第五十話 妖セキュリティ
「んー。気持ちいいな」
「そうですね。春ですねぇ」
「月牙と二人で出かけるのって珍しくない?」
春の温かい風に背中を押されながら、俺は月牙と買い物に出ていた。
ぽかぽかとして温かい気候は、昼寝をするのにぴったりである。
「帰って東屋ででも昼間しようかな」
「いいですね。太郎さんたちも喜びますよ」
いつも季節の花をせっせと植えている庭守たちの姿を思い出す。
どこから種を仕入れているのか、季節を感じられる庭には、いつもどこかしらで花が咲き、彩りを添えている。
この間なんか、いつのまにか小川に小魚が泳いでいてとても驚いた。双子が川でとってきたらしい。
ふと顔を上げると、家に上がる階段の下に黒塗りの車が止まっているのが目に入った。
「ん?なんだ、あれ?」
「あ……ちょっとタイミングがよろしくないですね……」
しまった、という顔をした月牙が足を止めた。どうやら事情を知っているようだ。
「どういうこと?」
そう尋ねる前に、車のドアが開いて黒いスーツを着た男たちがぞろぞろと車から降りてきた。
「え、なにあれ?」
「あぁぁぁ、タイミングが悪い……」
なぜか頭を抱える月牙と、スーツ姿の男たちを交互に見ている間に男たちは家への階段へと上がっていってしまった。
「あ、ちょっと!」
家には双子たちしかいないのだ。
どこからどう見ても、まともな人には見えない。胡散臭い雰囲気と嫌な予感がぷんぷんする。
男たちへと俺が叫ぼうした瞬間──
すっと男たちの姿が消えた。
まるで神隠しにあったかのように。
「は?」
「あぁぁぁ……ついに知られてしまった……」
悲観した声をあげた月牙は、どうやら全ての事情を知っているらしい。
視線を巡らせると、家の塀から双子がひょこりと顔を覗かせ、男たちが消えていった先を睨みつけていた。
「月牙さんや……?」
「なんですか、陽翔殿」
涼しい顔をして取り繕っているが、全然誤魔化せていない。
「どういうことか説明して貰えますよね?」
にっこりと笑っていうと、「とりあえず家に帰りましょう……」という諦めた月牙の声が返ってきた。
⸻⸻⸻⸻⸻⸻
「それで?どういうこと?」
俺の目の前には犯人であろう双子、ミケ、月牙が並んでいた。
関係ないであろう太郎たちや珠は縁側からチラチラとこちらの様子を伺っている。
「いつから?」
「東京から後……くらいですかね?」
「え、そんなに前から?」
思った以上の期間に思わずぐっと眉が寄ってしまった。その表情を怒ったと思ったのか、双子があわあわと慌てている。
「はると、でもね!」
焦ったように口を開いたユウを俺は手を挙げて制した。
「あのね、俺は怒ってはないよ?」
「……怒ってないの?」
きょとんとした顔の妖たちにため息をつく。
「怒れないだろ。俺のためって分かってんのに。だけどさ、自分のことでもあるんだから。事前に教えておいて欲しかったってところかな。あと、危ないことはしてほしくない」
「……ごめんなさい」
しょぼんと落ち込んでしまった双子を見て、小さく息が漏れてしまう。別に悲しませたいわけでもないのだ。匙加減が難しい。
「無差別ではないんだろ?」
「明らかに悪意がある人たちだけだよ」
「ちなみに、どこに行ってんの?あれ」
「んー。僕たちの領域に迷わせて、懲らしめてから帰してる。メチャクチャな人たちは何日か居たりするけど……」
「ねー?」と双子が顔を見合わせて首を傾げているが、全く可愛くない内容に思わず顔が引き攣ってしまった。
「いや、怖すぎるだろ」
「でも、懲りずに何回も来る人もいるよ。入れるわけないのに馬鹿だよね」
ぷうっと頬を膨らませる双子に、「まぁ奴らも自分の意志で来てるわけではないからな」と初めから焦った様子を見せていなかったミケが言った。
「ミケは?」
「ん?なんじゃ?」
「ミケは何してなの?なんかしてくれてたんだろ。この際聞くよ」
「我か?我は双子のサポートと猫たちの情報を使って良いように誘導してただけじゃ。ほれ。お主が出て行ったら台無しであろう?」
──それでたまに引き止められることがあったのか。
「とりあえず分かった。これからは教えて」
「教えても良いけど、はるとは出させないよ」
「なんで?」
「はるとがあんな奴らの相手することない」
双子は全く譲る気がない。これは無理だろう。聞く気がない。ミケたちよりも双子の方が意外と頑固なのだ。
思わず大きく息を吐いてしまった。
「死ぬことはないんだな?」
「誓ってないよ。気持ち悪いしね」
「分かった。俺にも手伝えることがあったら言って。俺目当てで来てるんだろ?」
「んー。今のところないかな。あったら頼むね!」
俺が納得したと思ったのか、笑顔になった双子が満足げに頷いている。
──あとで護符か絵を使った守りが何かできないかミケに相談するか。
俺の家には、いつの間にか妖たちによるセキュリティーが敷かれていた。
俺を守るためだとばかり思っていたその備えが、実は妖たちを護るためでもあったことを知るのは、もう少し先の話だ。




