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BLゲームの悪役令嬢に転生した枯れ専腐女子は、推しオジの幸せのために奮闘す。  作者: エナ子


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第13話 マッチョ

 情けないことに推しカプの供給過多で、翌日は熱を出した。


 料理長の診断で判明したのだが、もともと私は体が弱いらしい。これまでも熱が上がったり下がったりを繰り返してきたけど、体質だったようだ。どうりで、8歳にしては5歳くらいの見た目なわけだ。


 それにしても、供給過多のあとは数日宰相様に会えないっていう仕組みでもあるのだろうか。宰相様は本来の激務に戻られたようで、ここ数日まったくお会いできていない。

 

 プリンをあれだけ気に入ってもらえたのだから、胃袋を掴むことには成功したはずだ。けれど、それが『養女への道』に繋がったかというと、正直よく分からない。


 ミルディン様の『恋の道のり』も遠いだろうが、私の『養女への道』も遠そうだ。


 ミルディン様のほうも仕事が忙しいのか、さすがに毎日は来られなくなってしまった。

 

 けれど、たまに顔を出してくれたときには、基礎的な魔法から魔法陣の理屈まで教えてくれる。おかげで知識はある程度ついたが、魔力封じのブレスレットをしているので、結局どちらも使うことはできない。


 魔法陣を使えば、闇属性の私でも他の属性の魔法を使えるらしい。ただし、「火」「水」「風」「土」だけだ。魔法陣はあくまで物理現象を変換するシステムなので、神の領域である「光」と「闇」を魔法陣で組むことができないとのことだった。


 とはいえ、魔法陣を描くのはめちゃくちゃ難しく、魔塔や宮廷魔術師のような人たちしか扱えないようだ。


 もし魔法を使えるようになっても、嫌われている闇属性の魔法はあまり使いたくはない。魔法陣を使って他の属性の魔法を使えば、闇属性だとバレないだろうし、何より難しい魔法陣を描けるようになれば、それこそ養女にしてくれるんじゃないだろうか。


『高度な魔法陣を展開できるとは、ぜひ私の娘になってくれ』

「宰相様!」

『お父様と呼んでくれ』

「お父様!」


 ギュッ!


 ノスを抱きしめる。


「……」


 ノスを巻き込んで一人芝居してしまったものの、ツッコミも何もないので急に恥ずかしい。


「ごめん」


 とりあえず、ノスを解放してから謝っておく。ノスは呆れたような瞳で、私を見上げていた。


「高度な魔法陣って……お前の年(とし)で上級魔法陣を使えるようになるわけないダロ。ミルディンくらい研究バカじゃないトナ」


「たとえだよ。たとえ。夢くらい持ってもいいでしょ?」


 でも、ただの夢でもないかもしれない。

 

 子供の若い脳だからか、それとも本来のモルガナの頭が良いのか。

 

 『子供の脳はスポンジのように知識を吸収する』とはよく言ったものである。分からなかった文字も、ミルディン様が貸してくれた本の内容も、ここ数日であっという間に頭に入れることができた。


 自分、天才じゃない? と勘違いしそうになるくらいだ。前世の私はそんなに勉強できる子ではなかった気がするので、この吸収力は病みつきになる。


 今日は天気も体調もいいので、裏庭の畑の木陰でお勉強だ。


 木の根元に座った私の横には、気持ちよさそうに寝そべる老犬のエルムがいる。そのエルムに飛び乗って、ノスはやれやれと私に呆れたような目を向けた後、丸くなって寝てしまった。


「さてと」


 ミルディン様が貸してくれた『魔法の基礎本』を開く。


 基礎本というわりには、文字が多めだ。魔塔の人が書いたせいだろうか、全然やさしくない。「火」「水」「風」「土」「光」「闇」の属性について、物理や化学のような理屈で書かれているのだ。確実に8歳の子供に渡すような本ではないのだ。

 

 私は養女への第一歩だと思いながら、『魔法の基礎本』に集中することにした。


 * * *


「ふう」


 私は基礎本を半分ほど読むと、『赤き騎士と蒼き勇者』を手に取った。気分転換用に持ってきた本である。文字が読めるようになったら絶対読もうと思っていた念願の騎士×勇者本だ。


 ぐふふっと本を開いたところで、「おう、お嬢ちゃん、勉強かい?」と頭上から不意に声が降ってきた。


 顔を上げると、料理長の旦那さんでトビーパパのラルフさんが立っていた。屋敷では雑用や力仕事、畑の管理などを担当している。


「ミルディン様から借りた魔法の基礎本を読んでたんですけど、難しいので。気分転換に違うのを読もうとしてたところです」


「へえ、魔法の基礎本ね。どれ、分からないところがあればオジさんが教えてやろう」


 ラルフさんは満面の笑みで本を手に取り、パラパラと捲る。しばらくページを目で追っていたが、次第にその笑みが固まっていく。それから何事もなかったかのように、静かに本を閉じた。


「オジさん、騎士出身だから魔法のことは詳しくないんだ。ごめんな」


 マッチョなラルフさんを見れば、脳筋かなって感じはするけど……大人でも難しいんだね、この本。


「そっちなら分かるぞ、『赤き騎士と蒼き勇者』だろ。子供の頃は赤い騎士に憧れたもんだ、赤い騎士がさ……」


 待て、待て! このままだとネタバレしそうな勢いだ。私は焦って、「ラルフさん!」と不自然なくらい大きな声を張り上げた。


「ラルフさんって、騎士だったんですね!?」


 強引に話を逸らすと、ラルフさんは目を瞬かせる。よし、回避成功だ。


「おうよ。こう見えても若い頃は、将来は副騎士団長になるのではと期待されてたほどだ。岩砕きのラルフと呼ばれて恐れられてたもんさ!」


「副騎士団長!?」


 適当に話を逸らしたつもりが、とんでもない経歴が飛び出してきてビックリする。

 

 そういえば、ゲームのメインキャラクターの1人に騎士団長の孫がいるのを思い出した。騎士見習いで、将来騎士団長を目指す赤髪のイケメンだ。


 騎士団長は孫がいるくらいだから、きっといいお年のはずなのに、ゲームでは『騎士団長』の名前しか出てこなくて、ビジュアルが用意されてなかったんだよね。お姿を拝見したいものだ。

 

 ラルフさんが副騎士団長になるほど期待されていたなら、直属の上司にあたる騎士団長のことも詳しいはずである。


「ねえねえ、ラルフさん。じゃあ、騎士団長さんってどんな方ですか?」


 気持ちよく自分の自慢話をしていたのに、急に騎士団長のことを問われ、ラルフさんはズッコケてしまった。


「ええ、騎士団長ぉオ?」


 私は目を輝かせて、頷いた。

 すでに推しも推しカプもいる充実した状態だけれども、渋オジリサーチは欠かさない。


「騎士団長のお年は? お名前は? どんな容姿ですか? 身長は?」


 矢継ぎ早に尋ねる私に、ラルフさんが「お、落ち着け」となだめた。渋オジのことになると、つい食い気味になってしまう。


「なんで騎士団長のことをそんなに知りたいんだ? 強いやつが好きなのか? 俺だって強かったんだぞ。そりゃ、騎士団長にはとても敵わないが……。騎士団長の年齢だっけ? 旦那様と同い年だったはずだ」


 宰相様と同い年!

 ドンピシャ私好みのお年で、思わず顔が緩む。


「名前はエクター・レッドブレイズ様だ。身長は俺より高いな。ガタイも良くて、立派な方だ。炎の使い手で上級魔物も1人で倒せちまう。でも、筋肉具合でいったら俺のほうがすごいかもな」


 そう言って、「フンッ!」とポーズを決めると、見事な上腕二頭筋が盛り上がった。

 

 そんなことより、エクター騎士団長様というのね。ラルフさんは宰相様とほぼ同じくらいの背丈だ。彼より背が高いとなると、騎士団長はかなりの高身長だ。騎士団長と宰相様が並んだら、さぞ迫力があるだろう。


 そんなことを考えていたので、ラルフさんのマッチョポーズをスルーしてしまった。しかし、ラルフさんも負けじと、違うポーズでアピールしてくる。反応しないとずっとマッチョポーズをしてきそうだ。


「わあ……スゴイ」


 思わず棒読み状態。

 ラルフさんは40歳くらいだから、正直、あと15年くらいは熟してもらわないと萌えないのだ。


 棒読みでもラルフさんは気にしなかったようだ。嬉しかったらしく、もうひとポーズ決めてきた。


「凄いだろ? でもな……筋肉は凄くても、こっちがな」


 そう言いながら右足を手でポンポンと叩いた。ラルフさんは右足をちょっと引きずって歩いている。足を負傷して騎士を辞めざるを得なかったのだろう。


「その怪我って……」


 ここで『闇の魔女』の名前が出たらどうしよう。もしも彼女のせいで怪我をしたのだとしたら……私が闇属性だと知られたとき、気さくなラルフさんでさえ、いい顔はしないはずだ。


「ああ、上級魔物にやられたんだ。団長みたいに1人で倒せるって、調子に乗って挑んだ結果がコレさ」


 私はホッと胸をなでおろす。

 

「まぁ、怪我がきっかけであいつと出会ったんだけどさ」


 あいつとは料理長のことだよね。

 

「あいつさ、今はあんなだけど……」


 顔を赤らめ、目をキラキラと輝かせた。これはスイッチを入れてしまったんじゃないだろうか。話が長くなりそうである。


 そのとき、屋敷のほうから料理長がラルフさんを呼ぶ声が聞こえた。


「話が途中になっちまったな。また今度な」


 ウィンクをして去っていく。

 危うく、延々と話を聞かされるところだった。私は絶妙なタイミングで助け舟を出してくれた料理長に向かって、心の中でそっと手を合わせた。

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