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第十二話 庭守


「そろそろ庭も、ちゃんとしないとなぁ」


 俺は縁側に立ち、荒れ果てた庭を見下ろしていた。その隣では、同じ格好をした双子が得意げに並んでいる。


 梅雨が明け、庭に池が出現してから早一ヶ月。


 元々荒れ果てていた庭園は、その池が見えなくなってしまうほどに雑草が繁茂していた。

 このままでは、夏には目も当てられないほどになるだろう。


「ま、明日は曇りみたいだし、やるなら明日でいいか。今日は仕事を片付けよう」


 カンカン照りの日差しに、どうにもやる気が起きなくて俺は日陰を求めて部屋へと逃げ帰った。


 その様子を、双子がにやにやしながら見つめていたことに、俺は気づかなかった。


 ⸻⸻⸻⸻


 次の日の朝。


 思えば、昨日から予兆はあったのだ。


 例えば、昼ごはんを食べた後のこと。双子が珍しく二人だけで、行き先を告げずにどこかへ出掛けて行った。


 その前に、ミケにこそこそ何かを相談していたことも知っていた。


 だけどその時は、深く考えなかった。

 

 新しい悪戯思いついたかな?とか、ミケが聞いてるなら酷いことにはならないだろ。とか、そんなふうに思って、放置してしまったのだ。


 つまりは、俺の過失である。


「はると、おはよー! 来て来てー!」

「おはよ。ん? どした?」

「こっちこっち!」

「……っ! なんだこれ」


 俺の目の前には、生まれ変わった庭が広がっていた。

 

 飛び石は綺麗に配置され、倒れて欠けていたはずの石灯籠は、新品のように磨かれている。

 生え放題だったはずの庭木は整えられ、枝ぶりは見事な曲線を描いていた。

 

 隣でふんぞり返っている様子を見る限り、どうやら今回の件は双子の仕業らしい。


 だが、問題はどうやってやったのか。


「凄いなこれ……プロみたいだ」

「そうでしょ、そうでしょ」

「すごいでしょ」

「うん。本当に凄い。どうしたんだ? これ」

 

 自慢げな二人の頭を撫でると、えへへと嬉しそうに笑いながら、「あの子たちがやってくれたの」と指をさした。


「ん……?あの子たち……?」


 双子の声に応えるように、ぽちゃんという水の音が庭に響いた。よく見ると、池の水面がゆらゆらと揺れている。


 その中心に、亀の甲羅らしきものが見えた。

 

「ん?なんだあれ」

「もう出て来ていいよー!」

「びっくり、大成功!」


 双子の声を皮切りに、勢いよく三匹の亀が飛び出してきた。


「わっ! なんだ⁉︎」

「この子たちがやってくれたんだよ!」

「困ってた子たち、呼んできたの!」

「ミケが教えてくれたんだよ!」

「「ねー!」」


 その言葉に、昨日こそこそ話してたのはこれか!と思い至る。それにしても、連れて来て、元の場所は大丈夫なのだろうか?


 そう聞くと、「もともと住む場所なくて困ってたから大丈夫!」というなんとも言えない答えが返って来た。


「ここに全員住むの?狭くない?」

「意外と深いから大丈夫です!」


 一番年長者らしい亀が答えてくれた。


 亀なのに喋れるんだ。まぁミケも話せるからな。話せてもおかしくはない……のか?


「えーと、名前は?」

「あ、庭守(にわもり)って呼んでください!」

「庭守ね。それぞれの名前は?」

「特にありません!僕が長男で工事関係担当、こっちが次男で水まわり担当、一番小さいのが三男で植物担当です」

「担当制なんだ……」

「まぁ、結局みんなでやる事が多いですけどね」


 三人だけでこの庭を一晩で仕上げただなんて、本当に大したものだ。


「凄いね」


 素直にそう言うと、庭守たちは「えへへ」と照れたように笑った。


「名前が無いのは呼びにくいし、太郎、次郎、三郎とかでもいいのかな……?」

「いいんですか?ありがとうございます!」


 俺がそう呼んだ途端、三人の体が仄かに光った。


「……今のは?」

「名前をつけてもらった事で、妖力が増したようです!」

「妖力なんてあるんだ⁉︎」

「えぇ……?この家は、こんなに妖力に溢れてるじゃないですか……」

「えぇぇ……」


 そうなの?


 思わず周りを見渡すが、こういう時に説明してくれそうなミケは生憎の留守である。 


 昨晩から姿を見ていないから、多分どこかで猫たちと飲み明かしているんだろう。

 帰ってきたら詳しく聞いてみよう。


 呆然としている俺に、何故か申し訳なさそうな顔をした太郎が見上げてくる。

 

「ところで、ここに住んでもいいですかね……?」


 いやいや、庭を綺麗にして貰っておいて追い出すなんて、俺はどんだけ鬼畜だと思われているのか。

 

「いや、俺は全然いいけど……ご飯とかは?」

「あ、僕たち、庭の活気で元気になるので気にしないでください!」

「えぇー……それは、なんか複雑だね……」


 見た目が子どもだけに、なんとなく不当に働かせている気分になるのは現代社会の弊害なのだろうか。多分そうじゃない気がする。


「あ、じゃあ、この木の種だけ植えていいですか?」

「ん?種?いいけど。なんの木?」

「紅葉です!僕たちの御神木みたいなもので。前の家から持って来ました!」

「どうぞどうぞ!植えちゃってください!」

「「「ありがとうございます!」」」


 それまでにこにこと笑いながら俺との会話を聞いていた後ろの二人も合わせて、三人が勢いよく頭を下げたものだから、びっくりしてしまった。


「いや、そんなもので全然いいんなら……」

「お庭のお手入れは僕たちにお任せください!リクエストがあればお応えできますので!」


 キラキラとした瞳で、是非!と訴えられても、購入してから早三ヶ月。全く手を付けていなかったことからも庭へ興味がないことはお察しである。

 だけど、目を輝かせている三人に向かってそんなことは言えなかった。


「あー、ちょっと寂しいから、賑やかな感じがいいかな。あともうちょい日影が欲しいかも?」

「分かりました!広いお庭なので腕がなりますね!では、水まわりなどを調整してみます!」

「ありがとう。無理しなくていいからね。楽しみにしてるよ」


 庭守たちが我が家に住みつくことは決定事項らしい。いや、庭の手入れは正直なところ好きではないので大変助かる。


 だけど、ここまで立派になってしまったら、外観もそろそろどうにかせねばという気になって来た。


 一度庭へ出て、外壁を触る。ちょっと触っただけでボロボロと崩れて来た。これは本当にちょっと不味いかもしれない。性能的に。


「外壁も気になりますか?」

「んー?それはね」

「じゃ、そちらも直しておきます!同じ色でいいですか?」

「そんなことまで出来るの⁉︎」

「はい!直すといっても妖の力を使うので、トンカントンカン的な工事はしないのですが……」


 なぜか申し訳なさそうにされるが、何が申し訳ないのかが分からない。そんなことはどうでもいい。俺は直ればいいのだ。


「ぜんっぜん気にしない!ゆっくりでいいから、是非お願いします!」

「任されました!久しぶりなので腕がなりますね!」


 とても嬉しそうに笑っている三人を見ると、なんだかこちらまで嬉しくなった。

 喜んでもらえているならなによりだ。俺も嬉しい、庭守たちも嬉しい。ウィンウィンの関係である。


「では!これから工事計画を練りますので、私たちはこれで!」


 太郎はそう言うと、三人はまた勢いよく池へと飛び込んで行った。


 池の淵に近寄ってみるが、深いと言う言葉は本当だったのか、底が見えない。だけど、こんなに深かったっけ?と首を傾げていると、思わぬところから答えが返ってきた。


「あまり近寄らんほうがいいぞ。」


 欠伸を噛み殺しながらやってきたミケは、「派手にやったな」と呆れたように庭を見回している。


「あ、ミケ。おかえり」

「「おかえりー」」

「うむ。帰った。んで?その様子だと庭守には会ったのか?」

「うん、さっき話したよ。ミケが紹介してくれたの?」

「あやつらが困っていたのを、双子の話を聞いて思い出してな」


 どうやら、庭守たちがもともといた家が空き家となってしまい、行き場を無くして困っていたのを聞いていたらしい。相変わらずの情報通だ。

 

 「そのまま住めないの?」と聞くと、「人が使わなければ、庭とは呼べんからな」という答えが返ってきた。


 そういうものなのね。

 

「まぁ、俺は非常に助かった。外壁も直してくれるみたいだし」

「ほお。お主、随分気に入られたみたいだな」

「あ、なんか妖力が満ちてるって言われたんだけど、どういうこと?」


 すると、ミケは「ふむ……」と髭を撫でつけると、ちらりと空を見上げ、「長くなる。話は中でだな」と言った。


 確かに、そろそろ日が高くなり始め、暑さが増してくる時間帯だ。気づいていなかったが、今でも首筋にはじんわりと汗が滲んでいる。

 このまま外で話し込んでいては、熱中症になってしまいそうだ。


 ミケに促され、俺たちは部屋の中へと戻る。

 

 ふと振り返ると、太陽の光を浴びた池の水面がきらきらと揺れ、眩しいほどに輝いていた。

 

 庭守はオリジナル妖です。可愛いですよね。亀にしてみました。


 読んでくださりありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
庭守が庭森になっているのころがありますね。 庭の管理者。ありがたい… 雑草とか、虫とかの闘いに戦士の休日は無いw
最新話まで拝読させていただきました! とても読みやすく、妖たちの表情や情景などもするすると入ってきました^^ 海辺の街の古民家と妖たちの優しい雰囲気が、とても合っていますね! その手のことにまったく詳…
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