決勝戦
『さてとうとうやって参りました決勝戦! それでは改めて選手の紹介からさせて頂こうと思います! まずはこの方から! レジェンドの愛弟子、Kurobaneから一ラウンド取った期待の新星、Humito選手!』
実況のアナウンスで会場内が沸き上がる。歓声を受け、改めて決勝へ来たんだという実感がわいてくる。
『続きまして、無敗の公式プレイヤー、鉄壁の守備で数々のプレイヤーを倒してきました。しかしてその正体は現役の女子高生、Kurobane!』
さっきより数段大きい歓声と共に、鈴羽もステージ上へと上がってくる。
『さて、両者出揃いました。決勝を前に何かありますでしょうか、蒼梅さん!』
「お互い全力を出し切って戦って欲しいですね。それが唯一、わたしからの願いです」
『はい、有難うございました! えーわたくしも一実況者としてお二人の全力での戦い、期待しております。それでは準備に入ってもらいましょう!』
これからいよいよ鈴羽と戦うことになる。しかも舞台は決勝。緊張で手はじっとりと汗ばみ、呼吸も少しはやくなってくる。
対面の筐体に鈴羽が腰を下ろした。続けて僕も座る。これでお互いの表情は見えなくなった。目の前にはUFのキャラクター選択画面が表示されている。僕が選ぶのはもちろんシリアルキラーmk2、そして鈴羽は前に戦った時と同じマリアだ。
全ての舞台が整った。後は試合開始を待つのみ。
『さて準備は整いましたね。それでは始めましょう! お互い悔いは残さない、残すのは笑顔で十分だぜ! 運命の決勝戦、レディ……』
息を飲む――そして、大きく吐き出した。
『Fight!!』
試合が始まる。が、鈴羽は今までと変わらずに最初はまったく動く気配がなく、こちらの攻撃による反射狙いだった。
(違う、そうじゃないんだ)
僕が戦いたかったのは、Kurobaneとして戦ってきた鈴羽じゃない。僕が戦いたいのは、僕に引けをとらないくらい負けず嫌いで、何よりも攻撃に全てをかけていた昔の鈴羽だった。
あの時の戦い方を望むのは完全に僕のエゴだ。でも鈴羽、今のキミはどこか無理をしているように見える。何かの理由で負けたく無い、その一心でひたすら自分に合わない戦い方をしてるようにしか見えないんだ。
だから、本来ならマナー違反かもしれないが、僕はとある行動に出た。それは挑発コマンド。消極的な相手に積極的な攻めを促すためのコマンドだが、多用はトラブルの元となる。
ただ、僕は敢えてそれを連打した。もちろんこんなことをすると、
『おぉっと、なんと攻めないKurobane選手に対してHumito選手が挑発を繰り返しています。そしてこれは……ブーイングでしょうか? 観客席からHumito選手の行動にブーイングが起こっています!』
もちろんブーイングものだ。それでも、
(のってくれ、鈴羽)
そう願いつつも挑発を続けるが、一向に鈴羽が攻めてくる気配はない。そして30秒を切ったところでようやく動き出しはしたものの、それは積極的な攻めではなく、引き分けにしないため仕方なく動いたのだ。
(違うんだ、鈴羽)
そう思いながらも鈴羽の攻撃を躱していく。躱して、当てられはしないだろうけど反撃を――
「えっ!?」
一瞬何が起こったか分からなかった。が、画面をよく見ると『K.O.』の文字。
当たった? いや当てるつもりで放った攻撃だけど、鈴羽にこんな簡単に当てられるはずがない。避けられなかったとしても、ジャストガードで反射してくるはずだ。なのに……
『当たりました……ね。これは驚きですが一ラウンド目、あっという間に決着がつきました。ですが……』
実況も戸惑っている。当たり前だ。これまでの戦いを見ていたら素人でも分かる。さっきの鈴羽の反応はおかしい。たまらず僕は立ち上がって鈴羽の台に詰め寄った。
「鈴羽、一体何の――」
つもりだ、と言おうとして、僕は言葉を飲み込んだ。泣いていたのだ、鈴羽が。
「すず、は……?」
「う、うぅ……」
「どうした、鈴羽!?」
「ごめん……なさい」
慌てて鈴羽の背中を撫でて落ち着かせようとするが、一向に泣き止む気配がない。
「鈴羽、落ち着いて、大丈夫だから」
「……ひっぐ、うん」
「どうした、ゆっくりで良いから言ってみな」
出来るだけ優しい言葉で語り掛ける。するとすこし落ち着いたのか鈴羽はゆっくりと喋りはじめた。
「あのね、本当は戦いたかったの、あの頃と同じように、史人と、全力で」
「うん」
「でも、負けられないの……ぜったいに」
「それはどうして?」
「だって……だって負けたら史人がいなくなっちゃう」
「あ……」
そこで気付いた。ケン兄が負けたあの日から僕はゲーセンに行かなくなってしまった。だから鈴羽は負けたら僕がいなくなってしまうと思い込んでしまったのだろう。だからずっと負けないことに何よりもこだわっていたのか……。
「ごめん、鈴羽。全部僕のせいだったんだな……」
「……ひっく」
「でも大丈夫。僕はもういなくならないから……だから、全力で戦ってくれ、鈴羽」
「……うん」
最後に頭をなでると、あの頃と同じ安心したように鈴羽はほほ笑んだ。僕も安心して自分の席に戻ろうとしたんだけど……。
「あ……」
ギャラリーも、実況も、ケン兄すらもどこか呆気にとられた顔でこっちを見ている。そりゃそうだ、いきなり泣き始めた鈴羽を対戦相手である僕が慰め始めたんだから。
『えーっと、第二ラウンド始めても良さそうですかね?』
「あ、はい。すいません……」
実況の人に謝りつつも自分の席に戻る。注目は浴びてしまった訳だけど、これで何のわだかまりもなく鈴羽と対戦できる。そのことが何よりうれしかった。
『えーそれでは詳しい話は試合後に聞くとして、決勝戦第二ラウンドレディ……ファイト!』
それじゃあ、全力で戦おう鈴羽。あの頃みたいに。




