神の魔法
事の起こりは、夏休みに入る直前あたりの出来事だった。
「うぎゃーーーーっ!」
沢井家に女性の悲鳴が響き渡る。微妙に可愛くない悲鳴だったのは内緒だ。
「麻紀さんっ! どうしました? 麻紀さんっ!」
大事な大事な婿殿の悲鳴を聞き、音源であったお風呂場に飛び込んだ響が見たものは……
「み、見ないでぇ……」
ぷらーん、ぷらーん、ぷらーん……
麻紀の脇の下にぶら下がる、『綺麗なお姉さんは好きですか?』のCMでお馴染みの脱毛器具だった……
「うう、もうお嫁に行けない……」
「すでに一回出戻った上で、わたしに婿入りしてるんだから、これ以上嫁行かれたら困りますっ! で、何やってるんですか? ソイエのサーカス?」
「うぅぅ……」
脇の下のお手入れをしていたら、その部分に脱毛器が噛み付いたらしい。って、噛み付くの⁉︎
「めちゃくちゃ痛いのよこれ……これが無ければ、凄く使いやすいのに……」
と言うわけで、この日から響は色々と考え始めた。
翌八月。ついに対策の魔法を考えつくものの、ちょっとこう、感覚的に色々、ばいーんとか、びしっとか、ぎゅぅうぅっとか、説明しづらい魔法になってしまったために、スクロール魔法さん経由でお姉ちゃんに相談をかけた。
そして現在……
「ばばーんっ! 麻紀さん麻紀さんっ! 新魔法作ったのでぜひ覚えてくださいっ!」
「ん? なになにどうしたの? 新魔法?」
「まぁまぁ、ちょーっと可愛い嫁の目を覗き込んでもらえますか?」
「はいはい、可愛い可愛いお嫁さんの目の中ね。今度は何思いついたのぉぉおおおっ! またインスコっ⁉︎」
毎度お馴染み魔法のインストールです。
『Magic Epilator Version 1.0 Install』
麻紀の視界をザザザザザとテキストが流れていく。
「エピレータ? 脱毛器?」
「ですです。ほら、前に麻紀さんがめっちゃ痛がってた事故があったじゃ無いですか」
「やめてぇっ! 思い出さないでぇ……ぅぅ、お嫁に行けなく……」
「そのネタはもういいですから。それでですね、魔法でなんとかならないかな? と思いまして、作ってみましたっ!」
めっちゃドヤ顔しています。可愛いけど。
あ、でも最近は、可愛いよりも綺麗になってきてるな。この娘。
「えーと……コンプリートしたみたいだからやってみるね……普通に使っていいのかな?」
「はい、そのまま使えば使い方は理解できると思います」
麻紀はメニューをたどり脱毛魔法を発動した。
「んー……ん? あ、範囲とか効果とかこれあれだわ。画像編集ソフトっぽいわね。ふむふむ。んーと……じゃ、この腕のこのへんを指定して、ぽちっと……何も起きない?」
「いきなり『ブチっ』ってやっても、痛いしまた生えてくるしで面倒じゃないですか。なので、数日かけて毛穴から処理するアルゴリズムになってます」
「って、永久脱毛できるって事?」
「後でまた生やすことも出来ますよ。だから、眉の形整えたりも、好きに変更できちゃいます」
「す……凄くない?」
「自信作ですっ!」
そこから、数日かけて検証を続けていく。もっとも、生やし直しは時間がかかるためにまだわからないが……
「響ちゃん……この魔法凄すぎるわ……とりあえずアレよ。そろそろ他の人にも教えてあげるべきだわ。こんなの独り占めしてたら、絶対にバチが当たるもの」
「え? そこまでですか? じゃ、明日百里行ったら美智子さんとか理沙さんにも……」
「文香先生にも教えてあげなさい。いや、クラスメイトにも教えてあげて。本当に本当に凄いから。ああ、わたしの嫁は天才だわっ」
麻紀は、ちょっと『彼方の世界』へ行ってしまっている。
翌日、百里基地にて理沙、美智子、そして六組のみんなに伝え、更に次の日から文香先生や小波師匠、めぐみさん等の知り合い魔法使いへと、次々と伝授していった。
「響ちゃん……凄いわこの魔法。これはあれよ。二次元コード化して全国の魔法使いへと広めるべきだわ」
翌週、美智子さんが興奮して伝えてきた。
「だってさ、剃り残しとか処理忘れとかで恥ずかしい思いすることって多いじゃない! 更に、痛くも痒くもないし、毛穴が腫れたりもしない。なんなら毛穴が全く見えないよ、これ」
おしゃれに厳しい美智子さん、それはそれはこの魔法がお気に召したようだ。
「全ての女性がこれ使えるようになったら、脱毛サロンとか間違いなく潰れちゃうけど、魔法使いだけなら問題ないでしょ。広めちゃお」
まぁ、魔法使いが出来ることを全ての人が出来るようになったら、電卓屋さんとかライター屋さんとか懐中電灯屋さんとかみんな潰れちゃうしね。
こうして、脱毛魔法は正式にコミコミパックへと編入されることとなり、全国の魔法使いがお風呂場で悲鳴を上げなくて済む様になった。
ちなみに、響の周りで一番喜んだのは、麻紀さんでも美智子さんでもなかった……
「響、わたしね、響に生涯の忠誠を誓うわ。どうかわたしとセトルリを貰って欲しいの……」
「いや、セトルリは元々わたしの嫁でも有るしって、尚子どしたん?」
尚子が泣いている。泣きながら響に感謝をしている。
どうも、尚子はかなり体毛が濃いめの少女だったらしい。
必死に処理はしているが、毛穴は目立つし、頻度が高いからだんだん濃くなってきてる気もするしで悩んでいたそうだ。
見た目、絶世の美女。
香り、傾国の美女。
剛毛……は辛かったのだろう。涙を流しながら響に感謝を伝え、全身を更に磨き上げたと言うお話しでした。
記念すべき100話目が、こんなお話で良いのでしょうか……
まぁ、響ですして。それっぽいですよね……
それではまた、お会いいたしましょう。




