第五話 ケサランパサラン
初評価頂きました、ありがとうございます!
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雲ひとつない快晴の空の下。
縁側では、赤と青の着物を揺らしながら双子が楽しそうに歌っている。その歌声を聞きながら、俺はせっせと段ボールを開けていた。
じんわりと額に汗がにじみ、開け放った窓から入ってくる風が心地いい。
真新しい内装の(外はボロボロだけど)我が家に、昔から使っている家具や画材が並び始め、少しずつ自分らしい家へと近づいていく。
「「やねよーりーたーかーい、こいのーぼーりー」」
「五月も終わりかけなんだけどなー」
思わず突っ込んでしまった俺の声は、双子には聞こえなかったらしい。
変わらず元気に歌っていたが、「おもしろそうに泳いでる」が「焼いたおさかなおいしいなー」に変わっていて、思わず突っ込んでしまった。
「食べるのかよっ」
笑いながら、次の段ボールへと手を伸ばす。
もともと荷物もだいぶ処分をしてきたから、そろそろ片づけも終盤だ。
最後の段ボールに入っていたのは、仕事関係の書類だった。分厚い書類の束を見た瞬間、ふとあることが頭をよぎる。
──そういえば、転入手続きをすっかり忘れてたな。
「役所行かなくちゃな……」
すると、いつの間にか目の前まで来ていた双子が、俺のシャツの裾をくいくいと引っ張った。
「はると、出かけるのー?」
「おでかけ?」
「んー。そうだな。一緒行く?」
「「行くー!」」
双子がおとなしくしていることが分かってからは、一緒に買い物など出かけることも増えた。
騒いだところで誰かに見られるわけでもなく、比較的自由にさせている。
「おでかけっ! おでかけっ!」
「楽しみだねー」
「すぐそこだぞ?」
財布とスマホをポケットに突っ込み、玄関を出る。
玄関に飾った双子の絵からこぼれた淡い風が、そっと俺の背中を押した。
だけど、猫たちに向かってぶんぶんと手を振る双子に気を取られていた俺は、それにまったく気づかなかった。
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「おめでとうございます!」
「……へ?」
手続きをした窓口で、嬉しそうに笑うお姉さんを俺はきょとんとした顔で見つめた。
【祝 移住者一万人】と書かれた花束を手渡され、つい受け取ってしまう。
パチパチという拍手に包まれながら、促されるままにフォトブースへと向かう。奥から現れた偉そうなおじさんと並ばされ、何枚も写真を撮られた。
どうやら、移住キャンペーンを始めてから、俺がちょうど一万人目の移住者だったらしい。
移住のきっかけや街の印象を聞かれ、適当に受け答えしているうちに市のキャラクターが描かれたグッズが詰まった紙袋を手渡され、遠慮なく受け取った。
中を覗き込むと、子供用のカトラリーまで入っていて、双子にちょうどいいな、と笑みがこぼれる。
「ありがとうございます」
「この街での暮らしが、幸せなものになりますように!」
かけられた言葉に、もう十分幸せだな、と自分らしくない感想が浮かぶ。そして、その幸せを運んできてくれた双子の姿を探した。
役所の奥にちらりと見えた赤と青の着物を目指して足を進める。
双子は古びた役所の階段から身を乗り出し、下の階を覗き込んでいた。
「手続き終わったぞー」
「はるとー、こっちー」
「こっちこっちー」
俺の姿を見ると、双子は俺に向かって手招きし、てててっと階段を駆け降りていく。
二人を追って階段を下りると、石造りの階段に、コツコツという足音が反響した。
上の階は人で溢れていたせいで気にならなかったが、地下へ降りるにつれ、役所の古さが色濃く残っているのが分かる。
人気もなく、まるで時間が止まったままのような不思議な雰囲気だった。
「おー、こりゃ凄いな」
この街には古い建物が多い。明治や大正の頃に建てられた建物が、当たり前のように使われ続けている。
過去に訪れたことがあり、そのレトロな街並みが記憶に残っていたことも、あの家に決めた理由の一つだった。
海の匂いが漂う港町。ゆっくりと穏やかな時間が流れるレトロな街。
そんな街の役所も、当然のように古い。
まるで戦時中の映画にそのまま出てきそうな廊下に、心が躍る。
というより、戦時中も役所として使われていた建物なんだから、当たり前なんだけど。
「こっちにねー、なんかいる」
「なんか?お前らが言うってことは、人じゃないだろ?」
「ふふん、せいかーい」
手を引かれるまま進んでいくと、廊下の隅にそれはいた。
まるで誰かが描いた綿毛の絵が、そのまま現実に飛び出してきたような、ふわふわとした白い塊。
え、知ってる。知ってるけど……まじ?
すんすんと小さく震えているそれは、幸運を運んでくる、と言われている妖、ケサランパサランにしか見えない。
もはやもう妖なのかも分からないけど、伝承じゃないのか?こいつ。
双子がしゃがみ込んでつつくと、ケサランパサランは嫌がるようにフルフルと身体を震わせている。
「こら、嫌がっているだろう」
名残惜しそうな双子を横目に、ケサランパサランへとそっと手を差し伸べると、助けを求めるかのように、すすすっと手の平へと乗って来た。その様子に、双子がむっと頬っぺを膨らませる。
そんな顔で見られても、俺のせいじゃない。
改めて観察すると、ケサランパサランは雪玉みたいに真っ白で、ふわふわしていた。
毛に絡まっていた埃を取ってやると、ありがとうと言うように、ふるふると身体を震わせる。
「こいつ、どうすんだ?」
双子を見ると、二人は笑顔で顔を見合わせ、大きく頷いてから俺を見た。
「「連れて帰るっ!」」
「……ですよねー」
知ってた。知ってたけど、一応聞いた。
ケサランパサランをレイの頭の上に乗せてやると、もぞもぞと髪へと潜り込み、自分から落ちないように体勢を整えている。
連れて帰られることに異論はないらしい。
「……まぁいっか。帰るぞー」
「「わーい!」」
ご機嫌となった二人の後ろを、ゆっくりとした足取りでついていく。
外に出ると、光を浴びるたびにふわふわとした毛がきらきらと輝いて見えた。




