第十三話 妖力
部屋に入った途端、冷たくも暑くもない絶妙な空気に身体が包まれた。
……外はあんなに暑かったのに。
家の中が、いつも適温に保たれていることに今更になって気がついた。
双子が何かしてくれてたのか?とも思ったけど、もしかしたら、その妖力とやらが関係しているのかもしれない。
氷が浮かんだ麦茶とアイスを持ってリビングへと向かうと、「「やったー!アイス!」」と双子がバンザイをして喜んでくれた。
「んで?妖力ってなんだよ?」
「まぁ焦るな」
ずずっと麦茶を啜ったミケが、一息つく。
「お主は、妖怪には力があることは知ってるか?」
「んー。座敷わらしが幸運を呼ぶようなやつ?」
早速つまらなくなったのか、双子がゴロゴロと寝転び始める。
「遊んでてもいいぞ」と声をかけると、二人は「やったー!」と喜び、アイスをしっかり握りしめて和室へと走っていった。
目の前のミケへ視線を戻すと、ちょうど話し始めようとしているところだった。
「さよう。我であれば、猫を従えたり、化けたり、猫火を出したりだな」
「火とか出せるんだ?」
「出来るが、疲れるからしないな」
「へー」
意外とミケも出来ることが多いらしい。
普段猫たちに威張っている姿しか見ていなかったから、あまり想像がつかなかった。
「それで?妖力は?」
「妖力は、書いた字の如く、妖が力を使うために必要な力だな。この家には妖力が満ちておる」
それは庭守たちから聞いて知っている。問題は、なぜそれが起きているのか。そして、その影響がどこに現れているのか、だ。
「それって……原因、俺?」
「いや、元々ここは地形的に霊力が多いのだ。霊力と妖力はほぼ同じものだと思っていい」
「あ、そうなんだ。それなら良かった」
俺が原因じゃないっぽい、とほっと息を吐く。
だが、ミケの言葉には続きがあった。
「だが、お主が住んでから増してはおる。恐らく、お主が妖怪を見える側であることが関係するのじゃろう。たぶん、お主自身も、ここに住んでから力が増しておるぞ。お主の場合は霊力だがな」
その言葉に、俺はピシリと固まった。聞き捨てならない内容に、思考が一瞬停止する。
「……はい?」
「まぁ気にするな。日常生活に支障はあるまい」
「いや、気にするところだろ」
問題ない、と再び呑気に麦茶を啜るミケをじとっとした目で見つめる。
「俺、どうなるわけ?」
「妖が集まりやすくなったりするな。悪い妖や悪霊には気をつけろ」
「気をつけろったって……」
「基本は童たちの力で守られているから、大丈夫であろう」
全く安心できない答えが返って来て、思わず机に突っ伏せる。
「それと」
「まだあるの⁉︎」
じろり、と机に伏せたまま顔だけミケの方へ向けると、ミケが面白そうに笑った。
「妖の絵を描いたとき、その妖の能力が込められておるぞ。最近、力が増しておる。絵を描いた後、疲れておらぬか?」
「あ、言われてみれば……?」
「うむ。力を使うことで鍛えられて、また力が増したのであろう」
普通の仕事の絵を描いている時には感じないのに、双子の絵を描いたときはやたらと肩が凝ったり目が疲れたりしていた。
年か?と思っていたけど、それが原因だったのか。
「それって身体に悪い?」
「いや?使いすぎなければよかろう。寝たら直る」
「へー」
まぁ、理由が分かっただけ良かった……のか?
「ってかさ。ミケはなんでそんな知ってるの?」
「我は猫又だからな。長生きはするものだ」
「いつもそれだな」
「そうとしか言えんな。色んな縁がある」
そう言ったミケはどこか遠いところを見た。
この猫又はどのくらい生きているのだろう。だけどなんとなく、聞く気が起きなかった。
「ってことはさ、もしかして妖の絵にも力が篭ってたり?」
「左様。その妖が持つ力が封じ込められておる。お主、最近運が良かろう?」
「そうだね。仕事も順調だし、風邪も引かない」
「まぁお主の場合は、双子たちが力を与えておるからな。絵の効果というよりは、妖本体の力であろう」
そこまで説明してくれたミケは、興味を失ったのか、アイスを開けてペロペロ舐め始めた。「うーん。これはなかなか……」などと呟いている。
「えー。どうするの?これ」
「どうもこうも。心配するだけ無駄であろう。ありがたく使っておけ」
「そうなんだけどさー、売りにくくない?」
「人間にとっては効果ある気がする、と思う程度じゃ。小さいものだけ売れば良かろう」
その言葉に、ピシッと身体が固まった。
「ちなみに……大きいのは?」
「まぁそれ相応の効果じゃの」
ミケの言葉に、俺は頭を抱えた。
「隼さんに送っちゃったよー!どうすんだよー!」
「座敷わらしの効果は、本人の努力なしではどうにもならない。気にするだけ無駄じゃ。本来来るべき運を引き寄せてるだけじゃからの」
「うぅー」
簡単にいってくれるな。それはそうなのかもしれないけれど、やっぱり重すぎる。
次からは小さい物のみを売るようにした方がいいのかもしれないな……。
だけど、そんなことができるわけがないことを、俺はこれから先、嫌になる程味わうことになるのであった。
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