一番の強み
僕も100円を投入し、もう一度対戦が始まる。ケン兄は使用キャラにJOKERを選択した。通常の歩夢よりもスピードが速いので、捕らえるのがさらに困難になるだろう。そう思っていたのだが、
「あれ」
追える。
さっきまで早すぎてまったく反応できなかったケン兄の攻撃が、目で追えるようになっていたのだ。
「どうして……」
「それがお前の一番の強みだ、史人」
対面から操作をしつつもケン兄が話しかけてくる。
「お前は昔から恐ろしい反応速度を持っていた。もちろん若さもあったんだろうが、仮にも全国チャンピオンだった俺を凌駕するほどの反応速度だった。最初に見た時は本当に驚いたよ。こんなにもすごい奴が、身近にいたのかって」
ケン兄は喋りながらも猛攻をしかけてくる。それでも、その一つ一つに適切な反応が頭の中で即座に浮かんでは体がそれを実行していく。それはもう反射といっても差支えなく、自分でも信じられなかった。
「だが、さっきの戦いだとお前はまだ迷っていた。反応速度の最大の敵は迷いだ。迷っているからズレが生まれ、キャラとかみ合わず、接戦で致命的な遅れを生んでいた。だがお前はそれを克服した。それさえ無くなってしまえば、もはや俺ですら攻撃を当てるのが至難の業となる」
ケン兄の言葉通り本当にギリギリのところで攻撃をさばくことが出来ていた。このままいけば本当にタイムオーバーになってしまう。そう思ったのだが、
「あっ!」
「ま、それをどうにか出来るのがこのゲームなんだけどな」
離れて距離をとった一瞬の隙をつかれ、JOKERの必殺技『落葉』がヒットしてしまう。こんなところでオリジナル技を撃ってくるあたりは、さすがにケン兄と言わざるを得ない。
「なるほど……鈴羽は僕にラウンド取られた時、こんな気持ちだったんだね」
「はっはっは、かなり悔しかっただろうな。それくらいオリジナル技は手ごわいよ。俺も正直この技が無かったら今の試合はドローになってたと思うし」
「あぁ、すげぇ悔しい!」
「おうおう、存分に悔しがれ!」
あぁ、やっぱりケン兄は強いや。そんでオリジナル技もやっぱ強い。
今まではデフォルトキャラの相手しか戦ってこなかったけど、大会に出るならオリジナルキャラの技も全部頭に入れないとダメだ。それにmk2だって新しくオリジナル技作ったんだし、それも使いこなせるようにならなきゃ。
「ダメだ。やることがいっぱい過ぎる」
「そうだぞ、史人。迷ってる時間なんてない。今度の大会は規模こそ地方大会レベルだが、レーティングの高い選手を招待してる。いくらお前が強いとはいっても、楽に勝てる相手じゃない」
「うん」
「だから突っ走れ、史人。昔みたいに無鉄砲に、それでもがむしゃらに。お前の持ってるセンスならもっともっと高みへいける。そして鈴羽の迷いも吹っ切ってやってくれ」
「鈴羽の?」
「あいつも、まだどこかで迷ってるんだと思う。腕の良さで迷いを隠してるけどな。俺の言葉じゃ鈴羽にも届かないんだ。お前じゃなきゃな、史人」
「ケン兄……うん、分かったよ」
そのためには並み居る強敵たちを倒して鈴羽と戦える場まで勝ち上がらなければならない。
もう、一瞬たりとも時間が無駄に出来ない。
「ごめん、ケン兄。僕、行くよ」
「おう、大会、楽しみにしてる」
「うん、ケン兄も驚くくらいの戦いをしてみせる」
そうして僕はケン兄に別れを告げ、ゲーセンを飛び出した。スマホを開いて真白に電話をかける。
『真白、明日もう一度mk2の調整に付き合ってくれ』
『え、先輩!? ……もしかして、何かつかめたの?』
突然だったのでさすがに真白も驚いてはいたが、僕の声を聞いて何かを察してくれたようだ。
『あぁ、僕はもう迷わない。それで鈴羽に勝つためには今のmk2じゃ足りないんだ!』
『足りない……そう、分かった先輩』
『真白、いいのか? また最初からいじり直すことになるけど』
『約束したでしょ。だから大丈夫。先輩は何も心配しないで』
『ありがとう、真白』
『明日から忙しくなるね』
『ああ、明日からもよろしく』
『任せて! おやすみ、先輩』
会話を終えスマホをしまう。明日からは本当に戦いだ。キャラクター登録期限までの残りの数日、出来る限りのことをやってやる。




