゃね?
『たぬきちゃんの振袖姿とか、めちゃくちゃ似合うと思わない?』
あー……うん、それはそうかも。
『だから着せるの。そこに疑問点は存在しないの』
お、おう……
響に着せなくて良いの?
『あーれーって奴やりたくなっちゃうから無理ね』
だめだこの人、早く何とかしないと……
♦︎
「ねぇねぇ、お姉ちゃん。初詣は今日から行くの?」
「ええ。今日から参りますわよ。クラスのみんなと行ってきますわ」
「いーなー。紗理奈、一緒に除夜の鐘撞きに行こうって言ってた友達がね、不純異性交遊して外出禁止になって……」
ってどんな友達だよっ! 紗理奈ちゃん、まだ厨二だよね? いや、厨二だからか……
「なら一緒に行く? いつものみんなと、吉野くんとか基地のお姉さん達とかも一緒だけどさ」
「え? 吉野くんもいるの? 行くっ!」
「あらあら、なら送り迎え必要よね? ママも一緒に行くわね?」
♦︎
「お兄、あたしもっかい出掛けてくるから」
「出かけるって、おい瑠璃、こんな時間からどこ行くんだよ」
「基地だよ基地。クラスのみんなと初詣行くの。エヘヘヘヘ……年越しティナ子成分を補充しないと……」
「な……なんか危なそうだから俺も行くぞ」
「はぁ?っ」
「俺も一緒に行くって言ってるの。……うちの壊れ妹を矯正したのはどこのどいつだ……チキショウ」
って、平基地司令よりヤバそうな人出てきましたよ。
♦︎
「ん? お母さんこの後出かけるの?」
「ええ。生徒がね、初詣に誘ってくれたのよ」
「じゃ、今から茨城まで戻るの?」
「明日のお昼までにはこっち戻ってくるから。うちの生徒がねぇ、ほんとにいい子でねぇ」
「あはは、知ってるよ。うちの研究室にもお母さんの教え子のデータは回ってきてるから」
「お節とお雑煮の準備はできてるからね。お父さんとお兄ちゃんの面倒お願いね」
「はーい。その分お年玉は期待しとくからねー」
「任せなさーい」
文香先生の娘さん、お母さん似なのね。低身長で、出るとこが出過ぎてるとこまでそっくりって……。
♦︎
大晦日の夕方遅く。百里基地の警衛室にゾロゾロと民間人が押し寄せた。
まぁ、みんな対策室関係の人々なので、ナァナァで基地に入れてしまうあたり、それってどうなん? とはなるが、責任は対策室に押し付ける事ができるのでまぁ良いか……って、良くないわっ!
「みんないらっしゃーい」
理沙さんが出迎えてくれる。
いやぁ、今日は人が多い。理沙さん美智子さん麻紀さんに、六組の六人、吉野くん、たぬきの弟浩太くん、うさやの妹うさりちゃんと、お母さんの恋歌さん。聖一さんに聖女めぐみ。セトリナのシスコン拗らせた兄。
総勢十六名。対策室はもうパンパンです。
少し早めに着いたたぬきさんは、麻紀さんに着付けられてうさやにメイクをされてます。
吉野くんはもう、心臓握り潰されたみたいな顔して息も絶え絶えです。多分放置してたら鼻血吹き出して死亡するでしょう。
あと、聖一叔父さんも死にそうです。
「うわー、たぬきお姉ちゃん、綺麗……」
うさりちゃんも感動しています。
セトルリのお兄さんは、あまりの美女率美少女率の高さで、やっぱりこれも死にそうです。
今まで妹しか目に入ってなかったのに、目移りしてるとか
『お兄の癖に生意気……つかキモいわっ」
ん? セトルリちょっと嫉妬?
『してないしっ! あとあたしのちな子に色目使うなっ』
『使ってねーしっ! って言うか、やっぱ一番は瑠璃だしっ』
『キモいっ!』
『ビクンビクン』
アイコンタクトで変態兄妹するのやめてくれませんか?
「はーい、じゃ、ソロソロ行きましょかね。みんなはぐれないようにね?」
理沙さんの合図で、みんなでゾロゾロと歩き出す。
セトルリはちな子にべったりくっついてスーハースーハーしてる。
瀬戸兄は寂しそうにそれを目で見送った後、紗理奈ちゃんの後ろをちょこちょこと着いていく。
ふむぅ、やはり華奢系が良いのかね。
彩香も恋歌も華奢だけど、一番はやっぱり一番年下の紗理奈ちゃんだし……って、だめだ。やっぱり平基地司令よりも危ない人だよ、これ。
吉野くんはたぬきさんと並んで歩く。たぬきさんのペースに合わせてゆっくり歩く。なんなら段差で手を貸してあげている。
甘い、甘すぎる。砂糖のマーライオンができてしまう。
それを見ながら手を繋いで歩いているのは、麻紀さんと響。身長差がありすぎるので、下手するとリトルグレイの写真みたいになりそうだけど、そこは麻紀さんの可愛らしさでカバーを……黒目の大きなお目目とか、微妙にリトルグレイっぽさもあったりするけど。
そんなこんなで神社について、振る舞われている甘酒飲みながら列に並んだ。
みんなそれぞれ楽しそうにペアを組み、何を祈ろうかなー? とか考えながら並んでいる。
風が冷たく息は白いが、それぞれみんな好きな人と一緒にお出かけして、みんなで楽しくヴーーーーーー、ヴーーーーーー、ヴーーーーーー
はぁ……またですか……
「指揮取りますっ。総員着帽!」
理沙さんがかっこいい。
「うさやちゃん、中継お願い。美智子、基地戻ってくれる? 麻紀さんは公衆電話確保してください。民間人の方は避難を」
「はいっ!」
うさやと美智子が即座に宙に舞う。
うさやはそのまま高度を上げ、美智子は基地に向かって一直線。
「響ちゃん、何かわかるかしら?」
「んー……今探ってます。半径3kmぐらいだと何も見つかりませんねぇ。もう少し外だと……って、これ、基地っ! 百里基地に魔物多数っ! このままだと美智子さんが……」
『美智子、理沙よ。百里基地に魔物多数。下に降りないでっ。すぐにカバー行くわっ』
『理沙、美智子了解。こちらまだ半分ぐらいの場所。応援待ちます』
「響ちゃん、先行できるかしら? えーと、瑠璃ちゃん、うさやちゃん、たぬきちゃん、こっちに残ってみんなの保護お願い。おみちゃんティナちゃん、わたしと百里まで飛べるかしら?」
「「「了解っ!」」」
ゴーン……ゴーン……
除夜の鐘が、魔物警報のサイレンにかぶって鳴り始めた。
皆様はもう初詣は済まされましたか?
お正月会、お正月に間に合いませんでした……しかも、まだ微妙に大晦日のままです……明日には年越しするはず……
それではまた、お会いいたしましょう。




