師匠
「よ、待ったか?」
「うぅん、僕も今来たところだよ」
いつものゲーセン。だけど今日はe-Sports部のみんなは外してもらっている。僕に声をかけてきたのは他でもない、ケン兄だった。
「ここに来るのも久しぶりだな」
「あれから来てなかったの?」
「何回か来たさ。でも、どっかの誰かさんは全然来てくれなかったけどな」
「ごめん……」
「はは、ちょっと意地悪だったか」
軽く挨拶を交わし僕らは格ゲーコーナーの脇にある休憩所の椅子に腰を下ろした。
「で、どうした急に」
「ちょっと相談したいことがあってさ」
「……鈴羽のことか」
「分かるの?」
「分かるさ、愛弟子のことだからな」
そう言ってケン兄は子供のような無邪気な顔で笑った。本当にこういうところは昔から変わってないなぁと実感する。そして、そのことにやけにほっとしている自分がいた。
「ケン兄は変わらないね」
「史人だって変わってないと思うぜ? いや、見た目は成長したけど、相変わらず負けず嫌いみたいだな」
「そうかな。昔よりはマシになったと思うけど」
「負けず嫌いじゃなきゃあんな戦い方はしないさ。それに……鈴羽だって、変わってないぜ?」
「え?」
意外な言葉だった。僕の目から見ると鈴羽はかなり変わってしまったように感じたからだ。
「昔から自分の気持ちを表現するのが下手で、大好きなお前の後ばっかりついてってさ」
「今は僕が追いかける立場になったけどね」
「そういう意味で言ったんじゃないんだけど、まいいか」
そう言ってケン兄は立ち上がると、UFの台にコインを投入した。
「久しぶりにどうだ。対戦しないか?」
「もちろん、やるよ」
ケン兄の対面台に座る。キャラ選択で僕は迷った末にJOKERmk2を使うことにした。まだ完全に使いこなせてはいない。だけど、僕は今このキャラと向き合わなければいけないと思った。
「Kurobane戦の時に使ったJOKERの改良版か」
「知ってるの?」
「もちろん。審査に上がってくるキャラには全部目を通してる。おかげで毎日数値とにらめっこだ」
「はは、大変なんだね」
「あぁ、大変さ。そして楽しい。これが俺のやりたかったことなんだっていつも思う」
「やりたいこと? オリジナルキャラのステータスを見ることが?」
「それも含めて、格ゲーマーが自由な発想で格ゲーに向き合える環境を提供できているってことが、かな」
「それがケン兄のやりたかったことなんだね」
話もそこそこに第1ラウンドが開始される。ケン兄が選択したキャラは歩夢だった。ケン兄の戦い方は昔から変わっておらず、初めからお互いガン攻めで削りあう。こちらもダメージを与えられこそするものの、ダメージレースでは圧倒的に負けてしまう。
「相変わらず良い反応だ、史人。ただ思考が体に追いついてないぞ」
「分かってるよっと!」
第二ラウンド。今度は真っ向勝負を避け、持ち前のスピードでかく乱しながら戦ってみる。だがやはり完全に動きを読まれ着地したところを見事に狩られ敗北。あっという間に勝負は決してしまった。
「はは、やっぱりケン兄は強いね。あの頃から全然腕も衰えてないし」
「このゲームに関しちゃ誰よりも触ってる自信があるからな。それにお前の迷いが動きに出てる」
「そう、だよね。やっぱ」
僕の中にある迷い。それがきっと僅かなズレを生み出しているのだろう。
「攻撃型か、防御型か」
「えっ」
「鈴羽に言われたこと、気にしてるんだろ?」
「ケン兄には敵わないな、ほんとうに」
これがe-Sports部のみんなだったら、どこか見栄を張ってしまって素直に認められなかったのかもしれない。でも昔からカッコ悪いところばかり見せていたケン兄には、弱さを見せてしまう。
「史人、お前はなんで攻撃型で戦ってるんだ?」
「それはもちろん、ケン兄が攻撃型だったから……」
「きっかけは俺だったかもしれない。でも、使い続けてるのに、他に理由はないのか?」
理由――僕が攻撃型を使い続けている理由。それは、
「カッコイイから、かな?」
「ははっ、なるほど。カッコいいからか」
僕の答えを聞いてケン兄が笑う。
「やっぱおかしいかな」
「おかしくねぇさ、俺だってカッコイイから攻めて攻めて攻めまくってるんだ」
「ケン兄も?」
「おうよ。あ、そうだ。JOKERmk2の必殺技見たぞ。まだモーションは粗いがあれもメチャクチャカッコいいよな! そんなんでいいんだよ、理由なんて」
「うん……でも、攻撃型は勝つには向かないよね」
「まあな。鈴羽のその言葉に間違いはない。でもな……」
そこでケン兄は言葉を切り、少しためてからこういった。
「たとえ負けても自分らしさを出して負けた時は後悔しない。自分らしく全力で戦って負けたなら、それはカッコイイ負け方だ。ま、あくまで俺の持論だけどな」
「ケン兄……」
「だからな史人。どっちが勝ちやすいかじゃない。どっちで戦いたいかだ、お前が」
ケン兄の示してくれた答えはいたってシンプルだった。そして、僕はその問いに対する答えをもう持っている。
「僕は……攻撃型で戦いたい」
「そうか。ならお前は攻撃型で戦うべきだ。それに、お前は俺にだって勝てるモノを持ってる」
「僕がケン兄に、勝ってるモノ?」
僕が尋ねると、ケン兄はニヤリと笑って100円を取り出し、ふたたびUFの台に投入した。




