第四十九話 新たな仲間
ほろ酔いのミケたちと日本酒を傾けていたとき。俺のスマホが鳴った。
「……テレビ、ですか?」
『そうなんです。先日、伊藤さんと対談したときに共通の話題としてアトリエの話が出まして……』
「はぁ……」
何を話したんだ……?
思わず眉が寄ってしまう。隼さんと伊藤さんだ。変なことは言わないとわかっていても、警戒してしまった。
『あ、話したと言っても、ただ僕と伊藤さんが好きな妖の作家さんがいるというだけですよ?』
「あ、そうなんですね。光栄です」
『ええ。僕は座敷わらし推しで、伊藤さんは犬推しのようなことを話したんです』
「なるほど」
確かに。新グッズが出るたびにお二人には送っているし、新しい現場に出るたびに追加で大量注文が入るのだ。お陰で俺の懐も温かい。
『そうしたら、思いの外食いつかれてしまいまして』
「……はい?」
なんだか雲行きが怪しくなってきたな?
ぞわぞわとして落ち着かないものが胸の中を這う。妖で注目を浴びることは嬉しくもあり、警戒しなくてはいけないこともあるのだ。
『是非とも番組の中でグッズ特集とアトリエを出させてもらえないか、ということで番組のプロデューサーから懇願されてるんです。最近SNSで人気なのも興味をひいてしまったようでして』
「……話は分かりましたけど、一旦各所と相談してもいいですか?」
『勿論です!よろしくお願いします』
隼さんって芸能人にしては毎度低姿勢なのはなんなんだろうな……。テレビに出してやるんだから!くらい言う人もいておかしくないと言うかなんというか……。
「やっぱ矢野さんに相談か……?」
久しぶりに連絡先を呼び出しながら、ありがたいながらもちょっと悩む申し出をどうしようかと思うのであった。
⸻⸻⸻⸻⸻⸻
『毎度思うんですけれど、どこに悩む必要が?』
電話の向こうの矢野さんからは、あっけらかんとした答えが返ってきた。
『それに、取っ掛かりは役所と一緒にやらしてもらいましたけれど、アトリエさんは一個人事業主です。いつも気を遣ってもらって有難いですが、柏木さんのお好きにやられて大丈夫なんですよ?』
「……言われてみればそうですね」
『言われなくてもそうなんです』
確かにそうだ。役所としては、地域活性のプロジェクトとして取り組んではくれたが、それはあの一度のみ。
そこから先は自分で直接やり取りはしているし、ちゃんとお金も入ってきている。販売だけはいまだにお任せしてしまっているが……。
これを機に独立というか、独り立ちしてもいいのかもしれない。
「分かりました、ちょっと考えて見ます。また相談は乗ってくださいね」
『相談ならいつでも。あ、今度夏祭りのデザインなど、今後もご一緒させて貰えたら嬉しいです!』
「それはこちらこそ、是非」
といって電話を切ったはいいものの。
「一人でするのは無理があるよなぁ……」
そう悩んだが、一旦面倒になった俺は考えるのをやめた。
テレビの話は商品紹介と簡単なコメントだけ出させてもらう事にして、出演はNGにした。
素直に喜んでくれる二人のような人だけならいいが、面倒な人も世にはいるのだ。調べたら分かるとはいえ、アトリエまで押しかけられるのもなかなか面倒なのである。
だけど、これも双子の幸運の賜物なのか。それとも、過去に蒔いた種が芽吹いたのか——。
人生、無駄になる出会いはないものである。
⸻⸻⸻⸻⸻⸻
「こんばんはー」
「あぁ、いらっしゃい」
「遊びに来ましたー」
遊びに来たのはその昔、貧乏神に憑かれていた佐藤くん。彼は貧乏神に限らず霊にも憑かれやすい体質らしく、調子が悪くなるたびにうちに遊びに来ゆものだから、すっかり顔馴染みになってしまってる。
「佐藤くんって今何してんの?」
「今ですか?就活ですね」
「就活かー。どんなとこ狙ってるんだ?」
「営業系とか企画系とかですけど、あんまぴんとくる会社がないんですよねぇ」
ばたり、と炬燵にうつ伏せた佐藤くんを横目に、ふむ。と考える。
佐藤くんは確か経済学部。佐藤くんがやりたいのは営業や企画系。うちが求めているのは販売などを委託できる人。
だけど、知らない人は面倒なのでいれたくない。
うん、いいじゃん、これ。
「君、うちに来ない?」
「……はい?」
こうして佐藤くんの就職が半ば強引に決まったのだった。
⸻⸻⸻⸻⸻⸻
「ちわーす」
「お疲れ様ー」
佐藤くんはあと一年大学があるため、大学とうちの掛け持ちという形で通ってもらっている。といっても、ほぼ単位は取り終わっているらしく、結構な日々通ってきてくれている。
「ねーねー、はるとー」
すっかり佐藤くんの存在にも慣れ(佐藤くんは気づいていない)、普通に生活しているある日のことだった。
「……子供?」
明らかに佐藤くんの視線がユウを捉えた。
「え、柏木さん結婚してましたっけ?」
「してないけど」
「え?誰のお子さんですか?」
「ん?……見えるようになったの?」
「え?」
なんでいきなり見えるようになった?先週までは見えてなかったよな?
俺が困惑していると、「おいはると、酒がないぞ」とミケが台所から歩いてきた。
「猫が喋ってる?」
「ん?なんだ?遂にこやつも見えるようになったのか?」
にやにやと笑ったミケを、佐藤くんは目を見開き凝視している。
「遂にって、ミケは気づいてたの?」
「気づくも何も。お主がなぜ見えるようになったか忘れたのか?」
「俺?俺はここに住んでから……あ……」
「気づいたか」
満足げに頷いたミケを他所に、俺は佐藤くんへ土下座することとなったのであった。
「……つまりはなんですか?ここの妖力に当てられて俺は妖が見えるようになったと」
「そういうことですね」
「へー。ずっといたんですか?この子達」
「冷静だね、佐藤くん」
普通、妖が見えるようになったらもうちょっと慌ててもおかしくないと思うんだけど、佐藤くんは順応するのが異常に早かった。
「いやー、どっちかっていうと納得ですかね?」
「なにが?」
「柏木さんが描く子たち、妙にリアルじゃないですか。それに限られた子達しか描かないし。なるほどなって感じです」
「そうかな?」
「そうです。新キャラとかのリクエストにもほぼ応えないじゃないですか」
「なんでだろうなーとは思ってたんですよ」と佐藤くんは楽しそうに笑って双子たちをじっと観察している。
「それに、たぶん俺の妹も見えるんです」
「妹?」
「そう。たまにじーっとどこかを見てる時があって。俺には見えないものが見えてんのかな、って思う時があるんすよね。だからかもしんないです」
「へー。そうなんだ……ん?」
佐藤……佐藤だよな……?
「あのさ、佐藤くんってもしかして綾ちゃんのお兄ちゃんだったり?」
「え、なんで知ってるんすか?」
そう言った瞬間だった──
「こんにちはー!ユウー!レイー!遊びに来たよー!」
「綾ちゃんいらっしゃーい!」
「今日は何して遊ぶ?」
バタバタと双子が玄関へと駆けていく。
「は?……は?」
状況が全く飲み込めていない佐藤くんを他所に、双子が綾ちゃんの手を引っ張ってリビングへと連れてくる。
「綾⁉︎ なんでここに⁉︎」
「お兄ちゃんこそ! 大学は⁉︎」
どうやら俺の勘は当たったらしい。
まぁ勘というほどのものでもないけれど。
「俺はここに就職決まってから手伝ってるんだよ!」
「え! お兄ちゃんの就職ってここだったの⁉︎ 言ってよ!」
「お前がここに来てるなんて知るわけないだろ!」
ぎゃーぎゃーと言い争う二人を見て、綾ちゃんって大人しいイメージだったけどお兄ちゃんの前ではこんな感じなのかぁ……と微笑ましく見守った。
しばらく言い争っていた二人だったが、綾ちゃんははっと気がついたように「すみません、柏木さん。こんな兄でいいんですか⁉︎」と尋ねてくる。
「いいもなにも、僕が頼んだんだし」
「お兄ちゃんすぐ変なもの拾ってくるし、気持ち悪いですよ!」
「お前、見えてるなら言えよ!」
「言えるわけないじゃん!お兄ちゃんの肩に女の人が乗ってるなんて!」
こうして、我が家に妖が見える人がまた一人、加わった。
それがどんな未来へ繋がっていくのか。
また一人、うちの子たちのことを覚えていてくれる仲間が増えて、俺は少し嬉しい気持ちになった。
明日(15日)の投稿はお休みします。
明後日またよろしくお願いします!




