合同訓練
現在、日本にはおよそ四百人の認定魔法使いが存在する。
そのうちおよそ二百人が、非魔法使いにマジックオペレーティングシステムをインストールした、人造魔法使いである。
響の周りの人間だと、ナオナオの二人以外は全員この人造魔法使いだ。
もっとも、その大半は対策委員会に所属するオペレーター……理沙や美智子の同僚であり、残りのほとんどは自衛隊で魔法使い部隊を作るための下準備中の自衛官だ。
人造ではない野生の魔法使い二百人のうち、四十人程が攻撃魔法を自力で覚えたエリートであり、その中のおよそ二十人が実戦に駆り出されている。
響たちが出動するときに使っている、百里に常駐しているUH-2やV-280は、千葉県の木更津駐屯地の所属だ。
この木更津駐屯地に、千葉県の異世界生物対策室分駐所が置かれていた。
分駐所に所属し、実戦に出ている魔法使いは二人。
近くに有る魔法学科を抱える高校には、今年さらに二人が入学している。
響たちが普段訓練を積んでいる習志野駐屯地は千葉県だ。なので彼女達の訓練も行っているのかと思いきや、ほとんどやっていないと言う。
なぜならば魔法使いは後方から魔法をぶちかまして、即座に退去するものだから……って、何年前のセオリーを守ってるのっ!
当然、習志野の重鎮小波さんはプリプリしているが、一度小波さんの訓練を受けて、二度とやりたくないと言われたらしい……
うん、それはあれだ。小波さんが悪い。多分。
きちんと育てれば、何の覚悟もなかったセトルリでも付いていける程度の訓練なのだ。魔法使いの能力を伸ばし、生存性を上げるためにも受けてほしいところだが……
そして、これはお隣千葉県に限ったことではなかった。
その他の都道府県でも、百里のみんな程の訓練を繰り返している地域は無い。
響はまぁ別格としても、あの中で一番経験の短いセトルリでも、自衛隊の普通科小隊を相手にほぼ互角の戦いをしてしまうのだ。
ただ火力があるだけでは、こんなことはできない。戦車一両で歩兵と戦うことはできないのだ。
変幻自在、神出鬼没、その上での火力無双。一人軍隊みたいな奴らが六人。それが百里の魔法使い。
と言うわけで、他県の魔法使いの教育も兼ねて合同訓練をする計画が持ち上がった。
とりあえず今回は関東一都六県の魔法学科の生徒を集め、きちんとした訓練を行うとどのように成長するのかを見てもらうことになった。
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静岡県。陸上自衛隊東富士演習場。ここに女子高生が集められた。
魔法学科の生徒は、関東地方合計で三十名。東京の十名に次ぎ、茨城の六名が目立つ。
あとは神奈川四名、埼玉と群馬に三人ずつ、千葉、栃木に二人ずつだ。
茨城以外の各都県の生徒は、全員野生上がりの魔法使いだ。
そして、魔法使いに自力で至った奴なんて、クセのある奴ばかりである。
『ハハハハ、見よ、我が魔力をっ! ファイヤーランスっ!』
みたいな奴がデフォルトだったり? いや、そこまで酷いのは一握りか。
「これから諸君には、最先端の魔法使いによる模擬戦闘訓練を見学してもらう」
お、久々に見たぞ。岡田主幹。
この人偉い人なのよ? エリート官僚なんだからね? いつも理沙に揶揄われてるだけの人じゃ、無いんだからね。
「最先端って、『あの』沢井さんですか?」
東京の生徒が声を上げた。
「沢井の戦い方は特殊すぎて参考にならない。今日は、茨城県の魔法学科の生徒による模擬戦闘を行う。シチュエーションとしては大規模なスタンピードへの対応を想定した作戦だ」
響を除く五名の女生徒が、皆が並ぶ列から外れて前に出てきた。
五人とも並外れた美少女だが、それを見学してる他県の娘達も大体そんなのばっかりだったりする。
前に出てきた五人は、横並びでフォーメーションをとって行った。
「それでは……魔物は前方よりゴブリンの群れが二百、その後ろにオークを百、左手に草原狼が五十、右手にスライムが五百として、ダミーを設置してある。これらをこの五人で制圧してもらうことになる。彼女達五人は、この敵配置を今初めて聞いた状態だ。それでは、状況開始っ!」
指揮には理沙が付いている。おそらく、日本で一番経験豊富な指揮官だ。
『ナオナオセンター、うさたぬウイング、殿セトルリへ」
理沙の指揮はいつも通りに始まった。
『まず数を減らします。尚子ちゃん、瑠璃ちゃんとスライムの除去をしてください。ファイヤーボール使って構いません。直美ちゃんはウルフの接近を抑えてください。足止めでオッケー。たぬきちゃん、うさやさん、上がってゴブリン撃ち下ろせるかしら?』
『了解しましたっ!』
開戦早々、尚子とセトルリのファイヤーボールが炸裂、右手一帯が燃え上がった。
同時に空へと上がったたぬきとうさやが、上空から丸見えになったゴブリンの群れへと攻撃を加える。
火薬を使わないレールガンであっても、発砲音は実銃と変わらない。ひたすら連射される鉄球により、ゴブリンダミーが次々と崩壊していった。
ウルフを抑える直美は、得意の風魔法と土魔法の合わせ技を使っている。
石つぶてを風魔法で更に高速化。レールガンでは難しい面攻撃を、左手側全体へと加えていく。
一瞬でスライムを燃やし尽くした尚子とセトルリは、たぬうさの援護へと周り、レールガンをばら撒きながら敵陣へと駆け込んでいく。
ゴブリンダミーを倒し切るあたりから、レールガンの音が変わり始めた。
今まで、距離が近いために制限していたレールガンの初速が、オークダミーを倒すために上がったのだ。
彼女達のレールガンは、22口径で初速8km/sに制限されている。
しかし、これでもオークを倒すぐらいなら十分以上の威力だった。
超高速の弾丸を受けたオークのダミーには、次々と大穴が空き始めた。
更に前進し、目にも留まらぬ速さで戦場を駆け抜け、有利なポジションを取り、死の鉄球をばら撒いてゆく。
オークを倒し切ると、全員で残りのウルフを駆除していく。
ここでも恐ろしい勢いで駆け抜け、挙げ句の果てにはナイフでウルフダミーの首を落とす。
状況開始から敵全滅の判定が出るまで、僅か五分の早技であった。
「これがこれからの魔法使いの戦い方だ。彼女達は陸上自衛隊の隊員に混ざり、日々厳しい訓練を行い続けている。ちなみに、時間をかけてよいならば、今の大群を一人で倒し切ることもできるのが彼女達だ」
自分では魔法を使えないけどドヤ顔の岡田主幹である。
「諸君にはこのレベルの魔法使いを目指してもらいたい」
こんなことができるのは世界中探しても、目の前の五人以外だと、北海道の桜井小梅ぐらいしかいない。
「続いて、先ほど話題に出た沢井のデモンストレーションを行う。正直、これは微妙すぎて見せるかどうか迷ったのだが、百里の他のメンバーが是非見せるべきだと主張するので……」
微妙に言葉尻を濁す岡田主幹。
と、突然会場に炸裂音が響き渡った。
音の出所を探して見回すと、空に何かが……
くるりと輪を描き、再び近寄ってきたのはマジカル響その人。
世界初の魔法使い。世界最強の魔法使い。
皆の前にフッと止まり、音もなくホバリングをしている響に向かって、岡田主幹から指示が出た。
響は右手を富士山の山肌に向け……
「えいっ」
空が燃え上がったのかと思うほどの閃光と、轟音。そしてその後のキノコ雲。
披露したのは、本当にごく少量の質量を使ったNon-Mass魔法である。
TNT火薬に換算するとほんの3トン程度の爆発であるが、それは既存の魔法使いのファイヤーボールとは別物の破壊をもたらしていた。
見学している女子学生達は、もう唖然とするしかなかった。
話は聞いていたのだ。
空を自由に舞い、よくわからない威力の魔法をバンバンと撃つ魔法使いの頂点。
それが世界初の魔法使い沢井響だと。
しかし、彼女達の想像は、その前の模擬戦闘で見せられた程度を想定していた。
風魔法で空を飛び、ファイヤーボールでスライムを一掃したあの娘達のレベルが、沢井レベルだと思っていた。
彼方からヘリコプターの編隊が飛んでくる音がする。
宙に浮いているその少女は、ニコっと笑うと空を見上げ、再び高空へと舞い上がっていく。
彼女の飛ぶ後ろに、ピンク色の火炎が伸び、再び先ほどほどの衝撃波が襲ってくる。
ヘリコプター数十機との追いかけっこ。
そこに航空自衛隊の戦闘機まで飛んできた。
そんな中、一瞬でヘリコプターへの距離を詰め、キャノピーにペイント弾を撃ち込んで離脱していく少女。
ヘリコプターの速度から、戦闘機のコンバットスピードまで一瞬で加速し、戦闘機のお腹へとペイント弾で星型の模様を刻んでいく。
超高速を保ちながらの急旋回で、圧力差による雲を引きながら楽しそうに撃墜判定をばら撒いていく魔法少女。
「うん、あれになれとは言わない。というか言えない。あれはなんだ……あー、あーゆー生き物だ。人間だと思うな。ただし、アレに慣れるとあとあと便利なのは間違いない。大抵の不条理はアレに比べたらただの日常に変わる。諸君らの奮闘に期待する」
こうして、関東全域の魔法学科の生徒に、希望と絶望を植え付けた合同訓練は、終了した。
ちなみに、響は思い切り飛べて楽しかったらしい。
響の戦い方はねぇ……ちょっと人と違いますし……
これ、響のお姉ちゃんたち連れてきても呆れ返る気がしますよね……
それではまた、お会いいたしましょう。




