文化祭
『ただいまより、蒼星祭を、開催いたします』
放送委員会の校内放送が入り、祭りが始まった。
一年六組は、自分たちの教室を使っての展示である。
まだ出来たばかりの新校舎。学校設計時の動線から外れた新校舎。当然人があまり通らない場所となる。
「魔法使いいかがっすかー? 魔法使いいますよー」
地雷なナリした女子高生と、どう見ても委員長な二人が並んで呼び込みやっていても、怖いだけな気がする。
ただ、人目をやたらとひくタイプのティナは人前に出たがらないし、響を解き放つのは怖いし、宇佐美のお嬢様を客寄せパンダにするとか怖すぎるし、たぬきはなんか描いちゃうしで、みんな今ひとつ役に立たない。
いや、全員すごく良い子なんだけどね。本当に。掛け値なしに良い子達なんだけど……怖いよね?
あー、ほら。響寄ってきたよ……
「うーん、ここで魔法の実演したら、みんな来てくれるよね? ちょっとこう……光よっ!」
ぶぅん、ぶぉん、ぶぃん……
って、こんな狭い場所でライトなサーベルとか展開すんなーっ!
焦げるっ、校舎焦げるからっ! って、家庭科室の壁に刺さってる刺さってるっ!
あーあーあーあー……壁に思いっきり傷ついてんじゃねーか……
「あ、いっけなーい、てへっ」
てへっ、じゃねーよっ! あとで怒られるよ、それは流石に……
って、もう先生飛んできてるし。
響が連行されたあと、うさやが新しい作戦を考え出した。
「よし、たぬき。四組の展示見てらっしゃい」
「ん? 行ってくれば良いの?」
「良いから行ってきなさい」
たぬきを追い出す。
十五分後、六組の教室には人が入りきれないほどのお客様が集まった。
『たぬきを撒き餌とした吉野くん一本釣り作戦』大成功である。
六組の教室に入ってまず目をひくのが、うさやの家から持ってきた大型モニター。
ここに体育祭の時のアクロバット飛行の様子や、習志野での訓練の様子、そして空挺の斥候にお願いして作った『ドローンによる響の訓練映像』が垂れ流されていた。
高速で飛んで跳ねて、魔物を次々と倒していく響の姿を超高速で追随撮影し、超かっこよく編集したビデオである。
他に展示してある写真も、レールガンの弾が飛んでいく時の衝撃波を撮影したものや、ファイヤーボールが炸裂する瞬間のものなど、めちゃくちゃ映えてる写真が沢山展示されている。
情報コーナーには、響の年間出動回数や討伐数、その時の決め技など、まるで響カルトクイズみたいなデータがゾロゾロと並ぶ。
一番奥には世界唯一の回復魔法使い (響を除く) 三浦めぐみさんの等身大ポップが用意され、一緒に写真を撮ることも可能になっている。
「たたたたた、樽木さん、六組の展示すごいね……みんなの活躍が一目で判るのがとても良いと思うよ」
たぬきと並んでいるのは吉野くん。
撒き餌作戦で釣ったあと、そのままたぬきをちらつかせ続ける、悪どい作戦だ。
吉野くんがここにいれば、吉野くんファンがやってくる。
すると、その流れに釣られて他のみんなも……
「ほほぅ、これは素晴らしいな……」
あ、なんか褒められてるっぽい! 解説っ! 誰か解説回ってっ!
「ここで、チラッとめくれてるのに全く見えないのが惜しいな……」
いや、褒められてなかった! 近寄っちゃダメな人だった!
そんな感じのダメな人もいたが、概ね好評な様だ。
「この映像、ネットに公開したりしないんですか?」
「はい。ネットに流すとなると政府の許可が必要になります。そのため、この室内では撮影するのをご遠慮いただきます様お願いします」
もっとも、この室内は響のかけた魔法で、撮影してもデータが残らなくなっている。
まだ、魔法使いが空を飛ぶことが秘匿されていた頃に開発した魔法だ。百里に押し寄せる飛行機マニアから、響を守るために使われていた伝説の魔法。開発は当然、姉である。
どんな原理だよっ! 魔法って言っても、基本的な物理法則に則って動くだけなんだろ? 特定の画像データだけ壊すとか、わけわかんねーよっ!
何のことはない、認識阻害魔法の一種だ。
人が物を見る時と、写真機が画像を画像として認識する機能の差を利用して、人の目には『見えている』様に錯視させてるだけだ。
実は機械にも人にも見えない様に光を誤魔化している。
まぁ、そんな感じでふわっと……
「この女の子、入学式の時の生徒ですか?」
入学式、でいきなり空を飛んだ響を覚えていた父兄らしい。
「はい。世界一の魔法使いですわ。わたくし達魔法学科の全員、五人がかりで襲いかかっても触ることすらできないぐらい凄い娘ですの」
うさやさん、自分のことみたいに嬉しそうにお話ししてます。
まぁ、響が褒められたらニヨニヨと嬉しくなるのは仕方ない。しかしみんな仲良いな、このクラスは。
あ、その響がたっぷり絞られました…みたいな顔して帰ってきた。
コンクリートの壁を、いきなり叩っ斬ったら怒られるよね、そりゃ。
鉄筋とかまで切れてたら修復どうすんの?
『あ、マイクロマシンさんに原子レベルから修復してもらいます』
いや、魔法使い便利すぎるだろっ!
『ピンポンパンポーン、一年六組、沢井響さん。一年六組、沢井響さん。至急百里基地まで……』
やっぱり呼び出しが掛かる。イベントとなると、呼び出しくるのがデフォルトになってる気がする。
「あー、でも響だけだね」
セトルリがヘルメットを被りながら言った。
「理沙さん達が気を遣ってくれたかな?」
「わたしも文化祭もっと楽しみたいよぅ。しくしく」
泣きながらもヘルメットかぶって準備する響さん。窓を開けると、くるりと振り返ってカーテシー。
「それではみなさま、行ってまいります」
カーテシー姿のまま浮かび上がり、背中から外へと出ていった。
「行ってらっしゃいー、気をつけてねー」
セトルリがブンブンと、他のみんなはヒラヒラと手を振ってお見送り。
「みなさま、ただいまこちらの……」
うさやさんが解説を始めた。
「この少女が、異世界生物対策出動……いわゆる魔物退治へと飛び立ちました。この高校から百里基地まで、この少女なら五分以内に到着します」
うさやもヘルメットを被り、指揮通信を傍受する。
「彼女は今から、F-3戦闘機で飛び立ちます。向かう先は島根県の様です。今から三十分後には島根県に到着し、魔物の駆除を行います」
実際にはあと三十五分はかかるが、まぁ誤差のうちだ。
「今日の相手は、大きな蛇の様です。頭が八つ……って、八岐大蛇じゃないのっ! え? 大丈夫?」
思ったよりも大物でビビり散らかしているうさやさんかわいい……ビビりなとことか、普段まず見ない娘だから新鮮だわ。
ちなみに、四十分後には状況終了して、帰りのV-280を待っているとの連絡が入った。
とりあえず、苦戦はしなかったらしい。
八本の首を輝く刀でバッサバッサと……
まぁ、響だしね。
文化祭って、高校生活ではとても大きなイベントだった気がします。夏々湖四歳ですけど。
みんな、楽しんでくれてるといいなぁ……と思いますが、響は残念でしたね……
それではまた、お会いいたしましょう。




