第二章:シザンサス
死ネタなので、苦手な方はご注意ください。
そこまできつくはないと思います。
「いや、やめて・・・・・」
いじめっ子達に、必死で懇願する。
まあ、聞いてもらえるなんて、始めっから思ってないけど。
「はぁ?なに言ってんの、馬鹿じゃね?」
「うっわ、お前、ちょっとは手加減すればー?」
「大丈夫だって。こいつのことだから、言えねえって」
「ま、それもそうだな・・・っ!!」
ギャハハ・・・と、彼らは品のない笑い声を上げる。
笑いながら、私を足蹴にする。
私は腕でお腹のあたりをかばおうとするけれど、なんせ相手の数が多いため、細い腕の隙間から入った足先が、内蔵を抉られるような痛みを与えた。
「かは・・・・っ!!」
肋骨を衝撃が襲う。
____意識が、途絶えた。
* * *
気づいたときには、もう日が暮れていた。
「ただいま」
「おかえり、おねえちゃん!!」
「おかえり、えり」
私の家は、私と妹と母の三人暮らしだ。
父は街へ出稼ぎに行っていて、家にはいない。
私がいじめられても言えない原因のひとつだ。
母をこれ以上心配させるわけにはいかないし、まだ小さい妹に辛い思いをさせたくない。
「ご飯、もうちょっとかかりそうだから、宿題でもしてきなさい」
「はぁい・・・今日は多いんだよね・・・・。先生の意地悪!」
実際はいじめっ子の分まで押し付けられただけで、もとはそんなに多くない。
これくらいなら、二時間あれば片付くだろう。
数をこなすのは、私にとって性分なのかそんなに苦でない。
今日はゆっくり寝れそうだな、と思うと、自然と笑みが浮かぶ。
ぼろぼろにされたカバンを持って、自分の部屋へ向かった。
* * *
「・・・終わった・・・・」
仕上がったプリントに名前を書いていく。
全部で、八枚。
とは言っても、ほかの人も見て見ぬふりをしているから、いじめに加担していると言ってもいい。
私には、味方なんていないのだ。
味方したら自分までいじめられるのだから、当たり前と言えば当たり前だけれど。
「・・・・・・・・・・しょう」
それでも、幼馴染が先頭に立って攻撃してくるのには、驚いた。
悲しかった、のほうが正確かもしれない。
だって、私はあいつ___しょうが、昔から好きだから。
だから、逆らえない。
言うことだって、できない。
言ったら、しょうが叱られるから。
「根は、いいやつなのにね・・・・・・」
何をされたって。
私は、あいつを嫌いにはなれないのだろう。
嫌いになれたら、いっそ楽になれそうだけど。
割り切れない自分が、なんとなく情けなく感じられる。
「・・・・恋って、厄介だな」
お前いくつだよ、と突っ込みたくなるような呟きが漏れた。
時計を見ると、夜の十一時。
することもないし、もう寝ようと思って、布団に潜り込んだ。
* * *
「・・・・お願い、やめてっっ!!!」
____今日は、本当に最悪だ。
学校が終わって呼び出されたかと思うと、こんな人気のない場所へ連れてこられて、あっという間に縛られてしまった。
キリストみたいな格好で、どこから持ってきたのか水をかけられた。
それだけならまだいいものの、今、私の目の前には裁ちばさみを手にしたしょうがたっていて、後ろには携帯電話やビデオカメラを構えた残りのメンバーがいる。
私の服を切り裂いて、それを撮るつもりなのだろう。
「・・・お願い・・・・・・・・」
「・・・・・・っ」
近づいたしょうの瞳が、一瞬、ほんの少しだけ、揺らいだように見えた。
口角を上げていた唇が、ひらく。
「・・・・・・・っっっ!!!!!!!!!!」
『ごめんな』
しょうの唇が告げたのは、その4文字。
その表情があまりにも、辛そうで。
叱られた子供みたいで。
小さく、頷いた。
しょうの手が、制服のボタンに掛かる。
二つほど外したところで、手が止まった。
「へぇ・・・お前のくせに、いいもん持ってるじゃん。これは没収だな」
次の瞬間、しょうの手にはネックレスがあった。
「・・・それは・・・・!!」
幼いころ、しょうがくれたものだった。
今まで肌身離さずにつけていたのに、始めに付けてくれたのと同じ手で外されてしまった。
「・・・俺みたいなやつが贈ったもんなんか、持ってるんじゃねぇよ。・・・お前には、似合わねえ」
そう囁いて、しょうが離れる。
「俺、腹減ったから、今日はこれで勘弁してやるよ。ありがたく思え」
そう言ったしょうの瞳には、後悔の色が見え隠れしていた。
* * *
やっぱり、しょうは変わってない。
優しくて、弱い、私の幼馴染のままだった。
そのことが分かったから、次の日は心が軽かった。
「お前のくせに、何かいいことあったのかよ」
「頭おかしくなったんじゃねぇの?」
「言えよ。いいことあったんなら、つぶしてやるからさぁ」
「さすが大将、考えが違うな」
「俺だったら、こいつのために労力費やすってのがありえねぇな」
「おい、蹴るのはありなのかよ」
「ストレス発散」
「ああ、なるほど」
こんな感じで話してるのは、いつものこと。
「ってかお前、なんで生きてんの?お前みたいなのがいても、邪魔なだけだろ」
こんな台詞も、聞き慣れたものだ。
でも、今日は、
「いいよ。私、死んでも」
何も言わない代わりに、顔を上げて言った。
そして、近くの崖まで歩いていく。
奴らは、律儀に付いてきた。
しょうを中心に、“死ね”のコールが巻き起こる。
「それであなたが、幸せなら」
微笑んだ。
しょうの中で、笑っていられるように。
そして、
墜ちた。
手を胸の前で、祈るように組んで、後ろに。
あなたが辛い思いをするのは、これで最後。
* * *
「馬鹿」
何度目かもわからない呟きがこぼれる。
「幸せになんか、なれるかよ・・・・」
知っていた。
知っていた上で、利用した。
えりは、俺のことを好きだった。
目の前には、あのネックレスがある。
『ありがとう』
渡した時のえりの笑顔は、今でも色褪せずに残っている。
あいつと同じように。
「・・・・・好きだ、馬鹿」
俺も、あいつに惚れているから。
「・・・・・・・・返さなきゃな、これ」
立ち上がると、あの崖へ向かった。
* * *
えり。
お前が俺を嫌いになったなら、それは俺の自業自得だ。
罰は、甘んじて受け入れる。
でももし、許してくれるなら、こっちの世界では。
______いつまでもいっしょに______




