決勝へ
「先輩、やったね。決勝だよ!」
「ありがとう、真白」
試合後、ステージ脇に戻ってきた僕を真白が迎えてくれた。
「後は鈴羽さんが準決勝に勝つと、戦うことになるね」
「うん」
この後すぐに準決勝第二試合が行われる。その結果次第ではあるけれど、ついに鈴羽と戦うことが叶うのだ。
「おーう、史人。決勝進出おめっとさん」
と、リュウ兄が遅れてステージからはけてきた。決着がついたばかりなのに、相変わらず飄々とした感じなのは変わらなかった。
「リュウ兄、ありがとう」
「久しぶりに対戦出来て楽しかったぜー。ま、できれば勝ちたかったけどよ。やっぱお前すげえわ。最後の攻撃、くるのは分かってたけどまったく対応できなかったし」
「この前ケン兄にさ、僕の強みは反応速だって言われて、それで」
「なるほどなーケンの入れ知恵か。でもありゃあ大したもんだ」
「リュウ兄こそ、最初すごいガチガチの防御だったよね」
「あーあれなー。あのまま行こうかと思ったんだけど、お前がゲージ回収してきたから、じゃあもう正面かから戦った方が早いし盛り上がるかなって」
「だね」
そう言って僕らは笑いあった。読み合いも楽しいけど、やっぱりガンガン攻め合った方が僕らにはあっている気がした。
「そろそろスズちゃんの試合も始まるかな。史人、お前も見るだろう?」
「うん、鈴羽の戦い方を少しでも見ておきたいしね。真白、それで大丈夫かな」
「うん、大丈夫。行きましょ」
観客席まで移動すると既にステージ上には鈴羽と対戦相手の姿があった。ここからじゃ表情はよく見えないが、今の鈴羽は緊張もしていないのかもしれない。
「対戦相手、あれプロゲーマーの人じゃね?」
リュウ兄の言葉を受けてよく見てみると、鈴羽の対戦相手は確かに見たことがある顔だった。
「プロゲーマーっていうくらいだから、もちろん上手いのよね……。鈴羽さん、大丈夫かしら?」
真白が不安そうにつぶやく。でも、僕は予感があった。鈴羽はきっと勝つだろうと。
間もなく試合が始まった。鈴羽の戦い方は変わらず防御よりだった。ただ相手もそれを承知なのか反射のダメージを受けない飛び道具をメインに攻撃を仕掛けていった。
さすがプロゲーマーというだけあって一つ一つの攻めが的確で、鈴羽も防戦一方になるかと思われた。しかし一回戦と同じく鈴羽は途中から攻めに転じた。ただ一撃当てたのちは再び防御に徹してしまい、タイムオーバーで決着がつくこととなった。
確かに安全な戦い方だ。攻撃をしながら防御も考えて戦うより、初めから防御だけを考えて戦った方が圧倒的に戦いやすい。
しかも攻撃面に関してもプロゲーマーに引けを取らない技量を鈴羽はもっているのだ。一発だけ与えて、あとは相手の攻撃を捌くだけに徹するというのは勝つのを目的とした戦いでは理想的なものかもしれない。
そして現に、
『準決勝でも変わらず鉄壁を誇る防御をもってKurobane選手勝利!』
プロゲーマー相手でも安定して勝ってしまう。
鈴羽、キミをそこまで勝ちにこだわらせているものは一体何なんだ? やっぱりケン兄の敗北がキミを変えてしまったのか? それとも、他に何か理由が――
「やっぱり鈴羽さんが来たわね、先輩」
「そう、だな」
ステージ上にいる鈴羽は勝っても表情を少しも変えず、直ぐにステージの脇にひっこんでしまった。
「僕、ちょっと行ってくる」
「鈴羽さんのところ?」
「うん、決勝前に少し話したくて」
「分かった。いってらっしゃい、先輩」
真白に見送られステージ脇に移動する。そこには少し薄暗い中に佇む鈴羽の姿があった。
「……史人」
「鈴羽……決勝進出、おめでとう」
「うん……」
そこで会話が途切れてしまう。まだ何をどう話せば良いのか整理がついていない状態だった。それでも、このまま何も話さず決勝で戦うのはどこか気が引けてしまった。
「史人は……」
「え?」
「史人はやっぱり変わらないね」
それは戦い方だろうか? それとも他の何かだろうか?
「鈴羽は、どうしてそこまで勝ちにこだわるんだ?」
「……」
「教えては、くれないんだな」
「ごめんなさい」
「いや。ただ一つ、決勝前に謝らせて欲しかったんだ」
「え?」
「昔、何も言わずにゲーセンに行かなくなってごめん。リュウ兄から聞いたよ。鈴羽はあれからもゲーセンにしばらくきてくれてたって」
「うん」
「だからごめん。それだけ謝りたかったんだ」
「……」
鈴羽は僕から顔を背けてしまった。やっぱり今更だと思われたかもしれない。
「もうすぐ決勝が始まるな……そろそろ移動しないと」
「史人っ!」
「鈴羽、どうしたの?」
「……うぅん、何でもない」
結局、鈴羽はそれっきり何も言わなかった。
『さあさあ、そろそろ決勝の準備が整いましたかね? それでは選手のお二人は準備に入ってください!』
実況の声がステージ上から聞こえてくる。ゲームの大会はスケジュールが詰まっていることが多いためインターバルも少ない。真白とも少し話したかったけど、これはもう時間に余裕がないな。
「じゃあ鈴羽、先に行くよ」
「……うん」
そうしてステージ上に再び立つ。スポットライトが眩しいくらいに降り注ぎ、観客席からは今までにないほど大ボリュームの声援が聞こえてきた。残る試合はあと一つ。そして、年度の頭から続けてきたことの集大成でもある。
勝つか負けるかは分からない。それでも――悔いのない戦いにしよう。




