第五十二話 天照編 光の扉
短編投稿しました!月牙視点となります。
シリーズで飛んでいただけますので、ご覧頂けましたら嬉しいです。よろしくお願いします。
日が沈み、空が闇を飲み込む頃。
毛を乱した月牙が庭へと降り立った。
仕事部屋からそれが見えた俺が慌ただしく庭へと向かうと、仮眠を取っていた双子とミケも和室から出てくる。
「どうだった?」
「烏天狗殿がご存じでした。宮崎の高千穂、天岩戸神社付近に集まっているとの情報がありました」
「宮崎か……遠いな……」
ここからの時間から考えると、奴らは向こうに着いた頃だろう。今から出たとしても俺らが着くのは朝方か……。
頭の中でこれからの行動を組み立てていると、「陽翔殿」と月牙の俺を呼ぶ声がして顔を上げた。
「ん?なに?」
「姫様が送ってくださるそうです。30分ほどでこちらに参ります」
いいのか?とか、どうやって?とか聞きたいことは沢山あったが、重要なのはそこではない。
「ありがとう」
「御礼は姫様に。準備いたしましょう」
「うん。20分後に庭集合で。行くのは俺とユウ、レイ、それと月牙と……」
「我も行くぞ」
地を這うような声をミケが出すが、ミケには出来れば壊れてしまった家の守りをしてもらいたい。このまま出て行って、太郎たちに何かあったときが心配だ。
こんなことなら、月牙が行っている間に応急処置でもしておけば良かった。
「屋敷の守りがさ……」
「眷属仲間に見ていてもらいましょう。一晩くらいなら大丈夫です」
月牙が提案してくれ、それならばと俺も頷いた。
「ミケも行こう」
「当たり前だ」
くるりと庭の方へ向かうところを見ると、屋敷の守りを固めてくれるのだろう。俺も護符を何枚か取り出し、屋敷の隅に設置し直した。
慌ただしくしていたら、あっという間に時間が過ぎ、姫が迎えに来てくれる時間となった。
「どうやって送って」
俺が月牙に問いかけようとした瞬間──
──シャン
と聞き慣れた音が夜の闇に響いた。すっかり慣れてしまった空気の変化に、ほっと息を吐く。
そして、姫が来てくれたことに、少なからず安心してしまった自分に驚いた。
闇に包まれているはずなのに、そこに姫がいることがすぐに分かってしまう。花のような香りが辺りにふんわりと漂った。
「大変なようだな」
鈴のような凛とした声がした。
「来てくれてありがとう。送ってくれるんだって?」
「なに、龍神のためよ。気にするでない」
口元を扇で覆った姫は、「あやつも神のくせに、人間に捕まるなんて情けない」と言った。
だが、言葉とは裏腹にその声にいつもの覇気がなく、まるで心配が隠せていない。
「俺が気を抜いたから……ごめんな」
「あちらもそれだけ龍神の力が欲しかっただけのこと。非があるとしたら、のうのうと攫われた龍神だけよ」
そう言った姫は、少しは片付けたものの荒れ果てた部屋を一瞥し、微かに眉を寄せた。ぱちりと扇を閉じると、「戻れ」と静かに告げ、閉じた扇を屋敷へ向けてすっと払った。
すると、まるで時が巻き戻るかのように、荒らされていた部屋がみるみる元の姿を取り戻していく。
散乱していた物はあるべき場所へ戻り、ほんの数秒で昼食前と変わらぬ光景が広がっていた。
足りないのは、神棚の前の龍神さまの石だけ。その場所だけがぽっこり空いている。
「これで龍神も戻れば楽なのだがの。流石に持ち去られたものは難しいの」
「十分だよ。ありがとう」
お礼を言うと、普段なら「当然じゃ」とでも言い放つ姫が、どこかしんみりとしているものだから、なんだか調子が狂う。
「よし、はよ送るぞ。時は金なりじゃ」
「なんか姫の口からそれを聞くのは微妙だな」
わざとおどけて言うと、きょとんとした顔をした姫が、いつもの笑みを浮かべてくれた。
「何を言う。はよう準備せい」
「準備は大丈夫。いつでもいいよ」
「よし。それでは繋げるぞ」
──そういえば、送るとは聞いたけど方法聞いてないな。
そう思った直後、姫の纏う雰囲気が変わった。
姫の手にはいくつもの鈴が付いた楽器がいつのまにか握られている。
「神の道よ、今ここに開け。我が呼び声に応え、門を顕せ」
凛とした姫の言葉が空気を震わせた。
屋敷の扉が静かに光が満ちる。その輝きはあまりにも神々しく、言葉では到底言い表せないほどの神聖さだった。
「神が神社に通すことのできる道じゃ。向こうで聞かれたら我の名を出してこれを示せ。龍神を救うために来たと告げれば悪いようにはされまい」
「ありがとう」
「道は真っ直ぐだから迷うことはない。だが、落ちるなよ。魑魅魍魎の元に落ちるぞ」
姫の真剣な眼差しに押されて、ごくりと唾を飲み込んだ。
「わ、分かった」
「双子から手を離すでないぞ。奴らが一番落ちそうじゃ」
そう言った姫は双子のもとへ歩み寄ると、「龍神を頼んだぞ。慌てず、ゆっくりと歩くがよい。すぐに着く」と優しく声を掛け、二人の頭をそっと撫でた。
「はい!姫さま!」
「お任せください!」
元気いっぱいに答えた双子に、慈しむように姫がまた頭を撫で、そっと双子の背中を押した。「陽翔を頼んだぞ」と言っているのが聞こえて、少しだけむず痒くなる。
「行ってくる。留守をよろしく」
「案ずるでない。こちらは妾に任せよ。守りは抜かりなく強化しておいてやる」
「ほどほどでお願いします」
思わず苦笑した俺に、「ほれ、はよ行け。早くせねば消えるぞ」と姫が急かす。
「じゃ、行ってくるね」
「行ってらっしゃいませ。ご武運を」
頭を下げた太郎たちと、身体を膨らませた珠が見送ってくれている。
双子としっかりと手を繋ぎ、光り輝いている扉の前に立った。
こんなものを通る人生になるなんて思わなかった。神の道を通るなんて、人類初じゃないのか?
そんなくだらないことを考えているうちに、いつの間にか先ほどまでの緊張が和らいでいることに気がついた。自然と口元が緩む。
大丈夫だ。俺たちも、龍神さまも──きっと。
そんな根拠のない確信が湧いてきた。
俺はミケと月牙に視線で合図を送ると、双子と繋いだ手をぎゅっと強く握り直し、光り輝く扉の向こうへと飛び込んだ。
明日2話、明後日2話投稿予定です。
よろしくお願いします。




