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BLゲームの悪役令嬢に転生した枯れ専腐女子は、推しオジの幸せのために奮闘す。  作者: エナ子


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第17話 テンプレ展開

「サンタさんか」


 翌朝目を覚ますと、枕元に書物が山積みになっていた。いくつか闇属性に関する本もある。いち早く習得せよ、という執念のようなものが感じられた。最終手段と言ってた割には、随分と実行を急いでいるように思える。

 

 もちろん私としても、早く闇の力を極めたいのだけれど……。


(これをすべて読めと……)


 山積みの書物に少したじろいでしまう。

 

 ミルディン様の子供に対する感覚がちょっとおかしい。8歳の子供がこんな大量の専門書を読めるわけないよね。『魔法の基礎本』もまだ読み終わっていないのに、これでは『赤き騎士と蒼き勇者』はしばらくお預けだ。


「ミルディン様、いつの間に持ってきたの?」


 寝ている間に、こんな量をどうやって運んできたのだろう。疑問に思い、ノスに問う。


「転移魔法だゾ。見えない場所に的確に物を転送するのって相当難しいからナ。ミルディンじゃなかったら、お前の上に本が積み上がってたカモ」


 そうなって欲しかったかのように、ノスは笑いながら答えた。こんなに大量の本が私の上に積み上がったら圧死する。

 

(ていうか、闇に関する本があるとバレるでしょ!)


 『低位闇魔力保持者の統計と分析』『闇属性研究報告第1巻』など、本のタイトルを見ながら不安になる。

 

 ラルフさんなら本の小難しいタイトルさえ読むのを拒否してくれそうだが、ウィンストンさんには怪しまれてしまいそうだ。

 

 念のためタイトルに『闇』がつく本を、他の本の下に隠しておく。


 そのタイミングでノックする音が聞こえ、扉が開くとポピーママが入ってきた。


「本がいっぱいね! どうしたの?」

 

 積み上がった本を見て驚いている。

 私は隠したばかりの『闇属性』の本が見えていないか視線を泳がせた。


「ミ、ミルディン様が勉強しなさいって」


 本が見えないように体で隠そうと試みるが、私の体は小さいのであまり意味がなかった。


「あらあら、大変ねぇ」


 ポピーママはこちらに歩み寄ると、積み重なっている1冊の本を手に取る。


「……まあ」


 驚いたように声を上げて、ポピーママは首を傾げた。

 ドキリと心臓が跳ねる。


「『四属性における術式展開と多重構成』…… 難しい本を読むのねぇ」


「はははっ」

 

 妙な冷や汗が背中を伝う。

 

 とりあえず闇属性の本でなくて安堵する。それにしても『四属性における術式展開と多重構成』って……タイトルからして難しそうだ。


「でも、今日はお勉強をお休みにしたらどうかしら? 体の調子はどう?」


 私が首を傾げると、ポピーママは可愛らしくウィンクを投げて言った。


「調子が良いなら街にお買い物へ行きましょう。ポピーのお古じゃ、あなたに合わないのも多かったし。旦那様からも、ちゃんとした服を新調していいと、お許しが出ているのよ」


 許可してくれた宰相様、お優しすぎる! 倹約家だっていうから、そういった出費には厳しそうなのに!


「体の調子すごく良いです! 行きます! 行きたいです!」


 調子の良さをアピールするため、腕を上げ下げして見せる。宰相様のお気遣いを無駄にするわけにはいかない。


 それに、私にはゲームの知識がある。実際の街並みが私の知っているマップと同じ構造なのか、どうしても答え合わせがしてみたかったのだ。


 私の元気いっぱいの返事に、ポピーママは安心したように微笑んで頷き、準備をしに先に部屋を出ていった。


 * * *


 私も急いで身支度を済ませ、ノスを抱えて表玄関に向かう。


 表玄関から出るのは初めてだ。

 

 扉を開けて外に出ると、玄関前に続く砂利道はロータリーのようになっていて、横には馬車小屋と厩舎が併設されているのが見えた。

 

 玄関の真ん前には1台の地味な幌馬車が停められていて、御者台ではポピーママが手綱を握っていた。


「こっち、こっち!」


 後ろの荷台から顔を出したポピーが手招きをする。引き上げてもらわなければ、乗れそうもない。私はまず、抱えていたノスをポピーに手渡すと、手を伸ばして引っ張り上げてもらう。


「よいしょっ!」


 荷台に上がると、そこには屋敷の買い出しに使うらしい空の樽や木箱が積まれていて、私たちが座れるスペースは思いのほか狭かった。ただでさえ窮屈なのに、ポピーが嬉しそうにひっついてくるものだから、なおさらだ。

 

「素敵なお洋服見つけようねー」


 よく見れば、2人ともお出かけ用の装いだ。かくいう私は、宰相様との夕食に着たものと同じ服である。ポピーのお下がりのままでも十分だったのに、わざわざ新しい服を新調してくれるなんて……ポピーママもポピーも宰相様もみんな優しくて涙が出そうだ。

 

 ポピーママが軽く手綱を振って「はっ」と声を上げると、馬車がゆっくりと動き出した。


 * * *


 屋敷から15分くらいだろうか。

 

 王族の森を抜けるなだらかな坂道を下っていくと、森と街の境界には警備のための関所があった。ポピーママが慣れた手つきで、門番に通行証のようなものを提示する。門番が確認すると「よし」と言って、ゆっくりと門が開かれた。


 すると街並みと大きな川が眼下に広がる。


「わあ、大きい!」


 私は荷台から顔を出し、感嘆の声を上げた。

 

「王都だよ。城の近くの高台になってるところは貴族街。街の中央が商業街になっていて、川の近くが職人街になってるの」


 街を指さしながら、ポピーが教えてくれる。

 ゲームでも貴族街、商業街、職人街と分かれていたのを思い出し興奮する。

 

 馬車はさらに進み、地面が石畳に変わって、街が近づいてくる。貴族街に入る門が見えたが、馬車はそちらのほうには入らず、裏道を通って活気あふれる商業街の道に入っていった。宰相様の使用人といえども、一般人は貴族街を通れないらしい。


 商業街に着くと、人の多さに驚いた。

 

 行き交う人々と馬車の音、客引きの威勢のいい声。


 屋敷にずっと引きこもっていた私は、雰囲気の違いに圧倒される。

 

 あたりを見渡せば3、4階ほどの建物が、両脇にズラリと並んでいた。石造りのヨーロッパのような美しい街並みは見ていて飽きないが、似たような建物ばかりで迷子になりそうだ。

 

 まさにゲーム画面で見た街並み。けれど、ゲームでは俯瞰マップだから分かりやすかったわけで、地上から見ると、どこに何があるか全く分からない。

 

 ポピーママは馬車を置きに行かねばならず、私たちは途中の道で降ろされた。人が多いので、ノスは私の頭の上に避難する。


 馬車から降りたポピーが私の手をギュッと握った。


「私から離れちゃダメだからね」


 何だかフラグのような気がして、私もポピーの手を握り返す。


 ポピーママには、先に店へ入っておくように言われていた。「ほら、あそこ」とポピーが指さすところを見ると、洋服の絵が描かれた木彫りの看板が揺れていた。


 目と鼻の先だ。すぐそこなので、はぐれることはないだろう。


 ないだろう。


 ……。

 

「だよね」


 私は独り言ちる。

 

 今の私には人波に抗えるほどの体力も握力もないのだ。ポピーの手をギュッと握っていたつもりだったのに、行き交う大人たちにぶつかられるたびに少しずつ指が引き剥がされていった。そして、そのまま人の波に流されて、見事にはぐれてしまったのだ。


「ポピーどこいっちゃったんだろう? ノスそこから見える? あれ? ノス?」


 頭の上を触って確かめるが、いつの間にかノスもいなくなっていた。人波に揉まれた拍子に落ちてしまったのかもしれない。


 久しぶりに本当の1人である。

 

 人通りがあまりにも多いので、とりあえず近くの路地裏に避難し、そこから通りを覗き込んでポピーとノスを探す。

 

 当然のように見つからない。看板も見当たらない。いったいどこをどうやって流されてきたのか……。

 

「……」

 

 ふと、後ろが気になった。

 こういう路地裏にいると、定番の展開が起こるのではないかと心配してしまう。

 

 いやいや、まさかね。

 そう自分に言い聞かせながら、恐る恐る振り返る。

 

 そうそう、いかにもゴロツキな顔のお兄さんがさ……。

 

 目の前に2人立っていた。


「――!」

 

 ヤバいと思い、表通りのほうに出ようとするが男に手を掴まれる。


「いいブレスレット着けてるじゃないの、お嬢ちゃん」


 そう言って男が強引にブレスレットを外した。

 恐怖で声が出ない。

 

「高く売れそうだな」


「こいつどうするよ。ガキを買ってくれるとこあるって聞いたけど」


 私は逃げ出そうともがくが、抵抗虚しく男に抱えられる。


 まさか教会に逆戻り? また牢屋に閉じ込められるのだろうか。

 

 宰相様に二度と会えなくなるかも、そう思った瞬間――。

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