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BLゲームの悪役令嬢に転生した枯れ専腐女子は、推しオジの幸せのために奮闘す。  作者: エナ子


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第25話 宰相様の説得

「少なくとも、今の話からは恐ろしさなど感じなかったが」


 花を枯らしてしまったことについては、宰相様はとくに恐怖を感じなかったようだが、私が聞きたかったのは『闇の力』そのものについてだ。


 さらに、突っ込んで聞いてみる。


「でも、闇の魔女は宰相様の命を狙ったんですよね? 宰相様は闇の力が怖くないんですか?」


 正直な話をしてほしくて、私は宰相様の瞳をまっすぐに見つめた。


 それが伝わったのか、宰相様は小さく頷く。


「闇の魔女との戦いで、私は皆に守られていた。彼らは自らを盾にし、先王陛下が到着するまで時間を稼いでくれたのだ。そのおかげで、私自身は彼女の攻撃を直接浴びずに済んだ」


 それから表情を曇らせ、重い息をひとつ吐き出した。


「だが……あれが忌まわしき記憶として、今も皆を苦しめているようだ。お前が現れたことで、彼らの心の傷がどれほど深かったかということに気づかされた。あのとき、もし私も最前線で怨霊に触れていたら、彼らと同じように闇を恐れるようになっていたかもしれん」


 宰相様を守ってくれた護衛の皆さんに本当に感謝だ。そのおかげで、宰相様が闇属性を、そして私を恐れずにいてくれる。


 けれど、その恩人たちを私は苦しめている。私の存在であの忌まわしい過去を思い出させてしまっているのだ。

 

 やっぱり、私は宰相様のそばにいないほうがいい。

 

 私は最後に宰相様の香りを目一杯吸い込んで、ギュッと抱きしめる。これで思い残すことはないと、地面へ下ろしてくれるようにお願いした。


 しかし、宰相様は私を抱きかかえたまま、一向に腕を緩めてはくれない。


「私をここに置いて帰ってください」


「そうもいかぬ」


 宰相様はきっぱりと否定する。


「私は、闇の力を持っているんです」


「そうだな」

 

「宰相様から離れたほうがいいんです」


 この会話、初めてあの屋敷で話したときと真逆だ。

 

 あのときは宰相様の不器用な優しさに涙腺崩壊したっけ。今だってその温かさに涙が出てきそうだ。だからこそ、ここは宰相様の思いに甘えるわけにはいかない。

 

「私、闇の魔女の孫なんですよ?」


 今まで淡々と答えていた宰相様だったが、私のこの言葉には怪訝そうに眉をひそめた。


「……なぜお前がそれを知っている?」

 

 どうやら、シドニーさんが私に話したことを知らないらしい。

 正直に彼女の名前を出していいものかと返答をためらっていると、宰相様は額に手を当て、小さくため息をついた。


「シドニーか。だから屋敷を出たのだな。しかし、『闇の魔女』とて娘を人質にされていたがゆえの行動だったのだ。彼女もまた、非道な思惑に巻き込まれた被害者にすぎん。孫であろうとお前が負い目を感じる必要はない」


「え? 人質?」


 聞いてない、聞いてませんよ!

 シドニーさん、私を屋敷から追い出すために、わざと教えてくれなかったな!


「人質の件は初耳のようだな。……ふむ、どうやら彼女はお前が『闇の魔女の孫』ということしか話していないらしい。ということは、お前の『母親』が魔女の娘であり、お前の『父親』が私の血縁者であることも知らないのだろう」


「えええええええええ?」

 

 あまりの衝撃に、私は思わず声を上げた。

 立て続けに突きつけられる真実に、思考が追いつかなくなる。


「お前の父親の父親、つまり祖父にあたる人物は私の異父弟だ。私とお前は大伯父と大姪という関係だな」


 母方の祖母が闇の魔女で、父方の祖父が宰相様の弟?


 ということは、闇の魔女の娘だったモルガナのお母さんと、宰相様の甥だったモルガナのお父さんが、ひょんなことから出会って結ばれて……モルガナが生まれたってこと?

 

 そんなことってある?


 いくらなんでも設定が盛りすぎじゃない?


 けれど、ゲームのモルガナがどうやって宰相様の養女になれたのかずっと不思議だったけど、これで説明がつく。

 

 なんて考え込んでいたら、続く宰相様の言葉に私は息を呑んだ。


「私はお前を養女に迎えるつもりだ」


 ――それは、ずっと望んでいた言葉だった。


 飛び上がりたいほど嬉しい。


 でも素直に頷くことはできない。


 私には「闇属性」という爆弾があるのだ。


「世間に闇属性のことが知れたらみんなに迷惑をかけちゃいます」


「それでも、私はお前を養女に迎える」

 

 宰相様の力強い声に、遠くから見守るつもりだった私の決意が揺らいでしまう。


「……でも」


 ふいに、宰相様は口元にかすかな笑みを浮かべた。


「一目惚れだ」


 その台詞!

 

 あの時、私が宰相様のそばにいなきゃいけない理由として大真面目に告白したやつだ。

 

 それを使ってくるなんて、宰相様ずるすぎる。


 宰相様は私の髪を撫でながら、話を続けた。


「お前を一目見たとき、私はお前に……どこか母の面影を感じたのだ。幼い頃に母とは生き別れてな……特にこの漆黒の髪が、よく似ていると思う」


 ――宰相様のお母様。

 

 思い返せば、ジッと見つめられることが何度かあったよね。あの視線は、お母様の面影を追っていたんだ。


「……だからこそ、私はお前を放っておけないのだ。それに、お前は私の命の恩人でもある。救ってくれたお前に報いたい。その気持ちに応えさせてくれ」


 ぐっ。


 次はミルディン様の台詞で攻めてくるとは……。


「お前は、我々が世間から忌避されはしないかと、ひどく気にしているようだが……」


 もちろんだ。そのために屋敷を出たのだ。

 宰相様はそんな私の考えを見透かすように、ゆっくりとかぶりを振った。

 

「それならば心配無用だ」


 どういう意味だろう。私は意図が分からず、小首を傾げる。


「私はこの国での闇属性への偏見は、改めるべきだと思っている」


 偏見を改める……。

 国の意識を変えるってこと?

 話の規模がデカくない?

 

 私が目を丸くして黙り込んでいると、宰相様は淡々とした口調で続けた。


「闇の魔女を先王陛下が光の力で打倒したということが広まり、光神信仰の影響力が増した。そのため闇に対する扱いが、この国では酷くなったのだ……」


 なるほど。教会は変に権力を持っちゃったせいで、欲を出して腐敗していったってわけね。

 

 私はフムフムと頷く。


「孤児売買のことが公になれば、教会の力は一気に落ちる。偏見を払拭する絶好の機会だ。だからこそ、私が闇属性のお前を養女に迎えるのは、古き悪習を打ち壊す良いきっかけになる。お前が私を救ってくれたという事実も広めれば、闇属性だからと不当に虐げられることも減るだろう」


 そこまで言い切ると、宰相様はやや声の調子を落とした。

 

「それでも、苦労はかけるかもしれん……私としてはやはり魔塔のほうが……」


「ヤダ!」


 宰相様が言い終えぬうちに、私は遮るように声を張り上げた。

 国民の意識を変えちゃう気だよ! すごいよ宰相様!

 

 何が「閣下に迷惑をかけると思わないか」だよ、シドニーさん。ガチギレだよ!

 宰相様のレベルが違いすぎて、そんな心配する必要なかったんだよ!

 宰相様のそばから離れるのほんとは嫌だったんだから!

 森の中、すごい彷徨ったじゃん。怖かったよ!

 

 頭の中がぐちゃぐちゃになって、私は大泣きした。


「私は宰相様のそばにいるのぉおおお」


 困らせたくはなかったが、涙が止まらない。

 

 宰相様は赤ん坊をあやすように、背中をさすってくれる。私が落ち着くまで、宰相様は辛抱強く待っていてくれた。


「すいましぇん」


 ひとしきり泣きじゃくってようやく落ち着きを取り戻すと、私はひどい鼻声で情けなく謝った。


「私のそばにいるといい」


「うん」


 宰相様、最高に頼もしすぎる。

 もう何を言われても宰相様のそばから離れない。


「しかし……夜の森は恐ろしかっただろう。よくここまでたどり着いたものだ。ミルディンから居場所を聞いたときは驚いた」


 ミルディン様から居場所を聞いただって?

 

 花畑で蝶々と戯れているノスにジト目を向ける。私の視線に気づいたノスは、首を激しく横に振った。


「ノスは何も言ってないヨ! 告げ口なんてしてないヨ!」


 ちょっと疑わしいが、おかげで念願の養女になることができたのだ。たとえ告げ口していたとしても、許してやろう。


 ふと視線を戻すと、宰相様はいつの間にか霊廟のほうを見つめている。


「歴代の王たちが導いてくれたのかもしれんな」


 呟くように言った。

 

 たぶん、先王様のことを考えてるんだろう。


 どこか物悲しげな表情をしていた。

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