第五十四話 天照編 地獄の扉
本日、新作の連載を開始しました。
式神使いの妖ダンジョン系です。
【最弱職と見下された俺、奇跡のダンジョンに導かれて最強に至る〜式神使いの成り上がり配信譚〜】
是非ともよろしくお願いします!
木の影から覗くと、そこには小さな木造の小屋があった。その建物の奥には、標縄が回された大きな岩が据えられている。
そして、その前には大きな火壇と何やら怪しげな陣が描かれていた。
その周囲には、見覚えのある太陽の印を背中に描いた白装束を着ている人々が落ち着きなく歩き回っている。
「龍神が……」
「儀式の準備が……」
などと漏れ聞こえてくるところを見ると、どうやら間に合ったらしい。
火壇の前に置かれている祭壇に見覚えのある石がきらりと光るのが見えた。
「どうやら龍神様はまだ寝ているみたいだな」
「こんな状況なのに呑気なのはあやつだけよ」
ふんっと鼻を鳴らしながらも、ミケも表情を緩めている。双子がほっと息を吐いたのが分かった。
「俺が場をかき乱す。ミケが龍神さまの石を取ってこれるか?月牙とユウとレイは俺のサポートを頼んだ」
そう指示を出すと、口々に「分かった」と返ってくる。
──いつのタイミングで仕掛けようか。
よく見れば、陣の中央には奴らに捕らえられた妖たちの姿があった。何かに縛り付けられているのか、必死にもがき、逃れようともがいている。
──もし俺たちが間に合わなければ、カーもあそこにいたのかもしれない。
そう思った瞬間、胸の奥から怒りが込み上げた。
あの妖たちも必ず助ける。そして、こんな仕打ちをした奴らには、その報いを受けてもらう。
そんな時だった。
騒めいていた人々の声が、まるで誰かに奪われたかのように、ぴたりと止んだ。
場が物々しい空気に包まれると、白装束の男たちが陣の周りに立ち、一斉に頭を下げた。呆然と見ていると、低く響く祝詞が森を震わせた。
呼応するように光り出した陣が何かを吸い取っているかのように、捉えられたであろう妖たちが苦しみの声をあげる。
──シャーン、シャーン、シャンシャンシャン
徐々に間隔が狭まっていく鐘の音が、心臓を急き立てるように響く。気づけば俺は、見えない何かに追い立てられるような気分になっていた。
「止めなきゃ」
今止めなければ——
そんな確証があった。
気づけば、俺は飛び出していた。
「待て、陽翔」
ミケの叫ぶ声がしたが、振り返る余裕などなかった。
ありったけの護符を鞄から引っ掴み、その中から数枚を闇へと放った。
「月の刃よ、闇を切り裂け」
俺の言霊と共に、数枚の護符がヒュンっという音と共に宙を舞う。
仄かな光を発した護符から、勢いよく風の刃が飛び出ていき、儀式をしている周囲の木々を薙ぎ倒していく。
「月の満ち引きを司る神よ、我に清めの波を与えたまえ」
俺の手元にあった護符が光り輝き、空に向かって飛んでいく。
ごおっという轟音と共に、光の波が立ち上がったと思うと、儀式をしている者たちへと襲っていった。
光の波が妖たちが捉えられている陣の中央にまで達すると、妖たちを縛り付けていた呪詛をあっという間に打ち砕いた。
自由になった妖たちは、一目散に夜の闇へと消えていく。
一斉に夜へと散っていく妖たちを見送りながら、俺は次の護符を掴んだ。
「な、なんだ⁉︎」
「何者だ⁉︎」
「敵襲、敵襲!」
今更になって騒ぎ立てる声がし、陣を結ぼうとしている奴らがいるが、もう遅い。
龍神さまを攫い、みんなを不安に追い立てた罪を晴らしてもらおう──
五枚の護符を宙に投げる。
宙に舞った護符は、彼らが描いた巨大な陣へと飛んでいった。
護符が触れた瞬間、その陣は地獄門と鎖、鬼の面へと姿を変える。
「獄 門 円 陣 ──地獄で詫びろ」
祝詞を唱えると、巨大な陣が赤黒く染まり、地の底から這い上がるような重低音が森中へ響く。右往左往していた男どもの足首にジャラジャラと鎖が巻き付いていった。
微かに空いた門の隙間から、誰かの叫び声が聞こえてくる。
ギィっという重苦しい音と共にかつてないほどの大きさの門がゆっくりと開かれた。
門の向こうに複数の鬼が立っているのが見える。
「馬鹿デカい門を開く奴がいると思ったらお前か」
なんだか聞き覚えがある声がして、きょとんとして門を見つめると、そこにはいつかの悪鬼が立っていた。
最後に見た時の痛々しい姿はどこにもない。制服のような服に身を包み、帽子まできちんとかぶっていた。
「よ、久しぶり」
「……お前何してんの?」
「このとおり、罰を受けた後就職したんだよ。あの時は送ってくれてありがとうな」
「……。なんか複雑なんだけど」
俺がそう答えると、悪鬼は面白そうにカッカッと声をあげて笑った。
すぐに笑うのをやめた悪鬼の顔からすっと表情が消えた。チラリと男どもをチラリと見た悪鬼は「妖の利己的束縛と神への冒涜──重罪だな」と呟いた。
本当に仕事をしておるようだ。あの悪鬼がである。変なところで繋がる縁もあるものだ。
「んじゃ、こいつらは預かりましたので。こちらで処理させてもらいます」
仲間の鬼たちが鎖を引っ張り、数珠繋ぎのようにされた男たちはズルズルと地獄門へと引き込まれていく。
「や、やめろ」
「ひぃぃぃ」
悲痛な叫び声を聞いた悪鬼は楽しそうな笑みを浮かべた。
「それでは、またのご利用をお待ちしております」
恭しく一礼をした悪鬼の言葉を合図に、地獄門が閉まっていく。頭を上げた悪鬼がニヤリと笑い、ひらひらと手を振ったのが扉の隙間から見えた。
バタンと大きな音を立てて閉まった地獄門が崩れ落ちていく。地獄門が閉まった後には、轟々と燃え盛る火壇と、その前にポツンと置かれた祭壇が残されていた。
「……やりすぎたか?」
天照結社の奴らを全員地獄行きにしてしまったのはやりすぎてしまったかもしれない──我に返った俺がそう呟くと、
「奴らは罪を重ねすぎた。遅かれ早かれ、他の神が手を下したであろう」
というミケの声がした。
──本当か?
本当のことなのか励ましなのかを悩むが、それが本当かどうかなんて悩むだけ無駄だ。結局答えは出ないのだから。
「ねぇ、龍神さまは?」
双子の声に我に返った俺は、祭壇へと駆け寄った。その後ろを双子たちが着いてくる。
先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返った夜の闇で、火櫓との焔が不気味に揺らめいた気がした。
読んでくださりありがとうございます!
いよいよ明日は最終日!
あと二話で完結です!
次のダンジョン連載でも本作のキャラクターが登場する予定です。よければ読みにきていただけたら嬉しいです。お待ちしています!




