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体育祭には、空に向かって花束を

 もうすぐ、秋の体育祭のシーズンだ。

 もっとも、六組の生徒は競技には参加できず、表現としてダンスを披露したり、チアガールをやったりするだけであるが。


「表現何やろっか」

 響がぽろっと言ったことで、学活が体育祭の計画案の話し合いへと変わった。

「あたしらっぽいのが良いよね?」

 瀬戸さんも最近は随分魔法使いっぽくなってきたことだしね。

「でも、攻撃魔法で花火やるわけにもいかないでしょ? どうする? 描く?」

 いや、描かんでいいからっ! 大体誰を描くのっ! もう明らかに吉野くんが被害受けるようにしか見えないんだけど!


「あと魔法使いが出来ること……飛べる?」

「飛べるな」

「飛べるね」

「うんっ、飛ぶよっ! 音速でっ」

 そりゃあんただけやぁっ!


 というわけで、演目としてはアクロバット飛行をやってみることに……


 ここは航空自衛隊の基地の街だ。

 それこそ、毎年の航空祭でブルーインパルスが飛んでくるため、父兄もみんなブルーインパルスの演技に馴染みすぎている。

「となると、それなりに派手にやらないと、目立たないよね!」


 その日は放課後の基地勤務時に、普段あまり立ち寄らない航空隊の事務室へと女子高生が押しかけた。

「いやいやいや、お前ら仕事の邪魔すんなよ」

 とか言ってる飛行隊長も、なんかちょっとニヤニヤしてるっぽいけど気にしない。

 速度のあまり速くない五人の魔法使いが、どんな演目すれば目立てそうかのご相談をしていく。


「まぁ、お前らの強みは低空での高機動だよな。どちらかと言うと、ここより木更津に行ってヘリコの人に聞いた方がいいんじゃねーか?」

「響ちゃんはやっぱ音速出してなんぼだよね? 大丈夫、体ちっちゃいからソニックブームもなんとかなるなる」

「スモーク引こうぜ、スモーク。絶対かっこいいって」

「なんならうちから応援で戦闘機飛ばそうか?」


 最後何やら物騒な話も出てきたが、それなりに有用なお話が聞けた気もする?

 続いて習志野経由で木更津に飛び、ヘリコプター部隊の人たちに聞いてみる。


「どうしても生身だと、ちっちゃすぎるんだよ。だからできるだけ低いところで、できるだけ目立つ服装で飛んだ方が良いよ」

「あ、超音速やるなら低空は流石にやばいよ? ちょっとそのへんの加減は色々試してみようか。今からそこの海出て試してみようぜ」


 提案があってから三十分後には、もう銚子の沖合い10kmを飛んでいた。

『マジカル響、こちら木更津ヴィーナス。テスト機材のスタンバイヨシ。ヒトハチマルに向けて200ノットで定速飛行を行う。至近を超音速で航過されたし』

『木更津ヴィーナス、響です。了解しました、音速超えたぐらいで追い抜きますね』

 今日付き合ってくれているのは木更津のV-22(オスプレイ)だ。これを高度1,000ftの低空で、速度差450ノットで追い越していくことになる。

 

 オスプレイ後方5浬へと回り込み、いつもの蒸気ロケットで加速していく。

 加速開始からわずか数十秒で音速へと到達すると、その速度を維持したままオスプレイのすぐ脇を狙って飛んでいく。


 オスプレイ内部には、計測器を抱えた隊員が数名並んでいた。

「響ちゃん、加速開始しました。間も無く左手側を航過します。さん、に、いち」

 ズドンっ!

 音もなく近づいてきた響が、機体の横を通り抜けた瞬間に、激しい爆音と揺れがやってきた。

 飛びぬけた後もバリバリと言う空気を引き裂く音が響いてきている。

「計測値は?」

「この距離で123dbですね。これは街中でやっちゃダメなやつだわ」

「ロケットが悪さしてないかな?。パワーダイブで速度上げて、最後はノンパワーで航過してもらったらどうなるか……」

『マジカル響、ヴィーナスだ。航過時はアイドルで飛んでもらっていいかな?』

『ヴィーナス、響了解です。もう一度やりますね』

 遥かかなたで雲を引いている飛翔体が、一気に高空へと上がっていくのが見える。

 このまま高度を稼ぎ、後ろに回り込むのだろう。


「お、響ちゃん降りてきますね。ベイパーコーン突き破ってます」

 音速を超えたために発生する衝撃波が、大気中の湿度を叩き出し、飛翔体を包み込むように出来上がる雲の繭を突き破り、響が接近してくる。

「さん、に、いち」

 どーんっ!

「107dbです。これならまぁ、死人は出ないかと……」


 こんな風に少しずつ計画を詰めていく。

 五人の空中ダンスは、習志野演習場で練習した。百里でやろうとしたら、茨城空港に怒られた。確かに、民間機の発着に悪影響がありそうだ。


        ♦︎


 軽快なトランペットの音楽と共に、数人の生徒がグラウンドを走っている。

 平均台を超え、ネットを潜り、スプーンにピンポン玉を載せて走る。

『赤組速いっ、赤組一年吉野くん、一位でゴールです。現在二位は黄色組ですが、まだまだ後方です』

 やはり吉野くん圧勝だ。全ての動作に不安感が一つもない。

 いや、ゴール後にたぬきの姿を追いかけようとして、どこにも六組が見当たらないためにキョロキョロしてるのが挙動不審で不安感が募るわ。


『続いては一年六組の皆さんによる、表現です。一年六組は魔法学科。全員競技には出られないため、魔法使いならではの美しいダンスを見せてくれるそうです』


 入場門にスモークが焚かれる。これは響の魔法で霧を発生させたものだ。

 と、六人全員が全速でダッシュしてくる。

 魔法使いの全速だ。当然陸上世界記録を越えるような速度からの離陸っ!


 五人は轟音を立てて、響はほぼ無音で宙へと浮かび上がる。

 そのまま上方開花。五枚の花びらが大きく花開き、センターを上る響は一気に高度を上げていく。

 遥か上空で衝撃波が広がるのが見え、数秒後に騒音が届いてきた。


 上方開花で花開いた五枚の花びらは、そのままループを取りながら地上付近へ。ここで五方向からのクロス。相対距離は最小で数十センチまで近づく。


 再びスモークを焚きながら地上数メートルの極低空でバレルロール。スモークで出来たトンネルを、運動場に描き出す。


 そこへ、高空からパワーダイブしてきた響が音速を超えたまま滑り込んでくる。

 運動場上空へ入る前にパワーをカット。虹色膜で全身を覆い空気抵抗を減らす。

 高空からの引き起こしで地面に叩きつけられないように、大きな虹色の翼を前後で位相を変えて展開し、音速を保ったまま煙のトンネルへと飛び込んで行った。


 腰の辺りからベイパーコーンを曳きながら、トンネル状に広がったスモークを吹き飛ばす。そして、ソニックブームによる炸裂音を撒き散らしながら再び空へと帰ってゆく。


 一通りの演技を終えた響が降りてきた。

 周辺から再び舞い上がった五人と共に、グラウンド中央の円に沿って並び、宙に浮いたままのカーテシーで、全校生徒、保護者、職員に挨拶をしていく。


 そして、浮いたままの状態で、退場門へと出ていった。


『魔法学科一年六組の表現でした。みなさま、大きな拍手で送り出してください』

 放送が入り、やっと観客が正気にかえる。


 大きな拍手が湧き上がった。

 吉野くんあたりの興奮が、凄いことになっている。

 これでまた、たぬきへの信仰心が上がってしまったかも知れない……


        ♦︎


「いやぁ、うまくいって良かった良かった」

 セトルリも、緊張していたらしい。

 飛べるようになってから、本当にみんな努力してきた。

 響以外の魔法使いにとって、空を飛んで魔物から逃げる事ができるのは、大きな大きなアドバンテージになる。

 従って、割と命懸けの努力の結果が、今日の表現科目の成功に繋がったのだろう。


「でも、これの練習、めっちゃ役に立ちそうな気がするね。習志野の訓練でも取り入れてもらおうか。魔法使いの女性自衛官(W A C)の人たちの訓練にもなりそうだし、なんなら先生や理沙さん達にもやってもらえるかも知れないし」

 直美さん……おみが一人で頷きながら話している。時々こーゆー一人納得しながら物事を考える癖があるらしい。

 そんな独り言とも言えないようなセリフに、きっちり突っ込んでくれるのは尚子さん改めティナさん。

「こんなの出来るの、今はまだ他には小梅さんぐらいでしょ。そのうち全国の魔法使いに教えて回ることになるだろうし、習志野の女性隊員(お姉さま方)にはきちんと覚えてもらおうよ」

 日本中の魔法使いの生存率に直結しそうなこの訓練。あとで小波師匠に提案してみましょう。


「そう言や、今日は大きなイベントだったのに、出動かかんなかったねぇ」

「ああっ、セトルリっ……それ言っちゃダメなやつ……」

『ピンポンパンポーン、一年六組の生徒はヘリパッドに集合してください。繰り返しお伝えします。一年六組の生徒は……』

「セトルリのあほー! フラグ立てないでよぅ」

「ええっ! 今のあたしのせいっ⁉︎」

「うん、セトルリのせいっ! 罰として、あとでみんなに撫で回されなさいっ!」


 一年六組のイベントは、まだ終わらない様です。

 流石に高校の体育祭に、戦闘機飛ばすわけにはいきませんからねぇ。

 F-3なんて、一飛び二百万とかかかるでしょうし……


 まぁ、見てみたいなぁ……とは思いますけどね。校庭を低空フライパスしていく戦闘機とか……


 それではまた、お会いいたしましょう。

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