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第八話 舞い込んだ幸せを


 次の日の朝。

 タブレットを使おうとすると、なぜか画面がつかなかった。


「……悪戯か?」


 一瞬双子たちの仕業かと思ったけど、二人には俺が見ているときしか使わない約束をしているし、それを二人が破ったことはない。


 電源を入れようとすると、空になった電池マークが画面で点滅した。


「昨日、充電あったよなぁ」


 ぼやきながら充電コードに繋ぎ、コーヒーを淹れに行く。

 コーヒーを片手に戻って来ると、ちょうどタブレットが再起動するところだった。


「な、なんだこれ」


 画面に表示されたのは画面に収まりきらないほどの通知。


 全てアトリエ妖のアカウントの通知だった。


「ど、どした!?」


 慌ててアプリを立ち上げ、昨日の投稿を確認した。こんなに通知が来る時はバズったときか、やらかした時。だけど、どちらも心当たりがない。


(しゅん)くんが紹介してた!めっちゃかわいい!』

『癒される〜私も待ち受けにしよ!』

『幸運が舞い込むというアカウントはこちらですか』


 そんなコメントや引用リプがずらずらと並ぶ。

 隼って誰だ?と思い検索すると、どうやら俳優さんらしい。

 

 俺の妖のイラストを知って、画像を待ち受けにしていたらそれから小さな幸運が止まらない、という内容を投稿してくれている。


「芸能人、すげー」


 多くても10件程度だった反応が、すでに10万いいねを獲得していて、昨日の投稿以外もぐんぐん伸びていた。


 特に人気だったのが、隼さんが待ち受けにしているという双子のイラスト。


「幸運が舞い込むねぇ……」


 確かに、ここに住むようになってから地味にラッキーなことが増えている気がする。絵の調子もいいし、また契約してくれると言ってくれた会社も出てきている。

 

 気のせいか?と思ったが、知らず知らずのうちに俺も双子の幸運にあずかっていたのかもしれない。


「好きなだけ菓子、買ってやるか」


 とりあえず双子を抱きしめて、目一杯撫でてやろう。そう思いながら、まだお腹を出して寝ているだろう双子を起こしに、和室へと向かった。


 ⸻⸻⸻⸻


 六月。水無月。梅雨真っ只中。

 

「雨だねぇ」

「雨、やだねぇ」

「「お外行けないねぇ」」


 縁側で寝転び、手足をジタバタと動かしている双子を横目に、ペンを進める。


「はるはいいねぇ」

「いいねぇ」

「なにが?」


 じとっとした目を向けられ、なんのことだ?と首を傾げると、俺はいつでもやることがあって羨ましいらしい。俺はお前らが羨ましいよ。


 ふと、双子の着物が目に入った。ボロボロの擦り切れたような着物。二人は、新しいものを買ってやると言っても、頑なに頷かなかった。


 素材がいいのに勿体無い、そう思いながら着物を見ると、なんとなく違和感を感じた。


「どうしたの?」


 突然立ち上がり、二人の方へ寄って行った俺を不審に思ったらしい。二人がぺたんと座り直して見上げてくる。


 近くで見て、気のせいではないことを確信した。そして、カサカサだった頬もツヤツヤしている。頰は俺が保湿剤を塗りたくっているからかと思ったが、この様子ではどうやら違うようだ。


「なんか着物、綺麗になってないか?」

「着物?あ、これ?そりゃそうだよー。お家が綺麗になったからね」

「座敷わらしだからねー」

「「ねー?」」

「……そうなの?」


 こういう時に限って、頼りになるミケは留守だ。


「ちなみに、もっと綺麗になったらどうなる?」

「んー?お家直すってこと?」

「そう」


 俺の質問はどうやら難しいものだったらしい。「どうだったっけー?」と二人でうんうんと唸り始めた。その様子に、俺も一緒になって考える。

 

 着物が綺麗になったらなんだ?この二人に足りないもの……座敷わらしの絵によくあるもの?


「……鞠?」

「そう!鞠だ!」

「僕は刀だった気がする!」


「思い出したね、よかったよかった」と手を合わせて喜んでいる双子に、「そっか……」と俺も悩む。


 実際、直そうと思えば直せる。だけど、このボロボロの外観にも結構最近では愛着が湧いて来てしまっていた。妖が集まって来そうな感じで、趣があるように見える。


「直そうか?」


 二人がそっちがいいなら、直す。これはがちで。


「んーん、いいよ。というより、お家ではこれ以上たぶん変わらないよ」

「はるとが幸せにならなきゃ!」


 どうやら、俺の幸せに双子の装飾具(おもちゃ)はかかっているらしい。なんか、幸せが視覚化されるのって凄いけど、プレッシャーだな。


「じゃ、幸せにならなきゃな」

「頼んだー!」

「レイが幸せにしてあげるー!」

「おう、よろしくな」


 しゃがみ込んで頭を撫でると、嬉しそうに二人が飛びついて来る。ぎゅーっと抱きしめると、子ども特有の甘い匂いがした。

 

 こんなに人みたいなのに、妖なんだもんなぁ。


 なんだか複雑な気分になってしまう。

 俺が年老いても、きっとこいつらは変わらないんだろう。

 

 そうやって何人の家主を見送って来たんだろうか。


 じわりと熱くなってしまった目の奥をごまかすように、「おりゃー」と双子をくすぐると、「きゃははは」と双子が転がり、きゃーきゃーいいながら逃げ始めた。


「なんだ、賑やかだな」


 ガラガラ、と音を立てて玄関の戸が開く。口酸っぱく俺が言い聞かせたことで、やっとミケも玄関から出入りをするようになってくれた。


「双子が元気だって話」

「はるとの幸せに、ユウとレイのおもちゃがかかってるのー」


 ぼんやりと誤魔化した俺の言葉を、見事に無駄にしてくれながら双子がミケへと報告に行く。

 ほら、そんなこと言ったらまたミケは馬鹿にしたように鼻を鳴らすぞ、と思ったが意外な反応が返って来た。


「それじゃ、お主には幸せになって貰わなければな」


 黄色い目をすっと細め、少しだけ寂しそうな顔をしたミケは、双子の頭をぽんぽんと優しく叩いて、キッチンへと消えて行った。


 ……なんか、調子狂うじゃん。


 ミケの様子など全く気にせず、珠も交えて再び遊び始めた双子を横目に、俺は小さく息を吐いた。


 

たくさんの応援ありがとうございます!

とても元気になりました。


引き続き楽しんで頂けたら嬉しいです。

第九話は本日20時投稿です。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
ミケは、幸せになったら態度を変えてしまうとか、この家から引っ越してしまうとか、自分たち妖怪が見えなくなってしまうとかを心配・懸念して寂しそうな顔をしたのかな。
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