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BLゲームの悪役令嬢に転生した枯れ専腐女子は、推しオジの幸せのために奮闘す。  作者: エナ子


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第18話 ゴロツキは苦い

(――っ苦しい!)

 

 こういうときに限って体調が悪いなんて最悪だ。でも、病気の気持ち悪さじゃない気がする。

 

 心臓のあたりが何かグルグルしている。

 

 だが、『何か』が何なのか分からない。


「ぐっ!」


 急に体の奥底から燃えるように熱くなった。


「おい、こいつ様子が変だぞ」


 男の声に反応したのか、私の中のグルグルしたものが、獲物を見つけたかのように弾け飛ぶ。


 その瞬間、私を抱えた大柄な男が呻き声を上げた。


「なんだ! この黒いの!」


 私の体から黒い影みたいなのが出てきて、大柄な男の腕に絡みついている。


(――!?)


 その黒いのが男の『何か』を吸い取ってるようだ。それが私の中に入り込んでくる。いらないのに勝手に入り込んできて、気持ち悪くて仕方がない。


「嫌っ!」

 

 そう声を上げて泣いて抵抗するが、それでも強引に『何か』が入り込んできて、私はパニックになった。

 

「取れないぞ、これ!」


 パニックに陥ったのは男たちも同じだった。

 大柄な男の腕にへばりつく黒い影を、もう1人の男が剝がそうと必死になっている。


「うわ! こっちにも来やがった!」

 

 その黒い影は生き物のように、助けに入った男のほうにも絡みついていく。恐怖に駆られた男は、仲間を助けるのをあっさりと諦め、一目散に逃げ出した。


 男が走り出したところで――。


「ぶへっ!」


 その男が突然吹き飛ぶ。


「へ?」

 

 私を抱えている大柄な男は、ひどく間の抜けた声で驚く。いったい何が起こったのか分からず硬直していた。


 ――男が呆けている、その刹那。


 スカートがフワリと翻るのが見えた。しなやかな脚に顎を強烈に蹴り上げられ、大柄な男はそのまま地面へと倒れ込む。


「きゃあ!」

 

 私は思わず叫び声を上げた。

 

 倒れ込んだ衝撃で、私も地面に叩きつけられる――と、ギュッと目を瞑った瞬間。

 

 ザザッ! と激しく土を擦る音が聞こえた。

 

 覚悟していた痛みはない。私は誰かの柔らかい体に、しっかりと受け止められていた。


「ごめんね! モルちゃん」


 声がして、恐る恐る目を開けると涙目のポピーがいた。どうやら間一髪のところで、ポピーが受け止めてくれたようだ。せっかくのお出かけ用の服が砂だらけになっている。


「逃がさないわよ」


 先ほど吹き飛んだ男が、再び逃げようとしていたらしい。

 ポピーママがどこからか取り出したナイフを、男に向かって投げつけた。


 「ひぃっ!」という情けない悲鳴と共に、男の足元の地面にナイフが突き刺さり、男は腰を抜かしたようにその場にへたり込む。


 ホッと息をついた途端、私の中のグルグルが獲物を探しているように暴れ出す。


 ふいに、どこかからノスの声が聞こえた。


「ブレスレット! 早くつけテ!」


 ノスの言うとおりだ。早くつけなきゃ、ポピーも黒い影に襲われちゃう。


「ブレスレット!? あった!」

 

 地面に転がったブレスレットをポピーが見つけてくれたようだ。


 腕にはめられたところで、私は気を失った。


 * * *

 

 目を覚ますと、いつもの天井だった。

 いつにも増して気持ちが悪い。


(えっと……何がどうなったんだっけ?)


 ポピーたちと街に出かけて……ポピーとはぐれちゃって、それから……。

 

 そうだった。


(――闇の力!)


 感じたことのないグルグルや、ゴロツキたちに巻き付いてた黒い影。あれは闇の力に違いない。


(ってことは、バレた!?)


 ポピーは「ごめんね」と私を抱きとめてくれたけれど、あの気味の悪い黒い影は確実に目に入ったはずだ。

 

 私が気を失ったあと、あれが何だったのか気づいてしまったら……。


 はぐれて迷惑をかけたうえに、あんな化け物みたいな力を見せられたら、普通はドン引きする。もう二度と口を利いてもらえないかもしれない。


 謝って済むだろうか。いや、それでも今すぐ謝らなきゃ。


 2人に謝りに行こうと慌てて体を起こすが、全然力が入らなかった。

 

 それでも起き上がろうとした私に「無理に起きなくてもよいぞ」と、ふいに声が降ってくる。


 声のしたほうを振り向くと、ミルディン様だった。


「顔色がまだ悪いのう」


 ミルディン様の穏やかな微笑みで、私は泣きそうになる。


「私……ポピーたちに……」


「案ずるな。あの母娘なら問題ない。それよりも、お主の魔力の安定が先じゃ」


 『問題ない』って、ただ怪我がなく無事だという意味なのか、それとも、闇の力を見ても恐れていないという意味なのか……。

 もちろん無事なだけでも嬉しいのだけれど、もし後者ならどんなに救われるか。


 不安と希望で悶々としてる私の頭を、ミルディン様がぽんぽんと優しく叩く。


「どうやら発現したようじゃのう」


 やっぱりあれは闇の力だったようだ。


 魔力封じのブレスレットをつけていたのは、体が弱っている状態だったからだ。そんな状態で発現して、力が暴走してしまったら命の危険があるのだ。

 

 だから、体調が完全に回復したうえでブレスレットを外して、発現の様子を見守る予定だと聞いていた。それなのに、外された途端に発現してしまうだなんて……タイミングが悪すぎる。


「思ったより、体に影響がなくてよかったわい」


 どうやら、寝ている間に料理長が診察をしてくれていたらしい。ふと見ると、サイドテーブルには薬の瓶がいくつか置かれていた。


「闇属性のなかでもお主は特に吸収能力に長けているようじゃな。魔力量の多い者は己に特化した能力が暴走しがちじゃ。しかし、発現の間が悪かったのう。辛かったじゃろう?」


「吸収能力?」


 相手のHPやMPを奪い取るってやつだよね。


「それじゃ、先王様の魂を呼び出すとかできなくないですか?」


 問うと、ミルディン様は呆れたように目を見開く。


「今はそこを気にしている場合じゃないじゃろ」


 いや、一番気にしないといけないでしょう。推しの幸せのために必要なことなのだ。

 

 ミルディン様は困ったように眉をひそめて、私の頭を優しく撫でた。


「書物を送りつけたせいで、急き立ててしまったかもしれぬの。いや、急き立てたのじゃが……安心せい、吸収に長けておるだけで、他の能力が使えぬわけではない」

 

 『吸収能力』がずば抜けて強力なだけで、闇属性の他の能力も練習次第で問題なく使えるようになるということみたいだ。とりあえず、吸収能力だけじゃないことに安堵する。


 「さて」と、ミルディン様は袖から手のひらサイズの水晶のようなものを取り出した。


「これに要らぬ魔力を注げば、だいぶ気分がよくなるじゃろう。恐らくお主は捕らわれたときに、ならず者の魔力を吸い取ってしまったんじゃ。今は魔力過多の状態になっておる」


 げぇ……。


 ゴロツキの魔力を吸ったんだ。魔力過多以前にゴロツキの魔力が体内に入っていると思うと気持ち悪い。


「早く吐き出したいです! どうしたら魔力を注げますか?」


「ブレスレットを外す必要がある」


 それを聞いて、私は身震いした。今外したら、また暴走してしまうのではないか。あのよく分からない感覚はもう二度と味わいたくない。


 そんな私の手をギュッと力強く握りしめ、ミルディン様は安心させるように微笑んだ。


「本来なら体調が戻ってからじゃが、魔力過多のままでは逆に危ういからの。心配無用じゃ。わしがそばについておるからな、暴走することはないぞ」


「絶対に?」


「当然じゃ」


 ミルディン様の飄々とした言い方に安心感を覚えたのか、震えが少しだけおさまった。


「お主は魔力をどう感じたかのう?」


「え? グルグル?」


 私が胸のあたりを指で、グルグルと円を描いてみせると、ミルディン様は「うむ」と頷いた。


「では、そのグルグルの中にある不必要なものを、外へ追い出すように水晶へ注ぐのじゃ。さぁ」


 体を起こしてもらい、水晶に手を当てる。


「ブレスレットを外すぞ?」


 私は大きく深呼吸すると、どうにでもなれ! と目をギュッとつぶり、覚悟を決めてゆっくりと頷いた。

 

 外された次の瞬間、胸のあたりにグルグルしたものを感じた。


 ミルディン様の言ったとおり、暴れ出したりしなかったのでホッとする。私は追い出すことに集中した。


 集中すると、グルグルしたものの中に明らかに異物があるのを感じた。


 飴玉のような塊だ。


(こいつがゴロツキの魔力……)

 

 飴玉みたいとはいえ、美味しそうじゃない。いかにも不味そうな、濁った焦げ茶色をしている。そう思うと、なんだか口の中まで苦くなってきそうな気がした。


 ――いや、苦い。


 急に口いっぱいに強烈な苦味を感じた。


(不味すぎるでしょ!)

 

 口からペッと吐き出すように、水晶に向かってその塊を全力で追い出す。


「上出来じゃ、気分はどうじゃ?」


 それと同時に、ミルディン様の手によって再びカチャリとブレスレットがはめられた。ひんやりとしたいつもの重みが腕に戻り、心からホッと息をついた。

 

「体はすごく楽になったんですけど……苦かったです」


「苦かったじゃと?」

 

 私の返答に、ミルディン様は素っ頓狂な声を上げた。


 ゴロツキの魔力が飴玉みたいに見えた途端、苦さを感じたことを伝えると「ふーむ」と唸って、研究者の表情になる。


「飴玉だと思い描いたからかのう。別の魔力だと味が変化するのか試したいところじゃが、お主の体が安定してからじゃな。しかし、これは貴重じゃぞ。闇属性が吸収した魔力。ならず者の魔力というのが残念じゃがのう」

 

 水晶を手に取ると、ミルディン様は目を輝かせて眺めた。透明だった水晶は黒色に染まっていた。


 その時。


 ――コンコン。


 扉がノックされて、おずおずと顔を覗かせたのはポピーママだった。

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