火魔法
高度10ftを、70ノットを超える速度で飛行する。
収穫が終わり、干された稲藁が並ぶだけの田んぼの上を、五人の女子高生が飛んでいく。
響ほどうまく虹色膜を扱えないため、時々虫とか当たって痛いのよ、これ。
顔はヘルメットのシールドで保護してるから大丈夫なんだけどさ。
茨城県の稲敷市には田んぼが多い。
この田んぼの上を、大きな蜂がたくさん飛んでいるとの通報があった。
この蜂が飛びながらチョコマカと動き回るために、自衛隊による討伐が進展せず、六組の生徒が出動することになった。
現場について見れば、飛んでいるのは巨大なスズメバチっぽい、なんか怖そうな奴らだ。
それが群れで飛んでいる。ブンブンブンブン飛んでいる。多分、全長1m近いよアレ。
極めて低い場所を細かく進路を変えながら飛んでいるため、長距離での狙撃は難しい。というわけで同じ高度で追いかけっこする羽目になっているのだ。
『左に離れたやつ、あたしが追うね』
『了解、深追い無しで』
左手側に二匹フラフラと出ていくスズメバチを追い、セトルリが進行方向を変えた。少し高度を上げ、蜂を見下ろす形に持ち込んで発砲する。
「ばんっ、ばんっ……」
一匹目は一発で当てたが、二匹目は外した。狙い直して撃ち落とす。
「……ばんっ」
残りは五十か六十か……ここまでで半分ぐらいは落としてきているが、まだまだたくさんいる。
ちなみに響は、外に被害が広がらないように上空から監視しています。
響が手を出したら、二分で終わっちゃうから訓練にならないし……
『ごめん、わたしそろそろ魔力尽きそう……無駄な動きしすぎたかも』
たぬきが戦線離脱しそうな気配だ。
『おっけですわ。安全に降りられそうかしら?』
『多分大丈夫。うちのUH-2まで上がるぐらいならなんとか』
『百里対策理沙さん、うさやですわ。たぬきが戦線離脱します。回収お願いします』
『うさやちゃん了解。たぬきちゃん、そのまま高度上げられるかな?』
『百里UH-2、たぬき高度あげます』
そう言ってる間にも、ちな子が三匹撃ち落としながら周囲の気配を探っている。
『おみ、右の群れが離れそう。カバーいける?』
『ティナ、おみ了解。右の群れ追いかけるね』
おみが右に旋回してゆく。
「このままだと埒があきませんわね……」
うさやさんは考えた。このまま一匹ずつ落としていっても、そうそう全部は落とせない。
ならばなんとか群れをまとめられれば……牧羊犬の真似っことか出来ないかしら……
『セトルリ、左の終わったら、左側から圧力かけられるかしら? おみ、右の群れ、こっちに寄せられる? ティナ、ファイヤーボールスタンバイ。球状じゃなく、円盤状に炎広げられるかしら?』
何か思いついたらしい。
群れの左側からセトルリが大きな動きで魔物を追い込む。
右に逸れた群れは、おみお得意のストーンバレット連射で方向を修正していく。
うさやは全力を振り絞り、一度高度を取った上で前方へと回り込み、群全体の長さを抑え込んだ。
『ティナ、お願いっ』
「ファイヤーボールっ!」
響を除けば日本一のファイヤーボール使い。豊富な魔力量に物を言わせ、響譲りの魔法制御で上下への火力を抑え、円盤状に炎を広げる事で地上への影響を極力少なくした火炎魔法。
蜂の八割程度が炎の中へと巻き込まれ……燃え盛ったまま墜落していった。
地上には干された稲藁が並ぶ田んぼが有る。
そう、乾燥した可燃物に、とてもよく燃えている大きな火種をいくつもいくつもばら撒いていくスタイル。
って、放火だろ、それっ!
あーあー、えらい轟々と燃え始めてるよ、おい。
しかもまだあと十匹ぐらい飛んでっちゃってるし……
『総員、響です。うさや、おみ、ティナ、セトルリ、ちょっと高度取って離れて。消火するね』
そう言いながら、撃ち漏らした蜂を遠距離から狙撃して撃ち落としていく。
さっき遠距離の狙撃難しいって言ったじゃないっ!
うん、響以外の人には難しいかな? って話であって、響にとっては児戯に等しかったり……
『離れたねー。じゃ、いくよ。無酸素魔法っ!』
以前ネズミ型の魔物を倒した時の魔法、一定範囲の酸素を他の部分の窒素と入れ替えることで酸欠状態を作り出す魔法で、消火を行っていく。
ついでに蜂の撃墜も……あ、今最後の一匹を撃ち落とした。
『オッケーかな? まだ温度高いから、空気流す前に少しでもお水かけとこうか』
水なら水魔法を使うまでもなく、アイテムボックスに溢れるぐらい入っている。辺りに霧が漂うぐらいにミストとして撒いていく。
『よーし、でーきたっと。じゃ、反省会かなぁ』
たぬきを回収し終わったUH-2が、バタバタバタと近寄ってきた。
♦︎
「やっぱり、ファイヤーボールって使い勝手良くないよね」
「ですわね……今回つくづく思いましたわ。直接当てなくても、あれだけ大きな火災になるのですわね……」
現在『コミコミパック』に入っている攻撃魔法は、ファイヤーボールとレールガンだけである。おみはそれ以外にウインドショットやストーンバレットと言う魔法を持っているが、それは元々持っていた魔法だからだ。
うさや、たぬき、セトルリは人造魔法使いなので、コミコミパックにある攻撃魔法しか使えないし、ティナはファイヤーボールを自力で使えていたが、これもコミコミパックに内蔵されてしまっているため、威力以外のうまみがない。
「ねぇ、響さんや。お姉さんにもう少しこう、なんか教われないかねぇ?」
セトルリが、媚びるような表情で響に迫る。
「おぅ、任せろー、バリバリー」
セトルリ大好き響さん、チョロいです。チョロインです。貢ぐ気満々です。
この日、響は姉たちへの文通に、安全性の高い攻撃魔法のメニュー化を願い出た。
氷魔法、土魔法、風魔法の攻撃魔法がコミコミパックに統合されたのは、翌週の事であった。
あんな大きな裸火をバンバン使いまくれば、そりゃ火事にもなりますよねぇ。
もし、閉塞空間だったりした日には、酸欠やら一酸化炭素中毒やらで自爆しそうですし、ほんとに使い勝手悪そう……
それではまた、お会いいたしましょう。




