表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/49

第十話 救え、紫陽花童

あなたの近くの紫陽花にも、紫陽花童がきっと居ます


 一度家に戻った俺は、自分用のレインコートを戸棚から引っ張り出す。

 

「よし、と」

「なにしとるんだ?」

「あ、ミケ。それがさー」


 紫陽花童の話をすると、ミケが呆れたような顔をして、「お主はよく妖に会うのぉ」と言われた。

 「俺じゃなくて、双子のせいじゃない?」と言い返すと、「どっちもどっちじゃ」という答えが返ってきた。解せない。


「じゃ、行ってくるわ」


 家の壁に立てかけてあった大きめのスコップを手に持ち、飲み物などを入れたリュックを背負った。


「気をつけてのー」


 ヒラヒラと尻尾を振ったミケに見送られ、俺は再び雨の中へと足を踏み出した。


 ⸻⸻⸻⸻


「お待たせ、いい子にしてたか?」

「おかえりー」

「おかえり、はると」


 双子はすっかりあじちゃんと仲良くなったらしい。紫陽花の場所へと戻ると、三人でカタツムリを囲んで遊んでいた。


「よし。じゃ、やってくるかな」

「なんかする?」

「お手伝いある?」


 見上げて来た双子に、「あじちゃんに温かいもの飲ませてやって」と伝えて、カバンに入れて来た水筒を手渡す。中には、さっき家で淹れてきた少し熱めのほうじ茶が入っている。


「ありがとうー、はると」

「はると、さすが!」


 手放しで双子が褒めてくれて、口が緩む。あじちゃんを見ると、「ありがとうございます」と小さく頭を下げられた。


「気にしないで。んじゃ、待っててな」


 紫陽花よりも少し上の斜面を登り、流れを変えられそうな地点を探す。すると、少し掘って整えれば、丁度いい窪みがある地点を見つけた。


 ここで水の流れを削ぐことができれば、水量が増えてもそう簡単に紫陽花の方に行くことはないだろう。


 せっせとスコップを動かして、水路を整えていく。あまり急な流れにするとすぐに決壊してしまうため、加減しながら掘り進めるのはなかなか骨が折れた。


 水を含んだ土は柔らかく、スコップが入りやすかったのが救いだ。だが、その分腐葉土はずっしりと重い。普段ろくに身体を動かしていない俺には、それだけで十分な重労働だった。


 明日は絶対に筋肉痛だ。


「はるとー、水ひいた!」

「大丈夫そう!」


 腰に手をやり、身体を伸ばしていると、双子が下から叫んで水の流れが変わったことを教えてくれた。

 雨の音にかきけされないよう、大声で叫び、下で大きく手を振っている。


「おー。ありがとう!」


 俺も叫びながら手を振り返し、作った水路が壊れないよう、周りを石などで固めていった。


「よし、大丈夫そうだな」


 滑るように斜面を下って三人の元へ戻ると、きらきらと目を輝かせたあじちゃんがこちらを見上げている。


「ありがとうございます!」

「どういたしまして。仕上げは紫陽花の根元だな」


 流れて行ってしまった土を周りから補完し、根全体を覆うように土をかぶせる。ついでに傾きかけていた樹全体も戻しておいた。


「これで大丈夫かな」

「完璧です! ありがとうございます!」

「さすがはると!」

「ありがとう、はると!」


 幼子三人から絶賛されて、少しだけこそばゆい気持ちになる。それにしても、そろそろ家に帰らなければ、双子も風邪をひいてしまうだろう。

 

 仲良く話している3人を横目に、心なしか元気になったように見える紫陽花を横目に見る。


「あじちゃんは雨。大丈夫?」

「私は雨が降ったほうが元気なくらいなので!」


 そう笑ったあじちゃんは、紫陽花の花に優しく触れてふんわりと笑った。


「あ、そうだ。これ、お礼に」


 そう言ったあじちゃんは、どこから取り出したのか、数本の紫陽花の花を差し出してくる。


「え、いいの?」

「はい、本当にありがとうございました」


 丁寧にお辞儀をしたあじちゃんから、紫陽花の花を受け取った。

 雨に濡れた紫陽花は、まるで小さな花を寄せ集めた宝石のようだった。数本だけのはずなのに、たくさんの花が咲き誇っている花束のように見えた。


「こちらことありがとう。今度うちにも遊びに来てな」

「私はここから離れられないので……」

「そっか。じゃ、また遊びに来るわ。双子も連れて」

「また来るね、あじちゃん!」

「ばいばーい! またねー!」


 ぶんぶんと大きく手を振った双子の手を引き、雨の街を歩く。

 ザーザーと降る雨は同じはずなのに、抱えた紫陽花のおかげかなんだか景色が明るく見える。

 

 ころんと丸い花は雨粒を弾いてきらめいて見え、どんよりとした曇り空の下でも不思議と足取りまで軽くなった。


 この季節も悪くないな、と思わせてくれる。


「ユウが持つ!」

「あ! ずるい! レイも持つー!」

「はいはい、半分こな。落とさないように気を付けて」


 紫陽花を受け取った双子が、落とさないようにぎゅっと胸元に抱え込んでいる。

 小さな腕で大事そうに花を抱く姿はどこか誇らしげで、宝物を手にした子どものようで。その様子がなんだか微笑ましくて、思わず笑みがこぼれた。


「ただいまー!」

「ミケ、かえったよー!」

「ただいま、二人とも、シャワーな!」


 キャーキャーと賑やかな声が家中に広がった。双子を早く風呂に入れようと格闘していると、目を細めて見ているミケと目が合った。


 「手伝えよ」と言うと、「濡れるから嫌じゃ。それにお主らの方が大きいのにどうやって手伝うんじゃ」という嫌そうな声が返ってきた。確かに。

 

 

 持って帰ってきた紫陽花は、机の上の花瓶に飾った。その隣には、双子と紫陽花童がしゃがみ込み、カタツムリをつついて遊んでいる絵を立てかける。

 

 もう少し楽しんだら、差し苗をしてみよう。うまくいけば、この寂しげな庭に彩りを加えてくれるかもしれない。


 そうしたら、来年の今頃。

 雨上がりの庭で、双子たちが嬉しそうに紫陽花を眺めているだろうか。梅雨を嫌がるのではなく、「紫陽花の季節だね」と笑ってくれるかも。


 そんな未来を思い描くだけで、胸の奥に温かなものが灯り、少しだけ心が軽くなった。

第十一話は21時投稿です。


気に入っていただけましたらブクマよろしくお願いします。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
窓の下に紫陽花があるのに紫陽花童には出会えない…TT
ここまで読ませていただきました。 作品は良い意味で軽く、ユウとレイの話し言葉のテンポと相まってサラサラと、可愛らしいなと思いながら読ませて頂きました ケサランパサランとかなんかそんなんあったなと言う…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ