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第四十五話 姿を変えた龍神さま


 俺が様子を窺うと、すっきりしたような顔をした龍神さまとあきれ果てた顔をした烏天狗が向かい合っていた。


「なんだ、烏天狗か」

「寝ぼけているのか?我の庭が台無しではないか」

「お主が起こすのが悪い。呼べば良いものを」

「起こしたところで起きないだろう?」


 拍子抜けするくらい穏やかに会話をしている二人に呆然としていると、「龍神、なぜ人間とともにいる?」と、不意に話の矛先が俺へ向いた。龍神さまの視線が俺を捉え、ふっと笑った。


「あやつはなかなか面白いぞ。周りの妖と神もなかなかの粒ぞろいだ」


 そう笑った龍神さまは、「来い、はると」と俺のことを呼んだ。呼ばれるがままに近くに行くと、俺を囲むようにしてぐるりと丸くなった龍神さまはそのまま目を閉じてしまった。


「寝られるんですか?」

「うむ。久しぶりに会ったからな。あとで話す」

「そうですか」

「もうちょっと寝る。烏天狗、話が終わったら起こせ」


 そう言うなり、龍神さまは本当に目を閉じて眠ってしまった。ボロボロの庭の真ん中で、気持ちよさそうに寝息を立てている。


「こいつ……自分のやった始末くらいせぬか。だから神々に怒られるのだ」


 呆れたようにため息を吐いた烏天狗が懐から真っ赤な葉を取り出した。よく見ると、うちの紅葉である。俺の視線に気がついた烏天狗はニヤリと笑った。


「この護符はいいぞ。力が込めやすい」

「良ければやり方を俺にも教えてください」


 護符なら絵しか描けない俺でも扱えるかもしれない。簡単に手に入る技ではないとは分かってはいたが、何となくいける気がして気づいたら口から飛び出ていた。

 

「人間がか?出来るとは思わんが……そういえばお主は神具を持っていたか?うーむ。それならいけるかもしれん……」


 ぶつぶつと呟いていた烏天狗が視線を上げ、俺を頭の先から足の先まで値踏みするように見つめてきた。


 ぞわり、と悪寒が背筋を走り、ぶわりと鳥肌が立つ。烏天狗が俺に何かをした──それだけは分かった。何をされたのかまでは、分からなかったが。


「今日は泊まりだな」

「……分かりました」


 どうやらお眼鏡に叶うことはできたらしい。教えてくれるらしく、ほっと息を吐き出した。


「よろしくお願いします」

「なに、八咫烏が世話になった礼よ」

「俺ではなく、助けたのは双子ですが」

「双子の家族なのだろう?お主は。では良いではないか」


 くつくつと楽しそうに笑った烏天狗は「屋敷に入るぞ。着いてこい」と言って身体を翻した。


「龍神さま、移動するって」

「むう?」


 片目だけ開けた龍神さまは、ボンッという音と共にぬいぐるみサイズの龍へと変化した。


「……は?」

「連れて行け」


 いきなり変化したサイズにポカンと口を開けていると、俺の様子には目もくれず龍神さまはまたぐーぐーと眠ってしまった。


「可愛いー! 龍さん小ちゃい!」

「赤ちゃんみたい!」


 キラキラと目を輝かせた双子が龍神さまを起こさないよう、俺はそっと腕の中へ龍神さまを抱き込んだ。


 覗き込むと、龍神さまはあどけない顔で眠っていてとても可愛い。


「このサイズならいつでも外に出れるのにな」


 俺の呟きを耳聡く拾った双子は、「後で頼んでみよ」「可愛いね! 龍神さま!」と顔を見合わせて嬉しそうに笑う。


 ――我が家は、ますます賑やかになりそうだ。


 そんな予感を抱きながら、俺は苦笑した。

 

 ⸻⸻⸻⸻⸻⸻

 

 広い和室の脇にずらりと八咫烏を並ばせ、その中央に烏天狗がどんと座っている。


 俺たちは横一列に並んで座り、双子たちはもぞもぞと身体を動かしている。リラックスしているのはただ一匹。

 俺の膝の上で丸くなって寝ている龍神さまだけだ。


 一度座布団の上に下ろしてみたが、「寒い」と言って俺の膝の上に戻って来てしまった。意外と寂しがりやなのかもしれない。


「この度はうちのものが世話になったな」


 烏天狗が頭を下げる。それに合わせ、八咫烏たちも一斉に羽を広げ、胸元で羽を重ねるように合わせて頭を垂れた。


 漆黒の軍団が一斉に頭を下げる光景は、ただただ圧巻だった。


「こちらこそ。無事でよかったです」

「八咫烏を保護した状況を聞いても?」


 そう尋ねられた俺は、八咫烏が道に倒れて怪我をしたこと。レイが家に連れ帰り手当てをしたこと。眠らせていたら先日烏天狗が来た時の様子を絵に描いたのを見て、騒いだことからここへ来たことを話した。


 黙って頷いていた烏天狗だったが、自分が描かれた絵のことを聞くと、興味深げに目を細めた。


「ほう。我の絵とな。どれ、今度見せてみよ」

「カァカァカァ!」

「そんなに良かったのか?」


 興味を示した烏天狗に、カー(八咫烏が沢山いるので俺もカーと呼ぶことにした)がカァカァと告げ口をした。


「ふむ。絵を一枚描いてくれ。そうだな、我の羽をやる」

「え⁉︎ いや、いいです、大丈夫です!」

「ありがたく貰っておけ。陽翔」


 絵くらい描くと断ろうとすると、隣のミケが口を開いた。


「お主は護符を習うのだろう。良い守りになろう」

「……分かった。ありがとうございます」

「なに、絵の対価だ。絵はここで描くか?」

「画材がないため、後日お届けします」


 そんな話をしていると、烏天狗が改まった顔をした。ピリリと引き締まった空気に思わず息を呑んだ。


「お主はなぜ八咫烏が怪我をしたのか知っておるのか?」

「……人間に捕まりそうになった、とは聞きました」


 正直そんなことをする人間がいるとは信じたくない。だが、妖たちが口を揃えてそういうのならばそうなのだろう。


 そんな人いるわけない──と言うほど俺もお人好しではなかった。


「八咫烏を捕まえようとする輩が最近多くてな」

「……なぜでしょうか?」

「お主は、天照結社という存在を知っているか?」


 烏天狗がそう言った瞬間、視界の隅でミケと月牙の肩がピクリと動いた。

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