その間、三秒
第二ラウンド開始直後、鈴羽の戦い方は目に見えて変わった。それは、
『Kurobane選手、なんとこの大会で初めて攻撃型にスタイル変更しました。そして自傷ダメージによるエンチャント付きだー!』
マリアの防御型から攻撃型へのスタイルチェンジ。そしてそれに伴う特性『鋼鉄の乙女』の変化。自分の体力を削ることによる、攻撃力アップの付加効果。
今の戦闘スタイルは、紛れもなく昔の鈴羽のものだった。
「行くよ、史人!」
「こい、鈴羽!」
前から聞こえてくる鈴羽に答える。そして、
『なんとぉ! 攻める攻めるマリアが攻める! 今までの防御型が信じられないくらいの猛攻。そしてマリアの放つ斬撃をこれまた信じられないスピードで避けていくJOKERmk2!』
迫りくるマリアの放つ斬撃を紙一重で避けていく。防御型の時とは異なり装甲を完全に脱ぎ捨てたマリアはシステム的なスピードこそ変わっていないものの、攻め方一つでかなり早くなっているように感じられた。
攻撃の始動も攻めあぐねはするものの、まったく隙が無いという訳でもなかった。攻撃後やジャンプした後の着地後など、すくない隙を出来る限り攻めていく。
カギとなってっくるのは、やはり必殺技だ。これらをうまく組み合わせて隙を作らなければいけない。マリアのジャンプと同時に『血走』を使用しスライディングするように相手の背後に回り込もうとするが、
「くっ!」
完全に読まれていたのか、斜め下段攻撃で完全に迎撃されてしまう。やはりこれまでの戦いで必殺技を全て見せてしまったのは痛かった。本調子でさえあれば鈴羽ほどの腕になると、一度見せた技はほぼ完ぺきに対応されてしまう。
だが、これで怯んでばかりもいられない。体力ゲージを四割ほどもっていかれたが、この戦いは攻めることを止めた時点で敗北してしまうことがなんとなく分かった。だから果敢に飛び込み攻撃を続けていく。
『Humito選手、Kurobane選手お互い一歩も引かず攻め続ける! ラッシュラッシュラッシュ! しかしどちらもギリギリのところで相手の攻撃を躱しています!』
コンボを狙っていくが始動の一撃が当てられない。裏を取ろうとするが上手く距離を取られてしまう。そんなことを続けていると時間がいつの間にか過ぎていってしまい、
『Time Over』
タイムオーバーでラウンドを取られてしまう。これで1:1。勝負は三ラウンドに持ち越された。
第三ラウンド、恐らく開始直後に決着をつけなければ勝つことは難しいだろう。一度試合が始まってしまうとお互い考える暇もないくらい攻め続ける。僕と鈴羽の反応速度ならお互いの攻撃をギリギリで躱し続け恐らく決着がつかないだろう。
そして鈴羽もそのことに気付いているはずだ。初っ端から勝負を決めてくる可能性が高い。
最後はやはり読み合いか。格ゲーは絵面的に殴りあっているから頭は使わないと思われがちだが、突き詰めれば頭脳戦と言ってもおかしくはないほど頭を使う。相手の思考を読み、自分がどう行動すれは相手の攻撃を避けながら勝つことが出来るかを必死になって考えるのだ。
『残すはあと一ラウンド、どちらが勝つのかもうわたしには予想できません! もういったん実況の仕事を忘れて言わせて頂きます! 両方とも頑張れ! マジ頑張れ! よし、準備はいいか!? いくぞ、ファイナルラウンドいくぞ! ファイナルラウンド、レディ……』
『Fight!!』
そして、お互いの必殺技カットインが画面に表示された。僕も、鈴羽も、お互いがお互いの必殺技にかけたのだ。こちらは飛び込み攻撃、マリアは斬撃をとばす攻撃。普通ならこちらの攻撃よりも前に斬撃の高さに引っかかって喰らってしまうところだった。
しかし、斬撃のほんの僅か上を、JOKERが飛び越え、そして――
『K.O.』
勝負が、ついた。試合開始から時間にして、三秒の出来事だった。
『け……決着ーー!! お互い必殺技を打ちあい試合を制したのは、Humito選手だー! しかし、一体どうしたことでしょうか!? 本来ならマリアの斬撃の方が早くヒットするものかと思われましたが……』
実況の人も観客も、試合が決着したことより何が起こったのかというところに気がいってしまってるようだ。だが、そこですかさずケン兄がマイクを取った。
「おそらくですが、Humito選手は必殺技の『落葉』を打つ前に、レバーを僅かに上に入れてましたね。これでマリアの必殺技を飛び越え、かつマリアにギリギリヒットする高さを稼いだわけです」
だよな? という感じで視線を投げかけてくるケン兄に、僕は頷いて返す。
『しかし落葉は空中発動できる技でしたでしょうか? この大会では全て地上にいる時のみ使用していましたが?』
「そこが上手く印象付けましたよね。確かにJOKERmk2の前身であるJOKERの落葉は地上技でした。しかしmk2は空中でも発動できるようになっていることがちゃんと明記されています。しかし、この大会では敢えて地上でしか使用せず、空中発動できることをここまで意識させなかったと思うのですが」
やっぱりケン兄には見破られていたか。一応秘策だったんだけど。
『それが事実だとしますと、Kurobane選手のマリアと戦い、お互い必殺技を打ちあうという場面まで想定していたということになりますが……』
「想定していたんでしょう。あくまでHumito選手の中では、Kurobane選手と戦うことが目的だったように思えます」
『何ということでしょう……はっ、すいません忘れておりましたが、第一回UF杯、優勝はHumito選手です!』
そこで初めて、会場から歓声が沸き上がった。そして、
(終わった、な)
僕もようやく、息を一つ吐いた。
恐らく次回か次々回が最終話となりそうです。
良ければ最後までお付き合いください!




