第十四話 東屋誕生
八月──葉月。
庭木に集まった蝉たちが、競い合うように鳴き続ける真夏日。
庭周りの整備と外壁の修理が終わったと、ついに太郎たちから報告を貰った。長かった作業も、ようやく一区切りらしい。
流石に暑すぎたのだろう。太郎たちは日が高いうちは姿を見せず、涼しくなる夜になると、せっせと庭づくりを進めていたようだった。
だから昼間に庭へ出ても、太郎たちに会うのは稀で。だけど、日に日に整っていく庭を見ればどれだけ頑張っているのかは分かった。
今日は、完成祝賀会を兼ねて、頑張ってくれた太郎たちを労うための柏木家大集合BBQ大会を開催するわけである。
なんと、会場は東屋だ。
そう。我が家に、東屋ができてしまった。
「日陰が欲しいなー」という俺の軽い気持ちで言ったリクエストは、池の横に建つ立派な木造の東屋として叶えられてしまった。
ちょっと屋根があればいいな、くらいのつもりで言っただけだったから、完成品を見た時は申し訳なくなった。
しかし、双子たちは東屋が大いに気に入ったらしい。昼間になると、いつもそこで昼寝をしていて、すっかり二人の秘密基地のようになっている。どうやら風通しが良く、かなり涼しい場所らしい。
「それでは、完成を祝して!太郎さん、次郎さん、三郎さん、ありがとうー!」
「「ありがとうー!」」
かちん、とぶつかるグラスの音が水の音に混じって、涼しげに響く。
チョロチョロと心地よい水音を響かせているのは、完成したばかりの小川だ。池から伸びた細い流れは、どこかで循環する仕組みになっているらしい。詳しいことはさっぱり分からないが。
流れがあるおかげで、心配していた蚊も発生しにくくなると聞き、俺は密かに喜んだ。
そもそも、蚊が水溜りなんかから発生することも知らなかったんだけど。普通に薮とかだと思っていたので。
「おさかな、おいしー!」
「うむ。これはなかなか」
今日のメインはなんと魚介。肉でも……と思ったが、圧倒的多数で魚介類を所望され、肉は俺の分だけ買って来た。ちなみに庭守たちは野菜がいいらしい。主役なのに控えめだ。
網の上では、潮の香りをまとったホタテが貝の中から顔を出し、弾けた醤油の香ばしい匂いを漂わせている。網の上では海老やイカがこんがりと焼け、立ち上る白い煙に食欲を刺激された。
待ちきれなくなった双子の口からは涎が垂れ、焼き上がる魚介をきらきらした目で見つめている。
「それにしても、凄いよなぁ」
見事に生まれ変わった我が家を見上げる。近くに人が住んでいなくて良かった。いきなりこんなに外観が変わったら、近所の人たちから噂されてしまうだろう。
どこからどう見ても、元がボロ家だとは思えない仕上がりだ。
「ここまで来ると、なんか拘りたくなるよな」
「はるとー、壁、真っ白」
「綺麗だけど、ちょっと寂しいね」
双子も少しだけ残念そうに見上げている。すると、ミケがニヤッと笑ってこちらを見てきた。
「陽翔が描けばよい。厄避けにもなろう」
「えぇ……でかくないか……?」
なにしろ、家の壁である。流石の俺も描いたことがない。なかなか決断できない俺に、「それじゃ、塀に描けば良い。そしたら少しはマシじゃろう」とミケが妥協案を出してくれた。
「んー、塀なら最悪描き直せる……かな?」
「お主、プロじゃろう」
塀が賑やかになれば、壁はシンプルなくらいの方がちょうどいいだろう。
「陽翔様が描いていただけるんですか⁉︎」
俺とミケの会話に、キラキラとした目で太郎たちが見上げてくる。
ある日、太郎たちの絵を描いてあげたら、「神々しすぎます」と涙を流して喜ばれ、俺はそんなに力が篭るようになってしまったのかと驚愕した。
どうやら、庭守たちの絵には、植物の成長を促し、害虫などが発生にしにくくなる効果が込められているらしい。
大変喜んでくれ、それ以来『様』付けで呼ばれるようになった。
こそばゆいのでやめて欲しい、と何回か伝えてはいるけれど、頑なに譲ってくれない。
そして、その絵は現在、東屋に額装して飾られている。太郎たちが東屋に真似して描けばいいとも思ったが、俺が描かないとダメらしい。
「んー。アトリエ妖の看板代わりに描いてみるかな」
「厄除けになるように、気合を入れて描くのだぞ」
「分かったよ」
俺とミケの会話に、太郎たちは目を輝かせ、双子は「僕たち(私たち)もお絵描きするー!」と張り切っている。この際、みんなで仕上げるのもいいかもしれない。
「よし。それじゃ、みんなで塀にお絵描き大会をしよう!記念にもなるし!」
「「楽しみー!」」
突然参加することになったミケと太郎たちは目を白黒させている。
「そ、そんな!陽翔様の絵と共に描くなど!」
「我は手形しか押さんぞ」
慌てる太郎たちに対し、一応参加してくれるつもりはあるらしいミケがミケらしい返事をしてくれる。
「そんなに身構えなくたって大丈夫だって。最後は俺が調整するからさ」
コソコソ後ろで話し合った三人は、それでも恐れ多いという様子で「それならば……」なんとか頷いてくれた。この三人は自己評価が低すぎる。これから褒めまくるしかないだろう。
褒める要素しかないので、褒める点については心配はない。
「よし、それじゃ、早速明日は下書きだな」
「ほんかくてき!」
「当然だろ」
それによって、買ってくる色も変わってくる。やるならば、本格的に。塀の大きさを確認し、描けるスペースを確認する。
この塀への装飾が、後々自分の首を絞めることになるとは、このときの俺はつゆほども気づいていなかった。
読んでくださりありがとうございます!
次話は20時投稿です。一日二回投稿しています。
可愛い!癒される!と思っていただけましたら、ブクマや⭐︎を点滅させて貰えたら嬉しいです!応援よろしくお願いします。




