お祝いデートも大騒ぎ
「いよっしゃぁっ! 合格ぅっ!」
セトルリの叫びがこだまする。
先月行われた航空無線通信士の試験に、三人とも見事に合格したのだ。
大喜びのセトルリさん、得意の魔法で目の色を七色に変化させる、秘技、ゲーミングセトルリっ!
「直美も尚子もおめでとう」
響がセトルリの頭を撫でくりながら二人を称える。
うさたぬも拍手している。
「よーしよしよし、これでデートだデート! 尚子とデートして、直美とデートして、響とデートして、うさやとデートして、たぬきとデートして、文香ちゃんとデートして……」
「いや、文香ちゃんは難しいと思うよ?」
「ガーン!」
「あと、響とデートしようと致しますと、習志野デートとかになるんじゃないかしら……師匠のとこへと……」
「そ、それは遠慮したいかも……」
「たぬきとデートして喜ばれると、TSした上で吉野くんが襲われるかな?」
「いや、酷いな、響からのたぬきの扱い!」
「あー、うん、楽しいデートだったら、描かせてねっ!」
「本人公認だったっ!」
浮かれてる。もう、見事に浮かれたセトルリさん。ニッコニコで地雷感が薄れてる。
『いや、それはまずいっ! あたしのレゾンデートルにかかわるっ!』
慌てて笑顔をニマァ……っとしたいつものアレに切り替えようとするが、根がいい子なもんだからイマイチうまくいっていない。
「あー、セトルリ可愛すぎる……」
響のなでなでが止まらない。
と言うわけで、その日のホームルーム。
「では、全員無線を使えるようになったわけですが、まぁ、ぶっちゃけ使わないでしょう。と言うか、使えないでしょう。ヘルメットの無線機だと、せいぜい30mぐらいが交信可能範囲ですから」
それでもしばらく前までの、移動砲台としての魔法使い運用ならば使い道もあったかも知れない。
しかし、現在の魔法使いは戦闘ヘリ並みに動き回るのが当たり前になりつつある。
飛行講習は全国で毎週行われ、高所からの飛び降りは、すでに女子高生魔法使いの必須技能となっている。
飛びながら戦闘を行うものはさすがに茨城、北海道にしかいないが、これも近日中には増やしていく方向で訓練計画が立てられている。
「まぁ、全部デートの後ですよねっ! あ、文香先生も、あたしとデートしてくれますよね?」
「瀬戸さん、先生とデートしたいんですか? 良いですよ? 図書館デートとか、習志野デートとか?」
まじめかっ!
いや、真面目だったわ。この先生。
♦︎
そして日曜日。
今日は尚子さんとデートです。セトルリさん、目一杯おしゃれしてきました。
髪は綺麗に染め直し。今日はベースをシルバーにしたため、昨日のお風呂では三回もブリーチすることになった。
赤のメッシュはいつも通りに、ボンボンついたゴムでツインテールへと纏めます。
黒いオープンショルダーのトップスにピンクグレーなコルセットスカートの組み合わせ。
ブーツはミドルヒールのくるぶしまで、ソックスはボーダーサイハイ当たり前。バッグはレースアップ。フリルフリフリ可愛いでしょ。
メイクも念入り、目元くっきり。目の色は……おお! 虹色膜を再現か! これは新しい!
待ち合わせは水戸駅北口。水戸黄門像。
ワクワクしながら待ち合わせの十五分前に着いたら、なんかもう尚子が待ってた。
「ごめん、お待たせぇぇえええフォー!」
さすが正統派美女。168cmの長身を生かし、ふくらはぎまでのスキニーパンツが目に眩しい。素足にサンダル。ペディキュアはクリア。オフショルダーのニットトップスは、少しゆったりめの明るい水色。
髪はいつものストレート。染めてないのでほぼ黒だけど、キラキラピカピカ天使の輪っか。
メイクは軽く、でもそれだけで目鼻立ちバッチリのチート美人。そして近づけば……ああ、我が人生に一片の悔いなし……
「って、セトルリ! しっかりしてっ! いきなり白目剥いて意識飛ばさないでっ! 危ない人みたいじゃないっ」
いや、危ない人だろ。紛れもなく。セトルリが危なくなかったら、日本には危ない人とかいなくなるよ? ただ、めっちゃ良い娘だけど。
無事復活したセトルリさん、深呼吸しながら目だけは相変わらずあっちの世界へ……虹色変化と併せて幻想的な世界を醸し出してます。
「じゃ、行こっか。エクセルで冬物見るとこからで良い?」
「あ、行きたい行きたい。尚子とペアルックしたいっ!」
「良いね。行こっ」
ああ、バカップル。
この後、おそろのマフラー買ってアイテムボックスへと収納したら、歩いて千波公園へ。
「ここの黒鳥が凶暴で可愛いのっ!」
尚子さんの趣味が微妙にわからん……けどセトルリ楽しそうだしいっか。
ヒールのあるセトルリと、ペタサンダルの尚子が並んで歩いても、やっぱりセトルリの方が小さい。トコトコと着いていくセトルリと、ゆったりとペースを合わせる尚子さん。いい感じです。チラチラ横目で表情確認したりして、二人とも可愛いなぁ。
千波湖に辿り着き、湖岸沿いにぐるりと歩く。
「うー? 白鳥も黒鳥も居ない?」
まだ飛んできてないよ? まだ九月だし……
「しゃーない、なんか食べよ。うーん何がいいかなぁ」
魔法使い業務でお給金も出たりする二人、高校生としてはそこそこお金持ってます。
「ケバブっケバブっケバブっケバブっ!」
なんかセトルリが怖いです。ケバブ好きなの? あ、羊が好きなのか。
「マトン、マトン、マトン、マトン、マトンっ」
ラムよりマトンとか、ツウなのか? まぁ、美味しそうに食べてるからいっか。
尚子さんは普通にクレープとか食べてますね。チョコバナナクリーム。あっまい奴。絶対たぬきとか好きそうだわ。
「マトンウメェ……やっぱりデートは肉だよね、お肉っ!」
うーん、セトルリのデート観が謎すぎる。あ、肉食女子とか、そーゆーんか?
「ご馳走様でした。セトルリ、よく食べるねぇ。その体のどこに入ってくのか、謎だわ」
「ここここ。この中で瞬間消化してるの」
お腹を指差して、その後ポンポンって。
華奢な体格なのに、もっしゃもっしゃと食べ続ける。
たぬきが見たら嫉妬されそうだわ。
「次はどれ食べよっか? 異世界風串焼肉にするか、ハンバーガーにするか……」
「やっぱりお肉なのね」
「えへへ。いちばんの大好物だからね」
「響もお肉好きとか言ってたっけ?」
「あ、うん。響もお肉好きって言ってたね。けど、響の一番はスイカらしいから。あたしはお肉が一番!」
プライド持った肉食系女子なのね。
「尚子は何が好きなのかな?」
「あー、わたしの好きなのはねぇ、それはあれだ。セトルリかな?」
いいよもう。爆発しとけ。
千波湖は水深1.5m程度しか無い。
したがって大型の動物が隠れたりは出来ないはずだが……
「なんか出たね……」
「出たよっ! え? あ、こんな時は報告入れるんだっけっ⁉︎」
湖の真ん中付近に突然、首長竜っぽいのが出現した。
「出かたからすると、鏡は体の下かな?」
「尚子、冷静だねぇ。さすがあたしの旦那様。じゃ、通信入れるからあたし上がるね」
ヘルメットかぶると、せっかく整えてきたツインテールがぺったんこになってしまうが、仕方ない。いつもの|自衛隊色《O D 色》のヘルメットを装着し、轟音を上げながら離陸していく。
「うん、お願い。わたしは対処できるかやってみる」
尚子は超センスで相手を観測しながら、安全な討伐方法を考え始める。
辺りは騒然とし始めた。魔物の頭のてっぺんは、7-8mの高さだろうか。こんな巨大な魔物を見たことある人は、そうはいない。人々は恐怖に駆られ、一斉に逃げ始めた。
魔物はそのまま、人の多い方へとゆっくりと動き始める。
『Hyakuri Control.This is Lapis Lazuli……』
(百里コントロール。ラピスラズリです……)
普段は日本語訳して書いてあるが、せっかく試験に受かったんだからそのまま載せてあげよう。
ちなみに、セトルリのコールサインはラピスラズリに決まった。
『I encountered a monster in Mito city. Connect me to the countermeasures room』
(水戸市内で魔物と遭遇しました。対策室に繋いでください)
ちゃんと通じるかな? セトルリがんばれ!
(さてと、ビリビリ効くのかね。こんなおっきいのは、わたしやったことないよ)
尚子も少々攻めあぐねている。こんな街中で人が多い場所、ここからレールガン撃ち込んだら周りに被害出ないかな? とか色々考える。
尚子のファイヤーボールも、セトルリのファイヤーボールも、二人とも威力抑えるの苦手だし……
『瑠璃ちゃん、尚子ちゃん、理沙よ』
お、魔法通信が繋がったみたいだ。
『V-280で向かうから五分で着くわ。避難誘導優先でお願い。ただ、危なそうならやっちゃっていいわよ』
『理沙さん、尚子です。湖岸に向かってきてるので危ないかもしれないんですが、街中から上向に弾打つとどこに飛ぶかわからなくて』
『尚子ちゃん、そんな時、響ちゃんは上からやってるわね。どう? 行けそう?』
『理沙さん、ありがとうございます。セトルリ! 聞いてた?』
『尚子、セトルリ聞いてた。真上行ってみるっ!』
セトルリは高度を上げ、千波湖の中ほどまで進む。魔力で風を叩きつけていくために、魔物の意識がセトルリへと向いた。
「どうか魔法使ってきたり、しませんように……」
セトルリが呟き、レールガンの銃身を形成していく。
セトルリも、随分と器用に魔法を使いこなすようになった。
今も飛行魔法をコントロールしつつ、レールガンの準備をしつつ、スカートの中に認識阻害魔法をかけている。
認識阻害魔法は、制服で空を飛ぶための必須技能として、響に伝授された魔法だ。
特にセトルリはスカート短めだから……
「よっし、ほぼ真上。このトカゲの頭から胴体までまっすぐで良いかな。相手おっきいから、重たい弾で……」
いつもの鉄や鉛玉ではなく、高威力のタングステン製の弾丸を用意した。
こんなもんかなぁ? ってところで理沙へと報告を入れる。
『理沙さん、セトルリ攻撃できます。レディ』
『コマンダーより発令、状況開始!』
『状況開始します。パンっ!』
発動子まで通信に乗せちゃったけど、まぁ問題ない。
直径5.56mmのタングステン製のラグビーボール型弾頭は、秒速8kmで直進した。
120,000ジュールものエネルギーが魔物の頭部に叩きつけられる。50口径対物ライフルの六倍のエネルギーが、海トカゲの頭から首、そして胸腔を弾けさせ、湖底に突き刺さって止まった。
「あれ? もしかしてやりすぎた?」
宙に浮いたままのセトルリが、軽くショックを受けたような顔をしている。
『理沙さん、尚子です。セトルリのレールガンで駆除完了しました。ちょっとセトルリのケアしますね。また後ほど。尚子アウト』
通信を終え、即座に離陸。まだ空で固まっているセトルリの肩を抱きしめ、下を指差す。
セトルリがなんとなく頷き、高度を落とし始めた。
「すーはーすーはーすーはーすーはー、ああ、尚子の香り……ハァハァ」
うん、大丈夫だわ、こいつ。PTSDとか気にしなくて良さそう。
空の向こうから、聞き慣れたV-280の音が響いてきた。
後処理終わったら、デートの続きできるかな?
尚子はそんなことを考えながら、セトルリの肩を抱きしめ続けていた。
セトルリさん尚子さん直美さん、試験合格おめでとうございますー!
さぁ、プロの魔法使い? までの道のりを着々とこなしております……って言うか、こんな魔物と普通に戦える魔法使い、日本中探しても、両手の指だと余るからね。
それではまた、お会いいたしましょう。




