第九話 紫陽花童
ほのぼの日常回です。
みなさんの地方は梅雨に入りましたか?
我が家は梅雨真っ盛りですが、あまり雨は降ってません。
六月末。まだまだ梅雨真っ只中。
ザーザーと雨が地面を打つ音が部屋に響く。
荒れ果てていた庭には、いつのまにか池が姿を現していた。
雨に満たされた水面を眺めながら、俺はこの庭に池が埋もれていたことを初めて知った。
「また雨ー?」
「ぜんぜん止まないねぇ」
しばらくは雨を見つめていた双子も、さすがの長雨に飽きてしまったらしい。はぁ、とため息を吐いている。
「散歩でも行くか?」
「「いいの⁉︎」」
「んー、レインコート着るならな」
「「着るー!」」
元気よく手を挙げた双子に、テレビを見ながら寝っ転がっているミケへと視線をやる。
視線に気付き、「なんだ?」と顔を上げたミケへ「散歩行くけど」と聞くと、「身体が濡れる」という答えが返って来た。
はいはい。猫は雨が嫌いですもんね。
「じゃ、行って来るから」
「おー」
双子に赤と青のレインコートを着せ、自分の傘を手に持つ。ミケへと声をかけると、二つに分かれた尻尾を器用に振って見送ってくれた。
「おっさんぽ、おっさんぽ、楽しいなー」
「ぴっちぴっちちゃっぷちゃっぷ、らんらんらーん」
「転ぶなよー」
双子はあっちはフラフラ、こっちはフラフラ。
カタツムリを見つけてはじーっと見つめ、雨に揺れる蜘蛛の巣を見つけては「壊れちゃうー!」と大騒ぎしていた。
しばらく歩いていると、雨の音に混じり、誰かが泣いている声がした気がした。
「なぁ、誰か泣いてないか?」
「えー、ほんとー?雨だよー?」
「俺もそう思ったけどさ……」
耳をすましてみると、やはり誰かの声がする。声から言って子どもだろうか。シクシクと悲しそうな声が、雨に混じって聞こえてきた。
「ほんとだ」
「だろ?」
二人にも声が聞こえたらしい。顔を見合わせ、「うん」と頷きあった二人は、ててっと勢いよくかけだした。
「おい、走ったら転ぶぞー」
「「だいじょーぶー!」」
二人の目立つレインコートを目印に後をついて行くと、二人は無事、声の持ち主を見つけたらしい。古民家の軒先に座り、覗き込んでいた。
「見つけたか?」
声をかけながら近付くと、俺の顔を見た二人は俺からも見えるように、身体をずらしてくれる。
そこにいたのは、紫の着物を着た女の子だった。
膝に顔を埋めてシクシクと泣いている。髪の先だけが紫で、足元が草履であるのを確認した俺は、やはり。と思ってしまった。
こんな雨の中、子どもが一人で泣いていたら絶対に誰か気づくだろう。まぁ、妖だからと言って泣いていてもいいというわけではないが。
「どうした?」
できるだけ優しい声を意識してその子へと声をかけると、ピクリと肩を震わせたその子は、さらに大きな声をあげて泣き始めてしまった。
「……頼んだ」
情けないが、どうしていいか分からない。
ここは妖同士、もとい子ども同士、なんとかしていただきたい。
そんな想いを込めて双子を見ると、任された!とばかりに胸を叩いた二人は、女の子の顔を覗き込んだ。
「大丈夫ー?どうしたのー?」
「ぼくたち、座敷わらしのユウとレイ。君の名前は?」
なんだか絵本の歌みたいだな、なんて呑気に俺が思っていると、やっと女の子が顔を上げた。
おかっぱの髪がさらりと揺れ、大きな目へとかかっている。妖って目、大きいよなぁ。と、場違いな感想が頭に浮かぶ。
まじまじと格好を観察すると、紫色をベースにした紫陽花の大輪が描かれていた。これは、もしかしなくともそうだろう。
「私、紫陽花童」
ですよねー。そんな気がしました。
「あじちゃんかー。なんで泣いてるの?」
「私の紫陽花が枯れそうなの」
略し方雑じゃない?そして、紫陽花童ちゃんもそれでいいの?
思わず突っ込みかけたが、ぐっと堪えた。
「紫陽花、どこにあるの?」
「あっち」
紫陽花童こと、あじちゃんが指差した先を見ると、確かに紫色の花が咲いている紫陽花の樹があった。
その紫陽花へと近づき、根元を覗き込む。
どうやら最近の長雨で水の流れが変わってしまったらしい。上から流れ込んだ水が土をさらい、根が半ば露出していた。このままでは、いずれ倒れてしまうだろう。
「土を被せても、あっという間にまた流れちゃうの」
「そうだろうなぁ」
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、あじちゃんが紫陽花を見上げた。紫陽花へと近づき、そっと葉を撫でると、紫陽花も嬉しそうに葉を揺らす。
本当に紫陽花の妖なんているんだなぁ──と、我が家には三人も妖がいることを棚に上げて、しみじみとあじちゃんを見つめる。
それにしても、だ。
見つけたからにはほっとけない。
この紫陽花をなんとかしてあげなければ。
一番早いのは、紫陽花を植え替えることなんだろうけど……。
「紫陽花って植え替えていいんだっけ?」
「根が他の樹と絡んでるから無理……」
「そっかぁ」
そもそも、この大きな紫陽花を雨の中掘り出すのは至難の業だろう。となると……
「水の方をなんとかするしかないかなぁ」
幸い、水の勢いはそんなに強くない。上の方から迂回するように水の流れを調整してやれば、なんとかなるだろう。
「ちょっと家からスコップ取って来るわ。二人はどうする?」
「「ここで待ってるー!」」
「ん、じゃ、待っててな」
頭を撫でると、二人は「わかった!」と元気よく返事をした。俯いたままのあじちゃんの顔を覗き込むと、その瞳は不安げに揺らめいている。
「大丈夫だよ、待っててな」
双子があじちゃんの手をぎゅっと握って、「はるとにまかせれば大丈夫!」「安心して!」と元気づけた。
それもそれでプレッシャーなんだけど……。
あじちゃんが微笑んだのを見て、三人に背を向け、家へ向けて足を早めた。
第十話は20時投稿です。本日はあと二話投稿!
よろしくお願いします。




