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第十一話 七夕の願い事

お陰様で日間9位(連載中)に入れていただきました!

最後まで読んでいただけたら嬉しいです。

今後ともよろしくお願いします。


 七月。文月。


 やっと梅雨も明けて、空にも太陽が顔を出すことが増えてきた。じめじめとしていた空気はからりと軽くなり、空の青も春の柔らかな色から、目の覚めるような夏の青へと移り変わっていく。

 庭を渡る風には夏の匂いが混じり始め、季節がまた一歩先へ進んだのだと教えてくれた。


 そんな我が家の縁側には、笹が飾られていて、その葉が風に吹かれて涼しげに揺れている。縁側を抜ける風に合わせてさらさらと葉音を響かせる様子は、見ているだけで少し暑さを忘れさせてくれた。

 商店街へ買い物に行ったとき、【ご自由にお持ちください】と書かれていたのを見つけて、季節ものだしと持ち帰ってきたのだ。


「「さーさーのーはさーらさらー」」


 今日も元気いっぱいの二人が、七夕の歌を歌っている。

 たどたどしくも楽しげな歌声は、さらさらと揺れる笹の葉の音に溶け込み、家の中を賑やかに満たしていた。


 風に揺れる笹の葉には、皆で作った輪飾りや提灯飾り、それから願い事を書いた短冊が吊るされている。飾りつけをしすぎたのだろう。笹は少しだけ重たそうに葉を垂らしていた。


 そんな短冊に書かれた願い事を見るたびに、胸がじんわりと温かくなる。


 【はるとのえがみんなをしあわせにしますように ユウ】

 【はるとのえが、たくさんみてもらえますように レイ】


 自分のことではなく、俺の絵のことをこんなにも願ってくれる人が、今までいただろうか。

 

 親も応援はしてくれていたが、「はるとは昔から絵が大好きだもんね」と言われ続けてきたせいか、好きだから頑張れるだろうと、どこか期待に応えようとしていた気がする。

 そんな親に心配をかけたくなくて、絵が描けなくなったことは言えなかった。引っ越しをしたときも、「海が見えるアトリエに住みたかった」とだけ伝えた。


 だけど、毎日「すごい」と絵をほめてくれて、「頑張れ!」と当たり前のように応援してくれる人がすぐそばにいる。それがこんなに心強くて、胸が温かくなるものだとは知らなかった。


 風に揺れた短冊が、さらりと音を立てる。七夕の願いなんて叶うかどうかは分からない。

 それでも、この子たちが俺の絵を信じてくれているのなら、もっと頑張ってみようと思えた。


 ⸻⸻⸻⸻


 【アトリエ妖】のフォロワー数はあれからぐんぐん伸びていて、今では中堅アカウントと言っていいほどの規模になっている。


『本当にラッキーが続いた』『告白が上手くいった』『テストでいい点とれた』


 そんなリプライが届くたびに、それは自分の努力の結果では?と思うのだが、人というものはたぶんそういうものだろう、とも思っている。

 背中を押してくれる存在が大事なのだ。俺にとっての妖たちのように。


「ん? なんだこれ」


 公式認証のついているアカウントからダイレクトメッセージが届いている。

 送り主を確認すると、思わず声が漏れた。


「隼さんって……あの隼⁉︎」


 俺が知られるようになったきっかけの隼さん。あれから、『ありがとうございました』とリプライを送って、何回かやりとりをし、それっきりだった。


 メッセージの予想ができなくて、心が波打つ。気合いを入れてメッセージをクリックすると、『原画を購入させて貰えませんか』という内容だった。


「は⁉︎ 購入⁉︎ 俺の絵を⁉︎」


 隼さんのおかげで知られるようになったくらいだし、もはやタダであげてもいいくらいだ。


「メッセージありがとうございます、と。とても驚きました……購入などと言わず、差し上げます、でいいかな」


 ふぅ、と一息入れると、すぐに返信が来た。


『そんなわけにはいきません。購入させて貰えたら嬉しいです』


 嘘だろ……。おい。


「購入ったって……どうするよ……?」


 実は、どこで買えますか?どこに行ったら売って貰えますか?などというメッセージは最近結構来ているのだ。やはり、幸運を呼ぶというコメントが効いているらしい。

 

 画像で効果があるなら原画ならもっと……と思う気持ちも分からないでもない。本当にそうかは分からないけど。


 だけど、そういう話が出てるからには簡単に売ろうとも思えなかった。だけど、隼さんとなると話が変わる。


 結局、隼さんにはそちらのお好きな価格で、とメッセージを送り、事務所宛に送付した。すると、すぐにありえない額の入金があった。


「さ、さんじゅうまん⁉ ︎嘘だろ⁉︎」


 確かに新しくリクエストを聞いて書き直しもしたし、ちゃんと飾れるように額装もした。それにしても多すぎる。


「まじかぁ。30万かぁ」


 たった数時間で描いた絵が30万。

 

 売って欲しい、グッズを作って欲しいという声も多い。


「……やってみるか?」


 現金なものだが、背に腹はかえられない。生活するのもお金がかかるのだ。


 まずは、小さいところから始めてみようかな。ハンドメイドサイトとか。

 幸い、グッズ制作などは以前にやったことがある。あんまり売れなかったけど。


 それに、週末には結構な規模のハンドメイドマーケットが海岸近くのイベントスペースでやってる気がする。それに出店してみるのも面白いかもしれない。


「よし、頑張るぞー!」

「はると、なに頑張るの?」

「お手伝いする?」


 てててっとやって来た双子が、服の裾をくいくいっと引っ張ってきた。


「んー、欲しいって人がいるからさ。グッズとか作ってみようかと思って」

「え⁉︎レイたちのやつ⁉︎」

「ユウたち有名人になる⁉︎」


 キラキラした目で見上げてくる二人のコメントがあまりにも幼稚園生みたいで、思わず吹き出してしまった。


「そうだな。どのイラストにするかは、レイたちに選んでもらおうかな」

「選ぶ選ぶ!」

「頑張るねっ!」


 ふんすっと握り拳を作って気合いをいれた二人を優しい目で見つめる。本当に、この二人には頭が上がらない。


  少しずつ。ほんの少しずつだけど、止まっていた時間がまた動き出している気がした。


 この家で過ごす時間は穏やかなのに、不思議と描きたいものが次々と浮かんでくる。もっと頑張ってみよう。そんな前向きな気持ちが、自然と胸の奥から湧き上がってくる。


 この子達に出会うことができて、本当によかった。


 俺はじんわりと胸に広がる温かさを噛み締めた。

これにて連投期間終了となります。

明日からは7時もしくは12時、20時の二回投稿です。

ブクマや評価で応援してもらえたら泣いて喜びます。


よろしくお願いします!

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