前へ目次 次へ 68/347 朧月夜 朧月夜 薄雲透けて見る月は、どこか寂しく遠くに見える。月のうさぎは影もぼやけて、どこかへ跳んでいったらしい。 薄雲のヴェールをまとい貴婦人のごとく空を行き、いくつもの不吉を運ぶ、不吉を告げる。 生ぬるい風はぼうぼうと耳を打ち、夜は深く、ただ深く月の届かぬ暗がりに沈んで行く。 薄雲はいつか厚く層を成し、月を覆って隠してしまう。 暗い空を行く雲の音。明日は初めての春の雨。月を溶かして雨は冬を拭い去る。溶けた月には甘い毒。人を狂わす甘い毒。 春の夜には皆狂う。