基地の一日 (セトルリ)
コロコロコロコロ。
ツルツルにすり減ったタイヤを転がしている女子高生。なんかシュールです。
百里基地では整備科の方々による戦闘機の整備が行われていた。
取り外されたタイヤは、三本まとめてタイヤ置き場まで運ばれる。
そこにコミュニケーション地雷のセトルリさんが参加して、お手伝いしているところであった。
「おっきなタイヤですよねー。これ、バスやトラックのタイヤぐらいですか?」
「もう少し大きいかな。でね、空気圧も高いから危ないんだよ、これが」
整備科のお姉さんが一緒にタイヤを転がしながら色々と教えてくれていた。
地雷というメッキが剥がれてしまったセトルリは、もうひたすらあちこちで可愛がられていた。
基地内には、見た目だけでどうこういう人はもう残っていない。だってセトルリ可愛いもん。
「あ、ラピスちゃん。積み上げはこっちでやるからそこ置いといて」
「はい、じゃ、ここですね。よいしょっと」
油断すると瑠璃ちゃんって言われるが、一応頑張ってコールサインで呼んでもらえるよう努力している。
「次は何手伝いましょうか?」
「んー……今は大丈夫かなぁ? あ、92608の機付長がなんか言ってたかな?」
「はーい、わかりました。ちょっと様子見てきますね」
92608は百里に常駐しているV-280の機体番号だ。機体と操縦士は陸自から来ているが、整備は百里の人員が行なっている。
V-280やオスプレイの様な特殊な機体は整備も特殊だ。アメリカでの整備研修も、戦闘機よりも時間をかけてやっていたりする。
「こんにちはー。何か御用ありますかー?」
セトルリやい、あんたは三河屋かっ!
「お、ルリちゃんいいとこに来たね。608で着陸する時、後ろに居て何か違和感とか感じた事ない?」
「違和感ですか?」
「そそ、なんか風受けたみたいとか、音がしたとか、なんでもいいんだ」
基本的に操縦士から不調を訴えられた時は、飛んで確かめるよりも先に聞き取りを優先する。
万が一大きなトラブルに繋がる不具合の場合、試験飛行そのものが危険な可能性があるのだ。
「あー、そーゆーのだったら、三番目の座席の真上辺りの音が、最近うるさい気がします」
セトルリ凄いな……普通の女の子は異音とかめっちゃ気にしないんだが……
「って、響が言ってました」
お、おう……響なら仕方ないよな……
「ありがたい、ちょっとその辺りも確認してみるわ」
セトルリのこの一言で、翌日にはタービン間を繋ぐ動力パイプの不具合初期症状が発見され、トラブルを未然に防ぐことができた。
訓練がない時や勉強会がない時、セトルリはこうして基地内を歩き回りあちこちに顔繋ぎをして回っていた。
学校では情報通として通っているセトルリだが、やはり自衛隊基地は管轄外だ。しかしそれでヨシとする娘じゃないのはご存知の通り。
セトルリは、旦那連を快適に過ごさせるための努力を惜しまないのだ。
『スクランブル、スクランブル……』
あ、魔物ではない方のスクランブルがかかった。アラートハンガーでは、大騒ぎで五分待機の戦闘機を上げる準備をしているだろう。
セトルリも窓から外を確認し、左手側のアラートハンガー方向へと視線を走らせる。
天候は曇り。ちょっと暗めの雲が、今にも雨を落としそうな顔して澱んでいる。
ハンガーから青色をした戦闘機が出てきた。今日の待機はF-2戦闘機だったらしい。
最近、響がマジコン出動するため専用のF-3が一機用意されたため、基地のアラート任務のやりくりが微妙に大変になった。
国が戦闘機は用意してくれたが、人員は基地が捻出しなければならなくなったのだ。
おかげでシフトスケジュールがギリギリになり、飛行隊みんなに余裕がなくなってきている。
訓練計画も遅れ気味になってしまい、あまりいい事がない。
かといって、従来の通り魔物と外敵に対するアラート任務を兼ねさせると、マジコン装備のF-3で対空邀撃任務に就かなければならなくなる。
難しいジレンマだった。
「ん、F-2上がりましたねー。何かのためにあたしも対策室に戻っておきますね。じゃ、またきますー」
基地内うろうろモードから、お仕事待機モードへ。
駐機場に出ると対策室に向かって宙を舞った。
最近は空を飛ぶことをガミガミ言われなくなりつつあり、高度10ft程度であれば飛んでいても怒られない。
ただし、ヘルメットは必ずかぶっているが。
空を飛んでいけば、対策室まではほんの数十秒だ。あっという間に辿り着くと、対策室の扉をがばっと開き、中に声をかける。
「ただいまー」
「ん、お帰りなさい。紅茶で良い?」
入った瞬間にお茶を淹れてくれる美智子さんが素敵すぎる。
「ありがとうございます。ストレートでお願いします」
ストレートはまぁ、いつも通りの飲み方だったりする。ミルクティーとかじゃないんだ……意外だわ。
「セトルリ、今のスクランブル見てた?」
響がクッキーを咥えたまま話しかけてきた。お行儀悪いな。
「見てたけど?」
「あ、気が付かなかったかな?」
「ん? 何かあったの?」
「さっきのF-2ね、垂直尾翼に箒に乗った魔女の絵が描いてあるんだ」
「箒に乗った魔女?」
「そ、ツインテールでメッシュ入りの髪の毛した赤目の魔女の絵」
「え? え? ええええええええ?」
どこからどう見てもセトルリさんです。
実はセトルリファンの整備科の人間の発案が、平基地司令の耳に入り、その場で決定したらしい。
あの人はセトルリ好きすぎだもんね……
「まいっか。ついでに旦那の迷彩服のワッペンもそれにしてもらえれば怒んないよ」
「いや、そっちは陸自だし無理じゃない?」
「こんど空自のグレーの迷彩服も貰おうっ!」
常に前向きなセトルリさん。以前吉野くんへの気持ちが折れた時も、前方三回転宙返りを決めて前を向いていた事を思い出したわ。
一年六組のムードメーカーは、百里基地全体のムードメーカーでもありました。




