第五十三話 天照編 神の道
本日夜、新作の連載を開始します。
式神使いの妖ダンジョン系です。
昨晩に投稿した短編小説(本作のスピンオフ)もシリーズから飛べます!よろしくお願いします。
ぎゅっと閉じていた目をそっと開けると、あたりは柔らかい光に包まれていた。
足元には光の道が伸び、ずっと先に光り輝くものが微かに見えた。あれがきっと出口だろう。
「行こうか」
「陽翔、落ちるのでないぞ」
「……フラグ立てないでくれる?落ちてる暇ないからな?」
急ぎながらも慎重に。
俺たちは一歩一歩しっかりと踏みしめながら先を急いだ。
ふと、"道の下は魑魅魍魎が溢れている"という姫の言葉を思い出し、落ちないように気をつけながらそっと道の下を覗いてみた。
光る道の下には、完全なる闇が広がっていた。目が痛くなるほどの暗闇。漆黒というのはこういうことを言うのだろう。
耳をすませばこの世のものでないものの鳴き声が微かに聞こえた。
「陽翔、落ちちゃうよ」
吸い込まれるように闇を見つめていた俺の袖を、ユウがくいくいっと引っ張ってきた。
「ごめん。ちょっと気になって」
「お主、呑気だな。双子よりよっぽど危なっかしいぞ」
呆れたように言ったミケが「この道の下は、現世と神界の狭間。どこにも属すことのできぬ者たちの墓場のようなものだ。一度落ちたら戻って来れぬ。早う渡れ」と忠告してきた。
思った以上の闇の深さに、俺はブルリと身体を震わせた。双子を握っている手に無意識に力がこもってしまい、「はると、痛い」と双子から抗議の声が上がった。
「あ、ごめん」
「気を引き締めよ。ここから先は敵陣だと思うがよい」
ミケの言葉にごくりと唾を飲み込んだ。先ほどまで感じていた全てがうまく行くような気分が霧散し、何かに追い立てられるような不安がいきなり襲ってきた。
その気分の急激な変化は、どう考えても異常だった。
俺が気負い過ぎないよう、誰かが何かしてくれていたのかもしれない。そうでもなければ、この状況であれほど冷静でいられた説明がつかない──そんな考えが、ふと頭をよぎった。
一つ息をついて、道の奥に視線を向けた。光だけを見つめ、しっかりとした足取りで歩き出す。
後ろで、月牙がミケに「大丈夫そうですね」と言ったのが聞こえた。やはり先程までの俺は地に足がついていなかったらしい。
しばらく、みんなで黙々と歩いた。
ふと、俺の手を握っているレイの手が小さく震えているのに気がついた。こっそり横を見ると、唇の色が真っ青になっている。
「よっと」
「わっ!」
レイの両脇に腕を差し込み、そっと抱き上げふとと、レイは目をパチクリさせた。
「怖い?抱っこしていこ」と俺が言うと、「ありがとう、はると!」と僅かに頰を緩ませた。
それを見ていた月牙も「それでは、私はユウさんを」と背中にユウを乗せた。
「龍神さま、大丈夫かなぁ?」
俺の肩に顔を埋めたレイが俺にしか聞こえない声で呟いた。小さな頭をそっと撫でると、ぎゅっと力を込めて抱きついてきた。
とんとんと背中を叩いて「大丈夫だよ」と答えると、「そうだね、大丈夫だよね」とレイは小さく笑った。
光り輝く出口を見据える。先ほどよりもずっとしっかりした足取りで、俺たちは光る道を踏みしめた。
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光る出口を潜ると、板造りの廊下がぎしりと軋んだ。きょろきょろと周りを見回すと、どこかの境内のようだ。
夜の闇に呑まれた神社は、静寂に満ちており、足音一つしなかった。
どうやら待ち伏せされている様子はなさそうだ。そもそも神社で待ち伏せさせるはずがないのだが。
「静かだねぇ」
「夜だからな」
ざわざわと葉が擦れる音が響き渡り、空気がどんよりと重い。今まで訪れた神の音は清廉としていただけに、なんだか異常な雰囲気だった。
視線を巡らせると、奥の方に大きな建物が見える。あちらが本殿なのだろう。まだ起きている人がいるのか、そちらにはちらほらと火が灯っているのが見える。
「龍神さま、どこにいるかな?」
声を潜めて問いかけると、ミケの目が夜の闇にきらりと光った。
「ふむ。ちと待っておれ」
葉を踏みしめる音が微かにして、ミケが闇に姿を消した。
梟なのか、ミミズクなのか。聞き分けはできないが、何かの鳴く声が耳についた。ふと空を見上げると、分厚い雲が月を覆い隠すところだった。
普段賑やかな双子でさえも息を潜めてじっとしている。誰も口を開こうとしなかった。
ざくりという微かな音と共にミケが帰って来た。
「どこ行ってたんだ?」
小さな声で尋ねると、「ここらの猫たちに聞きに行っていた。この神社を降りて少し行ったところに最近人が集まっているところがあるらしい。妖の気配もすると言っておったから恐らくそこであろう」
と言い、ミケが背後へと視線をやった。
その視線を辿ると、一匹の猫がこちらをじぃっと見つめていた。
「近くまでは案内してくれるそうじゃ」
「そっか。ありがとう」
俺がお礼を言うと、猫は小さくみゃーんと鳴いた。
俺たちは闇の中をすいすいと歩く猫を小走りで追いかけた。
ぴしぴしと小枝を踏む音が辺りに響く。しばらくすると、微かに人の話し声が聞こえてくるのであった。




