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武藤麻紀の戦い

「はぁ……まったくあのエロジジイが……」

 赤坂のホテルに付属の地下駐車場で、愛車のベンツに乗り込み、麻紀が吠える。

「わたしの身体は響ちゃんのものだっての! 触んなっつーのっ!」

 けどまぁ、今日の接待は終わった。時間はもう深夜に近いが、小美玉の自宅に帰って可愛い嫁の寝顔でも見よう。

 そう思い、ブレーキを踏んでシステムスイッチを入れた。

 車両のシステムが立ち上がる。車両のAIに対して自宅へ帰ることを告げ、自動運転システムに切り替える。

『イエスマム』

 とAIが応え、車両が動き出したその時、目の前に二台のミニバンが飛び込んできた。

 二台とも側面どころか、フロントガラスまで真っ黒なフィルムが貼ってあり、何人乗っているのかもわからない。

 

 スライドドアと助手席から男が降りてきたと思ったら、いきなりハンマー状の物でベンツの窓ガラスを叩き割る。


「なに奴っ!」

 麻紀さん麻紀さん、言い回しが時代劇すぎん?

「問答無用っ!」

 いやいや、襲撃班さん、それもどうかと思うよ?


 ここで麻紀さん話し合いを放棄した。

 これでも麻紀さん、魔法使いになってもう一年以上訓練を積んできている。

 そして、響のマンツーマンによる教育をされている。


 今降りてきた四人は、その場で身体を硬直させて倒れ込んだ。

 超センスに引っかかってる反応は、あと四人。たとえ見えてなかろうが、この距離でビリビリ外すとかはありえない。

「はぁ……どこの手のものかねぇ。っと報告入れるか。メンドイけど……」

 こんな女子大生みたいなのが内調職員なんだから、世も末だ。

 携帯端末を取り出すと、駐車場に赤外線ネットワークが張り巡らされてるのを確認する。

 本庁の番号を呼び出して発信。


「もしもし。武藤麻紀です……はい。今、赤坂のホテルの地下駐車場なんですが、賊に襲われまして……はい、制圧済みです、八人かな? 車二台ですね。回収もお願いしたいんですが。そうです、そこです。はい。じゃ、こちら騒ぎにならない様にやっときます」


 魔法使いを襲おうとか、命知らずにも程がある……なんて思ってたりするが、世間の人たちは魔法使いがヤバすぎることを知らないだけだ。

 もっとも、この襲撃者が世間の人なのかどうかは、これからの捜査で判るだろうが……


 この駐車場は利用者が結構多い。深夜に近いと言っても、まだまだ車が通りかかる。

 ただ、都会ならではの無関心さで、通れる隙間があるなら普通に通過してくれるのが助かる。


「お姉ちゃんどした? これは?」

 声をかけてくれる人もいるが、すぐ警察来てくれますと言えば、まぁ大体は通り過ぎてくれ……

「倒れてる人がいるじゃないかっ、救急車はっ?」

 あ、メンドイかも……


 所轄警察が到着し、交通整理と野次馬処理が始まった。

 続いて公安と内調の職員がやってくる。


「はぁ、何やってんの、全く……」

 麻紀の上司も飛んできた。ちゃんと上司いるんですよ。麻紀さんにも。

 麻紀は異世界生物対策委員会ではなく、もっと内調内調した部署の人なのだ。

「目立ってどうするよ。うちの職員が」

「面目ないです。っていうか、どの件でこれが来たんでしょうね」

「これから調べるけどさ、こいつらいつ目を覚ますの?」

「あ、起こしましょうか? 普通に喝入れで起きますよ?」

「いや、戻ってからにしようか。ヨシ、撤収!」

 鑑識を残し、襲撃班八名を拘束の上ワンボックス二台に詰め込んで、永田町へと向かった。


        ♦︎


「で、なんでわたしが尋問されてるんですかっ!」

「いやいや、尋問じゃなくて調査ね。なんであんな場所で襲われてたん? ん?」

「はぁ……だから、第三党の代議士さんと懇親会をしててですねぇ」

「お前んとこの親父(おやっ)さん、あそこと仲悪いだろ?」

「いや、親父(オヤジ)関係なくちょっと動いてるだけで」

内調(うち)の人間が政治家と個人的に会うのはもっとダメだろうが!」

 この話題で出てきてる『親父』って、現職の内閣総理大臣武藤大義のことだったりする。


「じゃ、わたしが親父と会うのもダメだねっ!」

「この屁理屈娘がっ! このあと官邸にも呼び出されてるからな。その親父殿にもきちんと説明すんだぞ?」

「メンドイ」

「うっさい! いいから行けっ!」


 武藤首相、正直言って娘大好きスキスキ父さんだ。

 娘が嫁入り先で酷い目に遭わされた時、日本の大政党を一個ぶっ潰したぐらいにはメロメロだ。

 なんなら公邸で同居したいぐらいの溺愛っぷりだ。

 ただ、娘が沢井へ婿入りしたい! と言った時に、止めたりはしなかった。きちんと娘の意思を尊重してくれる、良いパパである。


「で、何があった? どこの手のものだ?」

「うーん……魔法使い党を作ってほしくない勢力かな?」

「魔法使いは人類に使役されるためにいる……とか言ってる奴らか?」

「もしくは、いつもの第三国のスパイか……もう尋問始まってるんでしょ? オヤジのとこに来てないの?」

 首相令嬢! 言葉遣いっ! こう、お嬢様っぽい奴!

『あたしゃ首相令嬢というよりも、商店の看板娘だから。お嬢様学校でもメッチャ浮いてたし』

 ギャル化やめたうさやの方がお嬢様っぽい……

『うさやちゃんは、あれは正真正銘のお嬢様だよ? なんなら恋歌さんとかさらにその上だよ? うちなんて足元にも及ばないって』


「しかし、こうなると護衛を付けることも必要になるか……」

「あー、沢井にいる限りは最強の護衛いるし、わたし一人でも八人制圧するのに五秒ぐらいしかかかってないし、いらないっしょ?」

「相手が戦力増やしてきたり、いきなり命を狙いにくるかも知れん……」

「うーん……何百メートルも先から狙撃されたら、護衛いても無理だよね? で、数十メートル以内なら、いきなり撃たれても対応出来るよ? 魔法使いなら」

「お前ら非常識すぎるわっ!」


 ちなみに、響だと数キロ以内なら狙撃される前に気がつく。

 で、それ以上先からの攻撃は、弾が飛んでくる時に気がついて対処可能だったりする。


「ま、次の衆院選でめぐみさんに立候補してもらうから、それまで政権維持しといてね?」

「お気軽に言うけどな、めちゃくちゃ不安定なんだぞ?この三党体制の政府は……」

「巨大政党潰したオヤジが悪い」

「あれだってなぁ、君の身柄を……ああ、もういいや。思いっきりやんなさい。国民の不利益になんなきゃバックアップはしてやるから」

「ありがと、パパっ」

 ちゅっ!


 パパとか呼んだの、何年ぶりだろう。少なくとも大学入った頃からは呼んでなかった気がする。

 で、ほっぺにちゅっ! とか、記憶にないわ。

 うん、内閣総理大臣が固まったまま動かなくなったね。……ヨシ、脈はあるっぽいから死んではいないな……。


 (え?何今の……え? パパ? それ誰? 俺? 俺のこと? 麻紀がパパとか……あのちっちゃくて可愛かった麻紀がおっきくなってもパパって……え?……ほっぺのこの感触何? もしかしてこれ、小学二年生以来のアレかっ⁉︎ まさか、こんなご褒美っ⁉︎ 俺、あと十年は政権維持するっ! 娘のちゅっ! とか、それ以上の価値だぞおいっ!)


 日本の旗印を、こんな人に任せといて良いのか?

 まぁ、やる気になったみたいだし、いっか。


 この日、麻紀は結局無断外泊となった。

 小美玉の自宅に戻ると、そこには激おこぷんぷん丸の響さんが!

 困り果てた麻紀さん、ほっぺにちゅっ! の一撃で響を黙らせた!

 武藤麻紀、世界最高の戦力に完全勝利! これが首相令嬢流の戦いである……って、んなわけあるかーっ!

 身長156cm

  左にまとめたハーフサイドアップテールがトレードマークの女子大生なりたての女の子……そんなビジュアルの麻紀さんですが、やる時はやるんです。多分。

 度胸は人よりありそうかな?


 それではまた、お会いいたしましょう。

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