新兵器開発
現在、航空自衛隊で使っている空対空ミサイルは、ほぼ全てが画像解析型追尾システムを搭載している。
レーダー装置がほぼ無力化されている上、魔物は赤外線放射もほとんどないため、従来の電波式誘導装置や赤外線誘導装置では対応できなくなったためだ。
ただ、誘導装置が変わっただけで、射程距離も威力も以前と変わってはいない。
そう、二発でドラゴンも撃ち落とせる炸薬を持ち、マッハ3で数十キロ先まで飛んでいくだけの燃料を積んでいる。
それはそのまま大きさに反映され、呆れるほどミサイルを積めるF-3戦闘機でも、最大十二発までしか搭載できなかった。
これは、近年増えている空飛ぶ魔物たちの飽和攻撃に対応することができず、早急の対策を求められていた。
防衛装備庁でも喫緊の課題として開発が進められており、その中でも高い評価を得て期待されているのが『マイクロミサイル』であった。
従来の画像追尾式ミサイルが、直径5インチ、長さ10ftであったところを、直径2インチ、長さ2ftの極小サイズにまとめ上げたものだ。
炸薬量は手榴弾と変わらないレベル。射程距離もわずか8km以下、最高速度だって音速をちょっと超える程度であり、対戦闘機用ミサイルとしては性能があまりにも足りない。
しかし、ワイバーンを撃ち落とすぐらいであれば、十分以上の性能があると評価された。
この小さなミサイルを、従来のミサイルとほぼ同等サイズのキャリアにセットすると、ミサイル一発分のスペースに十二発のマイクロミサイルを搭載することができる。
更に、このミサイルキャリアをF-3戦闘機に目一杯搭載すれば、戦闘機一機あたり合計百四十四発ものミサイルを運べることになる。
構造上、十二発単位でしか発射できないが、母機が同時追尾出来るのが最大三十六目標なため、何百頭もの魔物の群に対しては絶大な威力を発揮出来る……と良いなぁ? なんて期待されている。
というわけで紀伊半島沖、南海トラフ上空。
原型機初飛行から一世紀、今でも空を飛んでいるC-130Hから投下されていく標的機のドローン群が、編隊として空を舞っている。
過去に撮影されたワイバーンの群れの動きを再現し、それっぽい機動で50ノット程度で移動させる。
近くを飛ぶのはいつものビートル。各務原からポンポン気軽に飛んでくる、エーステストパイロットさんだ。
『マンボ、ビートル。投射後の離脱は五浬あれば充分なんで、観測優先してくれ。当たんないから大丈夫!』
『ビートル……頼むよ? ほんと頼むよ? フリじゃないからな?』
『はいはい、言ってる間に退避してな。ビートル、現実拡張モードから仮想現実モード移行する』
ビートルの使っている新型ヘルメットは、バイザーに必要なデータを投影するモードから、真下や真後ろでも完全に目視できるバーチャルリアリティモードに切り替えられた。
自分の体も無視されるので、生身で飛んでるよりも良い視界が提供される。
「と言っても、魔法使いのあの娘らは、もっとなんでも見えてるって言うんだからチートだよなぁ」
辺りをぐるりと一周見回す。飛んでいるのは母機のマンボと標的用ドローンが百四十四機。
民間機や民間船の姿はない。航路から外れるとこんなもんだ。
『こちらビートル、試験開始。目標追尾開始』
VRモニタ上で三十六機のドローンが自動的に選択され、ターゲットマークが表示されていく。その中でも、距離が近づき射程内に捉えられたものから赤いマークがつき始めた。
赤いマークが十二個を超えたところで攻撃判断をする。
『投射用意……発射っ!』
翼下に吊られたマイクロミサイルキャリアが機体から離れる。
キャリアは回転しながら落下し、次々と子ミサイルの放出を始めた。
白い噴射煙を噴き出しながら、マイクロミサイルが目標へと向かう。
推力の少ない小さなロケットモーターではあるが、軽いので割とすぐに最高速へと達した。
今までの観測から割り出した、ワイバーンの運動能力を再現していくドローン。そこに襲いかかる十二発のミサイル。
目標を可視光線映像、赤外線映像、で認識。周辺にいる十一発の仲間とレーザーで通信し、目標が被らないようにターゲットをロックしていく。
ターゲットとの距離をレーザー測定しながら接近し、充分近づいたと判断したところで爆発する。
小さなミサイルの近接爆発。地上の大型モンスターなら二、三発喰らったところで問題なく活動するかもしれない。
しかし空飛ぶ魔物は大抵繊細である。
薄い翼を破られれば、割と簡単に地面に向かって落ちていく。
と言うわけで、やはり同じくらい脆弱なドローンであっても、テストとしては充分な……な……
『うわ、マンボ、ビートルだ……十二発のマイクロミサイルで、六分の一のドローンが堕ちたわ……』
ちょっとドローンは弱すぎたらしい……
『ビートル、とりあえず全部落としてくれ』
『ビートルラジャー。ドローンスレイヤーの称号頼むよ』
あんまり欲しくないな、その称号。
もっとも、陸自には対ドローン戦闘のスペシャリストなんて人もいるらしいが……
結局、百四十四機のドローンを撃ち落とすまでには、八発のキャリアを放出し、合計九十六発のマイクロミサイルが消費された。
中にはモーターの点火に失敗して落ちたミサイルや、命中に至らなかったミサイルもあったが、八割以上の確率でドローンに当たっていく姿は、とても未来の戦争っぽかった。
まぁ、実際近未来だけどさ。このシーンも。
こうして、マイクロミサイルとマイクロミサイルキャリアは制式採用への道を歩み始めた。今のこの被害状況では、制式化される前に実践投入されるのも間違い無いだろう。
後日、魔法使いとの訓練として、弾頭を抜いたマイクロミサイル百四十四発の一斉射撃を響に向けて撃ったところ、百メートル以内まで近付くことが出来たミサイルは、一発も無かった。
魔法使いがほとんど出てこなかった……いやまぁ、魔法使いに頼らず戦うための装備を作ってるんですから仕方ないのですが……
それではみなさま、良いお年を。




